目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

漂流者

喉具呂のどぐろ島 港町

先日『りょう』によって行われたポコポコ奇襲作戦により、建物の大半が瓦礫と化している。


残った数少ない民家の1つ、その内側から玄関扉を蹴破り外に出るポコポコ。黒地で白いハイビスカスがプリントされたアロハシャツに、ベージュのチノパン姿。



ポコポコ「ずっと甚平じんべいってのもジジ臭いからなぁ。南国の若者らしいファッションにしてみた。どうやろ?」



民家の前にいた筆見ふでみ サツキが呆れた表情で口を開く。



サツキ「南国の若者ってより、チンピラっぽいよその格好。しかも一昔前のチンピラ」


ポコポコ「でも甚平より現代に近づいたやろ?それにオレ、チンピラみたいなもんやし」


サツキ「まぁね」


ポコポコ「んじゃ、早朝の浜辺散歩といこかー」


サツキ「……なんかさぁ、喉具呂島に来てから毎日何もしてない気がするんだけど」


ポコポコ「そうか?メシ食って昼寝して、夜通し飲み会してるやん」


サツキ「そうじゃなくて!もっと人に褒められるような生産性のあることがやりたいの!ポコポコくんも神様なら人の役に立とうとか思わないの!?」


ポコポコ「神様ってのは何もしないもんなんや。人間が勝手に何かしてくれると思い込んでるだけ」


サツキ「……なんか釈然としないなぁ」


ポコポコ「モヤモヤするときこそ散歩や散歩!朝飯も獲ってきたるわ。ホオジロザメ食おうぜ」



浜辺へ向かい歩き出すポコポコ。その数歩後ろを着いていこうとするサツキだが、ポコポコに右腕で制される。



サツキ「あれ?どうしたのポコポコくん?」


ポコポコ「……浜辺に変なのがおるなぁ。ここから700mくらい離れとるが、邪気を感じる。なかなかの量や」



ポコポコはしゃがむと大きくジャンプし、2階建ての民家の屋根に乗る。サツキはポコポコが乗った民家の玄関から中に入り2階へと上り、ベランダに出た。ポコポコがサツキに手を差し伸べ、屋根の上へと引き上げる。



ポコポコ「サツキちゃんの視力で見えるか?砂浜に打ち上げられとるあの漂流者」



サツキはズボンの右ポケットからスマートフォンを取り出し、ポコポコが指さしたほうをカメラでズームする。波打ち際に全裸の男性がうつ伏せで倒れているのが見えた。ぶくぶくに膨れ上がった色白の体に、ショートカットの金髪。おそらく日本人ではない。



サツキ「ほんとだ……助けないと!」


ポコポコ「アカン。さっき言った変なヤツってのがアレや。おびただしい邪気を放っとる。オレならともかく、サツキちゃんが近寄ったらひとたまりもないで」


サツキ「だけど」


ポコポコ「心配せんでええ。アレは人間の見た目をした怪異や。漂流者を装って人間を誘き出し、殺そうとしとる」


サツキ「人間の見た目をした怪異……漂流者を装う……まさか」



サツキはスマートフォンのカメラアプリを閉じ、検索エンジン開いて文字を入力する。検索してたどり着いたのは、サツキがライターを務めるオカルト雑誌『パラノーマル・スクープ』のオンラインページ。



サツキ「多分これだ……前に特集記事を書いた『漂流死体ジョン・ドウ』。何百年も前から世界中の海を流れているという男性の水死体で、ごく稀にどこかの陸地に漂着する。そしてその地に災いをもたらし、近くに住む人々や海辺の魚、鳥が大量死する……」


ポコポコ「全部アイツの強過ぎる邪気が原因やな。邪気は生き物にとって毒ガス同然。オレも本気を出せば邪気だけで近くの生き物を殺せる。ジョン・ドウってヤツは邪気を垂れ流す、まさに毒ガス兵器や。アイツとは友達にならんほうがええなぁ」



屋根から地面に飛び降りるポコポコ。



ポコポコ「オレはジョン・ドウを何とかするから、サツキちゃんはここで待っててなぁ。絶対に浜辺に近寄ったらアカンでぇ」



ポコポコは猛スピードで駆け出した。



−−−−−−−−−



喉具呂島 浜辺

水面に魚が何百匹も浮かび、空を飛んでいたカモメが海に落下する。打ち上げられた全裸の男、ジョン・ドウを中心に、まるで環境汚染が急速に進んだかのような光景が広がっていた。


ポケットに両手を突っ込みながらジョン・ドウに歩み寄るポコポコ。



ポコポコ「おーい、兄ちゃんよぉ。日焼けなら別のビーチでやってくれんかねぇ?迷惑なんだわ」


ジョン「……」


ポコポコ「シカトすんなや。意識はあるんやろ?それにオレがただの人間やないこともわかってるはずや。お前に接近して普通にしてる人間、今までにおったか?」



砂の上に伏せていたジョンの頭がぐるりと回転し、顔がポコポコのほうを向く。眼球に黒目がなく、顔の穴という穴から水が流れ出ている。



ジョン「助けて……くれ……何日も海を漂い……飲まず食わずで……」


ポコポコ「演技しても無駄や。お前の正体も魂胆もわかっとる。オレには通用せぇへん。そもそもお前を助ける気なんて全くないで。おとなしくここから立ち去ってくれたら、手荒なことはせん」



ジョンは数秒沈黙すると、大きく口を開けた。ジョンの体からドス黒い邪気が大量に放出され、開いた口の前に集まる。そしてボーリングの球くらいの大きさに凝縮された。



ポコポコ「何を」



凝縮された邪気がレーザー光線のように射出され、ポコポコの右頬をかすめた。邪気は港町にある2階建ての旅館に当たり、2階の部分だけを削り取るように消し去った。



ポコポコ「ほう……」



再びジョンの口元に邪気が球状に集まり、ポコポコ目がけて射出される。今度はポコポコの足下に着弾し、大きな砂煙を上げた。ポコポコはバック宙を3回して後退し、爆風をかわす。



ポコポコ「動かずに攻撃するとは横着なヤツやなぁ。でもオモロイ邪気の使い方するやん。どうやってやるん?」



邪気を口に集め、3発目を放つジョン。ポコポコの腹部を目がけて飛ぶ。ポコポコも邪気を体に鎧のようにまとい、邪気のレーザー光線が当たる寸前で軌道を90度真上に逸らした。邪気のレーザー光線が通過した上空の雲が霧散する。



ポコポコ「うむ。やり方は概ね理解した。こんな感じやろ?」



ポコポコはジョンのほうに顔を向け、大きく縦に口を開く。ポコポコの体を覆っていた邪気が口の前に集まり、ドス黒い球体を形成した。


球体から邪気のレーザー光線が放射される。ジョンが放ったものより何倍も太く速い。ポコポコが放った邪気のレーザー光線はジョンの体を飲み込み、海の水をえぐりながら5km先の沖合まで到達。停泊していた海上保安庁の巡視船艇じゅんしせんてい右舷うげんに当たり、船体を爆破させた。


ポコポコが放った邪気が消失する。ジョンの体も肉片一つ残らず消えていた。



ポコポコ「……迷惑なヤツやったけど、ええ技見せてもらったわ」



<漂流者-完->

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?