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VS ポコポコ様⑤

目を覚ましたシゲミの視界に、見知らぬ天井が映る。病室のベッドの上にいた。ブレザーから入院患者用の服に着替えさせられている。上半身を起こそうとすると、胸から腹にかけて鈍い痛みが走った。



ハルミ「寝ておれ、シゲミ」



枕元で丸椅子に座る、迷彩柄の戦闘服を着たハルミが声をかける。ハルミに従って横になるシゲミ。



ハルミ「肋骨ろっこつが5本折れとるそうじゃ。邪神・ポコポコと戦って、むしろそれだけの傷で助かったのは幸運じゃな」


シゲミ「ババ上……私は……」


ハルミ「ポコポコの攻撃を食らって海に沈んだお前を『りょう』の職員が確保し、病院に搬送した。作戦は失敗だそうじゃ」


シゲミ「そう……」


ハルミ「トモミとキリミとサシミに、入院中必要な物を買ってきてもらっとる。お前はしばらく安静にしておけ」



シゲミは天井を見つめ、両手の拳を強く握りしめる。



シゲミ「邪神・ポコポコ……何をしても全く歯が立たなかった」


ハルミ「悔しいか?じゃが今は余計なことは考えず、回復に専念せい。お前が入院しとる間のことはアタシャらに任せておけばええ」


シゲミ「悔しい……というより腹が立つのは、私が生きていること。私は殺す気で臨んだのに、ポコポコはただの遊び相手としか考えていなかった。この意識の差は、実力差があるから生まれるもの」


ハルミ「シゲミよ、気に病むな」


シゲミ「……ババ上、私が退院したら鍛え直してほしい。ポコポコを仕留められるくらい強くなるまで」



「はぁ」とため息を吐くハルミ。



ハルミ「お前が生まれた日から十数年かけてアタシャが持つ殺しのイロハを全て叩き込んだ。今さら教えることなど何もない。そもそも一人の人間が、曲がりなりにも神を凌ぐことなど到底不可能」


シゲミ「でも」


ハルミ「最後まで話を聞け。強さとは個人の力だけを指す言葉ではない。特に人間の強さは、人間同士が協力し合うことで真に発揮されるもの。地球上の生物の中で人間が頂点に立てたのは、他の生物よりもハイレベルな協力ができたからこそじゃ」


シゲミ「協力……」


ハルミ「ポコポコにリベンジしたいなら、やるべきことは1つ。腕の立つ仲間を集めろ。集団での連携は、個の強さをはるかに凌駕する。もしかしたら邪神に対抗できるかもしれん」


シゲミ「私、集団行動が致命的に苦手なんだけど」


ハルミ「だからこそじゃ。お前が集団で戦えるようになれば弱点はなくなる。お前が追い求める強さにも大きく近づく。違うか?」



シゲミは数秒考え込み、口を開く。



シゲミ「ババ上たちは協力してくれないの?」


ハルミ「アタシャら家族は金をもらえなければ動かん。しかも安くはない。お前に用意できる金額でもない。充分にわかっとるじゃろう?」


シゲミ「そうだけど」


ハルミ「今回の作戦失敗を受けて『魎』はポコポコの駆除から手を引く可能性が高い。代わりに警察や自衛隊が出動するかというと、それも怪しい。得体の知れない怪異が相手である上、離島に隔離できているなら余計な犠牲を出さないよう攻撃しないという選択をするかもしれん。つまり金を払ってアタシャらとポコポコを戦わせようとする人間はもうおらんということじゃ」


シゲミ「お金をもらえなくても私は戦う」


ハルミ「ならばお前のことを信頼し、無償で命をかけてくれる仲間を探せ。もちろん怪我が治ってからじゃがな」



ハルミは椅子から立ち上がり、病室を後にした。


「仲間」という言葉がシゲミの頭の中をぐるぐると回る。今まで単独で戦いをこなしてきたシゲミには、仲間とはどんな存在なのか、誰が仲間になって戦ってくれるのかが具体的にイメージできない。しかし仲間がポコポコへの対抗手段になるのであれば何としてでも探し出してやろうと覚悟を決め、瞳を閉じた。



<VS ポコポコ様-完->

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