山間部の上空3000mを飛行するステルス爆撃機。そのコックピット内、横並びで座る、迷彩柄の戦闘服を着たハルミとサングラスを掛けた男性の操縦士。左側の座席にハルミが、右側の座席に男性が座っている。
男性「あと3分ほどで目的地上空に到着します」
ハルミ「よし。アタシャは降下の準備に入る。アタシャが機外へ出たら、付近に着陸し待機せよ。以降アンタは一切手出し無用じゃ」
男性「了解。行ってらっしゃいませ、
ハルミはヘルメットを脱いで座席を立つと、座席の下に収納していたパラシュートリュックを背負い、機体の後部へ移動する。男性が操縦席のボタンを押して、機体下部のハッチを開く。ハッチが開ききったと同時にハルミが空へと飛び出した。
目的地の村を視認し、急降下しながら接近するハルミ。途中、強い雨が降り始める。ハルミはパラシュートを開き、降下速度を落としながら村内に着地した。
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職員の案内で応接室に入るハルミ。ローテーブルを挟むよう左右にソファが2台並べられ、左側に老爺が腰掛けていた。老爺は灰色の和服に身を包み、オールバックにした白髪と胸元まである長いひげが顔の側面でつながっている。骸骨のように痩せ細り、今にも息絶えそうだ。
ハルミは老爺と向かい合うように右側のソファに座った。
老爺「遠路はるばるお越しくださり感謝いたします、ハルミ様。私は寅負愚村の村長。名前は
かすれた声に、開いているのかわからないほど細い目。ハルミよりもかなり高齢であることが予想できた。
ハルミ「失礼ながら、鬼戸さんのご年齢は?」
鬼戸「今年で189歳になりました」
ハルミ「それが本当なら、並みの妖怪より長生きしておりますな」
女性職員が応接室に入り、カップに入ったホットコーヒーをハルミと鬼戸の前に置くと、一礼して退室した。カップを手に持ち、口のほうへ運ぶ鬼戸。その手は震え、中のコーヒーがドバドバと溢れている。口に到達するころには、カップはほとんど空になっていた。
ハルミ「飲めてませんぞ。それに熱々のコーヒーが手にかかっておりますがな」
鬼戸「手が震えて飲み食いもままなりませんし、字もろくにかけません。ホットコーヒーが肌に触れても熱いかどうかさえわからない」
ハルミ「死ねとは言いませんが、今すぐ村長を引退なさったほうがいい」
鬼戸「私もそのつもりだったのですが、過疎化が進んでいる上、昨今の
ハルミ「……お互い、そう簡単にくたばれませんな」
鬼戸「全くです」
ハルミ「改めて依頼内容を伺えますか?」
鬼戸は空のカップをテーブルの上に置く。
鬼戸「はい。寅負愚村とその近郊は土地の特性上、昔から雨がよく降ります。私が幼い頃、親や祖父母からは『空高くに存在する
ハルミ「伝承の雷神が何かしらの理由で連日雨を降らせている……そう考えてらっしゃるのですか?」
鬼戸「伝承を信じている村民もおりますが、非現実的だと私は思っております。一方で1カ月間ずっと村の上空を雨雲が覆っているのも事実。こんな現象が起きているのは寅負愚村だけで、最も近い村や町では異常な雨は降っていないと聞きます」
ハルミ「奇妙ですね。怪異の仕業という可能性も捨てきれない」
鬼戸「雨により土砂崩れが発生し、村と大きな街をつなぐ道路も現在は通行ができなくなっております。その上、村内ではインフルエンザのような病が流行しており、先に申し上げた村長だけでなく村唯一の医師までも命を落としてしまい……このままだと寅負愚村は壊滅する。そこでハルミ様の力をお借りしたい。村を覆う巨大な雨雲の発生原因を突き止め、雲を払ってほしいのです」
ハルミ「過去にアタシャは、空をナワバリにする怪異を雲ごと消し去ったことがあります。雲の上から糞尿をまき散らす人型の、はた迷惑な怪異でした」
鬼戸「そのお話を聞き、ハルミ様にご依頼させていただいた次第」
ハルミ「……わかりました。ステルス爆撃機で上空から雲に向かってミサイルを撃ち込みます。ミサイルが爆破すれば雲も消え去るでしょうし、雲の中に怪異がいれば其奴も消滅するでしょう。そう難しくない。本日中に雨は解消できるはずです」
鬼戸「ありがとうございます。何卒……何卒この村をお救いくださいませ……」
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40分後
ハルミが一人でステルス爆撃機のコックピットに乗り、大空へと飛び立った。寅負愚村の上空に広がる雨雲を俯瞰できるよう、村から離れるように高度を上げていく。上空2000m、雨を降らせる黒雲の下部と同じ高さに到達した。
黒雲は煙突のように真っ直ぐ上に伸びており、上空7000mほどにまで達している。
ハルミ「横に広がらず、縦に伸びる雲か。異様な形じゃな。まるで寅負愚村だけを狙って雨を降らせているようじゃ」
ハルミはステルス爆撃機の高度をさらに上げながら、煙突雲の頂上を目指す。
ハルミ「ステルス爆撃機は雨に弱いからのぉ。雲の中に入るのは危険じゃな。高度8000mからミサイルを投下し、雲を払うとするか」
ステルス爆撃機が煙突雲の真上に到着。ハルミは
ミサイルを投下しようとした直後、煙突雲がもくもくと広がり、ステルス爆撃機を包み込んだ。