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本物の心霊愛好家③

廃団地の屋上で夜風になでられるデーモン、コックリ、浮遊霊・貞枝さだえ、地縛霊・マサオ、現代妖怪・ゲミーさんことシゲミ。



デーモン「じゃ、始めようか。最後まで成仏しなかったヤツの勝ちでいいな?」


シゲミ「待って。正直に言わせてもらうけど、アナタたちみんな弱そうなのよね」



4体の視線がシゲミに注がれる。



シゲミ「即席の降霊術で呼び出されるような怪異と、一般人を殺して満足しているおじいさんの霊……チンケ過ぎる。私、プロの殺し屋なの。アナタたち全員がたばになってかかってきても負ける気がしない」


コックリ「言うねぇ」


貞枝「……だったら私たち4人をいっぺんに相手してもらおうじゃない?」


マサオ「啖呵たんかを切ったからにはやってもらうぞ」


デーモン「4体1ってのは卑怯な気もするが……そんなことどうでも良いくらい頭にきちまったよ」


シゲミ「OK。では始めさせてもらうわね」



シゲミはスカートの下、左太ももにベルトで括りつけた閃光手榴弾を手に取り、安全ピンを抜いて床に投げつけ炸裂させた。強い閃光が4体の怪異を包む。光が消えると同時にシゲミも姿をくらませていた。そして消えたのはもう1体。



マサオ「ゲミーと……コックリがおらん」


貞枝「早速成仏しちゃったようね」


デーモン「所詮は低級の動物霊だな。あの程度の光でやられちまうとは。イキリキツネが、情けねぇ」


貞枝「……で、どうする?作戦でも練る?」


マサオ「今ここで会ったばかりの我々が連携したとしても、むしろ付け入る隙を生むだけだろう。各自が単独で行動し、好きなようにやればええ」


デーモン「それがベストだな。オレも一人のほうが動きやすい」


マサオ「おそらくゲミーは団地のどこかに潜んでいるはずだ。だが心配ない。この団地はワシの家。構造は全て頭に入っとる。お前ら2人に大まかな構造を教えるから、有効活用せい」



−−−−−−−−−−



6階廊下

シゲミを探しながら、床から5cmほど上をふわふわと浮遊する貞枝。貞枝の目の前、605号室の扉が開き、扉の陰からシゲミが現れ手榴弾を転がした。手榴弾の爆発を後ろに下がってかわす貞枝。爆発によって生まれた煙を腕でなぎ払い、605号室の扉へ猛スピードで接近する。貞枝の両手の爪がメキメキと音を立てながら猫のように鋭く尖った。



貞枝「爆弾を使うようね!でも避けるのは容易なんだよぉ!」



シゲミは605号室の中へ逃げた。貞枝も後を追って室内に入る。部屋の奥、ベランダから飛び降りるシゲミ。シゲミを追撃しようと部屋の奥へ進む貞枝の視界に、月明かりを反射して光る線が何本も映った。線は宙に浮かび、シゲミが飛び降りたベランダへと伸びている。


室内のあちこちでピンッという金属音が鳴り、十数個の手榴弾が貞枝の足下に転がった。



貞枝「しまっ」



605号室が大爆破。玄関とベランダから爆炎が吹き出す。シゲミは2階層下にある405号室のベランダに着地。右手にワイヤーを握っている。ワイヤーは全て605号室に大量に仕掛けた手榴弾の安全ピンに結びつけられており、ワイヤーを引っ張ることでピンを一斉に抜き、室内に誘い込んだ怪異を爆殺するためのものだった。


405号室の中を通り抜け、扉を開けて廊下に出るシゲミ。次の準備をするべく、足音を殺しながら外階段に向かって走り出した。



−−−−−−−−−−



2階の廊下を歩いていたデーモンの耳に、上階で起きた爆発音が飛び込んでくる。



デーモン「また1体やられたか。ゲミーの野郎、なかなかできるようだな。プロの殺し屋ってのはウソじゃねぇのかも」



デーモンの視線の先、30mほど離れた廊下の突き当たりにシゲミが立っていた。デーモンと目が合ったシゲミは急いで階段を下る。


シゲミを逃がすまいと全速力で駆け出すデーモン。



デーモン「見つけたぞゲミーぃぃ!テメェの体をバラバラに引き裂いてウチの犬の餌にしてやる!」



走るデーモンの右足にワイヤーが絡まった。違和感を覚え、下を向くデーモン。



デーモン「Oh my goshやっちまった



ワイヤーとつながっていた手榴弾の安全ピンが抜けて爆発。デーモンの体をバラバラにして団地の外へ吹き飛ばした。



−−−−−−−−−−



屋上

団地内で響く戦闘音に耳を澄ませながら、仁王立ちをしているマサオ。



マサオ「……あせる必要はない。まずは貞枝とデーモンをゲミーにぶつけて、ゲミーの体力を削る。あとはじっくり時間をかけ、なぶり殺すだけ……団地のことはワシが一番良く知り尽くしている。普通に行動していたのでは気づかない死角もな。ゲミーよ、お前はワシの姿を見ることなく成仏するのだ」



マサオは「はっはっはっ」と高らかに笑う。



団地からおよそ100m離れた空き地。避難していたカズヒロたちと合流したシゲミは、団地を眺めながら左手に握った円筒形のスイッチを押す。団地の窓ガラスから爆炎が吹き出し、建物全体を猛火が包み込んだ。



シゲミ「逃げ回りながら、全ての階にC-4を仕掛けた……怪異バトルロワイヤル、ゲミーさんの勝ちね」


カズヒロ「シゲミー、やりすぎじゃねーのか?」


シゲミ「仕方なかったの」


トシキ「まぁ、あれだけたくさんの怪異が相手だったもんね」


サエ「消防車呼んどいたよ〜。近くに燃え移りそうなものはないけど、このまま放置はヤバいよね?」



想像を絶する光景を目の当たりにし、腰を抜かすヤマト。



ヤマト「す、すごい……怪異たちを手玉に取り成仏させてしまうなんて……シゲミさん!アナタこそ本物の心霊愛好家だ!僕が、僕が間違ってました!」



ヤマトは4人に向かって土下座をする。



ヤマト「心霊同好会の皆さんも、あんな光景を見て平然としているあたり……何度も経験しているのだと見受けます!」


サエ「週1くらいのペースかなぁ〜?全く褒められたことじゃないけどね〜」


ヤマト「生意気な態度を取って申し訳ありませんでした!そして、図々しいことは承知の上で、僕を皆さんの仲間に入れてください!このヤマト、心を入れ替え皆さんと一緒に活動をしていく所存です!」



顔を見合わせるシゲミたち。そしてシゲミがヤマトに向けて口を開く。



シゲミ「ヤマトくん、実験室でトシキくんのこと殴ったわよね?ウチの心霊同好会に暴力的な人は要らないの。だから却下」


ヤマト「そ、そんな……」



シゲミの発言に返す言葉が見つからないカズヒロ、サエ、トシキだった。



<本物の心霊愛好家-完->

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