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VS ポコポコ様①

PM 4:02

怪異調査機関「りょう市目鯖しめさば支部 応接室

支部長・歯砂間はざま リョウコから昼に電話で連絡を受けたシゲミは放課後、市目鯖支部へと直行した。緊急の依頼であり、電話越しでも歯砂間があせっているのが伝わってきた。実際に対面すると、いつもは呑気にお菓子を食べながら出迎える歯砂間が何も食べず、神妙な面持ちをしている。


ソファに腰掛けて向かい合う2人。歯砂間が口を開く。



歯砂間「単刀直入に言うね。邪神・ポコポコの存在を確認し、急遽『魎』で駆除することになった」


シゲミ「本当に急ですね。ポコポコが存在してるというのはデマの可能性が高かったのでは?」


歯砂間「そう思ってたんだけど、2日前に調査員がとある動画を見つけてね。ポコポコと名乗る少年が動画の撮影者を殺す一部始終が収められていた。フェイク映像である痕跡が確認できないことから動画を本物と見なし、今日の早朝に調査員4名と特殊部隊1個小隊を喉具呂のどぐろ島へ派遣。彼らから動画に映っていた少年を発見したと連絡があった。しかしその直後、音信不通になってしまった」



歯砂間はローテーブルの上に置いていたスマートフォンを手に取り、操作する。



歯砂間「今シゲミさんのスマートフォンにポコポコと名乗る少年の画像を送った」



ブレザーのジャケットの右ポケットからスマートフォンを取り出し、画像を見るシゲミ。若干不明瞭ではあるが、マッシュルームヘアで黒い甚平じんべいを着た少年の全身が映っている。



シゲミ「全員、ほぼ間違いなくこの少年に殺されたんでしょうね」


歯砂間「私も、『魎』の本部もそう考えている。調査員と特殊部隊員は武装していた。そんな人間たちを殺せるこの少年はただ者ではない。おそらく喉具呂島の島民失踪を引き起こした張本人でもある……そこで彼を邪神・ポコポコ本体だと断定し、本格的な駆除作戦を行うことになった。危険性を加味し、捕獲は行わない」


シゲミ「その作戦に私も参加しろと?」



うなずく歯砂間。



歯砂間「作戦決行は今夜9時。特殊部隊6個小隊、36名を派遣して島に奇襲を仕掛ける。現状ウチが割ける限界のリソース。ただこの人数でも不安が残るから、シゲミさんを加えて戦力を強化し、ポコポコ駆除の成功確率を高めようと考えている。引き受けてくれるかな?」


シゲミ「前にも言いましたが、報酬次第です」


歯砂間「1億。この金額も今ウチが用意できる限界。キミのお母様やお祖母様はこの金額では動いてくれないでしょ?」


シゲミ「……私は安く使える便利な駒というわけですか」


歯砂間「それはお金を出す本部の考え。けど私は違う。過去の貢献度から、アナタたち家族の中でシゲミさんのことを最も信頼している。今回シゲミさんの作戦参加を推したのは私。お母様でもお祖母様でも、妹さんたちでもなくシゲミさんにお願いしたかった」


シゲミ「……そこまで言われたら、やらざるを得ないじゃないですか」


歯砂間「ふふふ。勘違いしないでほしいのは、お世辞でも何でもなく私は心からシゲミさんを信頼してるということ」


シゲミ「わかりました。報酬は1億で構いません。ですが引き受けるにはもう1つ条件があります。今回の作戦、指揮は歯砂間さんが執ってください。私も歯砂間さんのことは信じます。が、『魎』という組織を信用しているわけではない。仮に歯砂間さんより偉い人の指示だとしても、言うことを聞く気はありませんよ」


歯砂間「その点は安心して。指揮を執るのは私。本部お得意の丸投げで、私に指揮件が委譲された。まぁ、本部の上役たちは怪異との戦闘に関するノウハウも実績もない、ただ会議してるだけの連中だから作戦の指揮なんて怖くてできないでしょうけど」


シゲミ「なら引き受けます」


歯砂間「ありがとう。急ぎで申し訳ないけど、2時間後には東京湾から船で出発する。それまでに準備を整えてほしい。集合場所はこの後すぐに連絡するから」



ソファから立ち上がるシゲミ。



シゲミ「承知しました。邪神・ポコポコ……相手にとって不足なし。全力で駆除します」


歯砂間「……シゲミさん、いつになくやる気ね」

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