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圧力②

小太りの中年男性は「失礼するよ」と一言口にし、歯砂間はざまが座るソファの右隣に立つ。男性の後ろには、黒いスーツを着てサングラスをかけた長身の男が2人。



歯砂間「駒野こまの……さん。本部の方が支部に何のご用です?」



駒野と呼ばれた中年男性は、両の口角を大きく吊り上げた。



駒野「視察だよ。最近、歯砂間支部長がおかしな動きをしていると職員数名から報告があってね。ポコポコについて嗅ぎ回っているそうじゃないか」


歯砂間「1000人近くいる職員のうちたった数名の報告だけで疑われるとは、心外ですね」


駒野「正確には927名だ。キミが指揮したポコポコ討伐作戦の失敗により42名を失った。まぁそんなことどうでもいいか。私にも立場があるのでね。少数であっても部下からの報告をないがしろにするわけにはいかんのだ。あくまで形だけの視察だよ。歯砂間支部長のことを疑っているわけではない……が、それはこの応接室に入る前までの話」



シゲミたちのほうに視線を向ける駒野。



駒野「本部の許可なくこんなに大勢の殺し屋を集めていると、つい疑ってしまうなぁ。市目鯖しめさば支部が爆弾魔シゲミを重用していることは知っているが、他に殺し屋が3人も……一体何をしようとしているのかなぁ?」



皮崎かわさき鷹見沢たかみざわ、キョウイチが右手を挙げる。



皮崎「私は教師です」


鷹見沢「パン屋です」


キョウイチ「空手家です」


駒野「キミらが怪異専門の殺し屋でないならさらに怪しく感じる。部外者を招いて何をやるつもりなのかね、歯砂間支部長?」



歯砂間を見下ろす駒野。歯砂間は眉間に薄くしわを寄せ、見上げるように駒野をにらむ。



歯砂間「すみません、今は私用で応接室を使っていました。普段お世話になっているシゲミさんを私の家に招いて手巻き寿司パーティをしようと思っていたんです。シゲミさんの知り合いも招待して。どんな具材を用意しようか話し合っていました。今後、職場の私的利用は控えます」



数秒沈黙し、大きな笑顔を作る駒野。



駒野「そうだったか。もしかしたらキミを含めたこの5人でポコポコを仕留めようと作戦会議でもしているのかと思ったよ。疑って悪かった」



駒野は顔を歯砂間の右耳に近づけ、ささやく。



駒野「本来ならお前は、ポコポコ討伐作戦が失敗した時点でクビが飛んでいた……少しは身の振り方を考えたほうがいい」


歯砂間「お気遣いどうも」


駒野「またポコポコに手を出そうとしているならやめておくことだな。今のポコポコの行動は『りょう』にとって追い風。お前が出した損失を埋め、さらに成長する絶好のチャンスなのだ。その風を遮るような真似をしたら……お前は近いうちかもな」



奥歯を強く食いしばる歯砂間。



駒野「勘違いするなよ。これは脅しではない。今まで『魎』に貢献してくれたお前への温情だ。もし本気でお前のクビを切ろうと思えば、警告なく行っている」



駒野は姿勢を正し、歯砂間の右耳から顔を離す。



駒野「では私は帰ろう。市目鯖支部のおんぼろビルはホコリ臭くて私には合わん。やはり本部は快適だな」



駒野は取り巻きの男性2人とともに応接室を後にした。黙り込む歯砂間に向かってシゲミが口を開く



シゲミ「誰です?あの嫌みな人」


歯砂間「駒野っていう『魎』の理事だよ。私がポコポコの情報を集めていることに勘づき、やめるよう圧力をかけてきやがった」


シゲミ「邪魔なら私が消しますけど?」


歯砂間「いや放っておいて構わない。あのオヤジは偉いだけで自分じゃ何もできないから。それに私はクビになるどころか、命を落とす覚悟でポコポコを仕留めようと思ってる。今さらどんな脅しをされても屈する気はないよ」



歯砂間の意思が固いことを改めて感じ安堵するシゲミ。皮崎、鷹見沢、キョウイチは小さく笑顔を浮かべる。



歯砂間「早速、作戦を練る。みんなの技能について教えてほしい」



−−−−−−−−−−



2日後 PM 7:31

東京都内某所

Shachihoko Bakeryシャチホコ ベーカリー』での勤務を終え、灯りが消えた店の入口扉から外に出る鷹見沢。扉を閉めて歩き出すと、鷹見沢の行く手を遮るように黒スーツの男性が立ち塞がった。



鷹見沢「……何か?」


男性「私は怪異調査機関『魎』に所属する調査員です。鷹見沢さん、アナタにお話があって来ました」


鷹見沢「歯砂間さんの指示っすか?」


男性「いいえ」


鷹見沢「なら話すことは何もないっすね」



男性は右手でスーツのジャケットを広げ、鷹見沢に内側を見せつける。男性の右脇、ショルダーホルスターに拳銃が入っていた。



男性「できれば私にを使わせないでいただきたい」


鷹見沢「物騒っすね……歯砂間さんをコントロールできないから、俺に接触してきたってわけっすか」


男性「素性を調べ、アナタが最もぎょしやすいと判断しました」



再びジャケットで拳銃を隠す男性。



男性「我々の目的は脅迫ではなく交渉です。条件が飲めなければ断っていただいても構いません。が、話すら聞いていただけないのであれば、アナタの眉間に風穴が空く」


鷹見沢「……いいっすよ。場所を移しましょうか。手短にお願いしますね」


男性「ありがとうございます。アナタにとって悪い条件ではないはずだ」



<圧力-完->

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