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圧力①

PM 9:04

市目鯖しめさば高校 空手道場

畳の上で一人、正拳突きをするキョウイチ。入口の鉄製の扉が3回ノックされ、シゲミが入ってきた。近づくシゲミに気づき、キョウイチは正拳突きを止める。



シゲミ「こんなに遅くまで練習してるのね」


キョウイチ「こんなに遅くまで?甘いなシゲミさん。あと11時間やる予定だ」


シゲミ「体だけじゃなく頭もおかしいようね」



キョウイチの練習量に面食らったシゲミだが、気を取り直して本題を切り出す。



シゲミ「キョウイチくんにお願いがあって来たの。ポコポコという怪異がいて」


キョウイチ「自分が倒す。ソイツのところに案内してくれるか?」


シゲミ「話がスペースシャトル並みに早くて助かるわ。けど今回はキョウイチくんだけじゃなく、私を含めた複数名での討伐作戦になる」


キョウイチ「なるほど……押忍おす!いいだろう!しかし、できれば敵とサシで戦う機会を作ってもらいたい」


シゲミ「……検討しておく。明日の授業が終わったら、作戦遂行メンバーと顔合わせを行うの。そこに参加してくれるかしら?」


キョウイチ「無論」


シゲミ「じゃあ校門前で待ち合わせましょう。よろしくね」



−−−−−−−−−−



翌日 PM 4:35

怪異研究機関『りょう』市目鯖支部 応接室

ソファに座るシゲミ。その右隣に皮崎かわさき鷹見沢たかみざわ、キョウイチの順で横並びに腰掛けている。3人ともシゲミに連れられてきた。向かいのソファには、小さいビニールで小分けにされたアンドーナツをむさぼる支部長・歯砂間はざま リョウコ。



歯砂間「これがシゲミさんの仲間たちね。みんな良い面構えをしてる」


シゲミ「私には3人集めるのが限界でした」


歯砂間「いや充分。数が多けりゃポコポコに勝てるわけじゃないってのは前回の作戦で学んだから。今回は少数精鋭でいきましょう」


皮崎「精鋭……そこまで期待されると萎縮しちゃいます」


キョウイチ「先生、堂々といきましょう!」


鷹見沢「そうっすよ。俺たちはシゲミさんが選りすぐった精鋭っす」



歯砂間はシゲミたち4人にそれぞれ1個ずつアンドーナツを渡す。



歯砂間「これから私たちは命を預け合うチーム。ポコポコ打倒という1つの目標に向かって頑張りましょう」



自分の分のアンドーナツを口に入れる歯砂間。歯砂間に続いてシゲミたちもそれぞれ手に持ったアンドーナツを口に入れ、咀嚼し、飲み込んだ。



歯砂間「できれば今日からポコポコを倒す作戦の立案に入りたい。まず私とシゲミさんで各自の技能をもとに作戦を立てる。その後、作戦を遂行するための演習を全員で実行。2週間以内に形にしたい」


シゲミ「2週間という期日の根拠は?」


歯砂間「強いて言うなら勘」


シゲミ「勘……」


歯砂間「今まで喉具呂のどぐろ島から1歩も出なかったポコポコが島外に進出して、各地で怪異を片っ端からたたきのめしている。今は民間人に被害は出ていないけど、ポコポコの矛先がいつ人間に向くか予想ができない」


シゲミ「喉具呂島近海を海上保安庁の船が囲んでポコポコを隔離していたのでは?」


歯砂間「空を飛んで出て行ったんだって」


シゲミ「ポコポコって飛ぶんですか。まぁ今さら驚かないですけど。ポコポコが他の怪異を狙う目的は何ですかね?」


歯砂間「わからない。全く行動が読めないから、できる限り早く始末したい。かつ私たちの準備期間も確保する。その目安が2週間!確証はなし!」


シゲミ「……わかりました」



鷹見沢が右手を挙げる。



鷹見沢「あのぉ、ちょっといいっすか?ポコポコが怪異だけを狙ってる間は野放しにしてもいいんじゃ?人間に危害を加える怪異も倒してくれてるとしたらメリットは大きいし、俺たちが演習を行う時間ももっと長く取れると思うんすけど」


歯砂間「『魎』の上層部は鷹見沢くんと同じ意見みたい。現に最近『魎』はポコポコにぶちのめされた怪異を何体も簡単に捕獲できている。まさに棚ぼた状態。性懲りもなく『ポコポコを引き入れて怪異の駆除に使う』なんて言い出してるヤツもいるくらい」


鷹見沢「もしポコポコが納得し、協力してくれるなら選択肢としてアリだと思うんすが……極論、俺たちが命を張る必要もなくなりますし」


歯砂間「そんな理屈が通用しない相手だから始末しようと私たちが動いてる。ポコポコの力を直接見た人間だからこそ、その異常性がわかる……だよね、シゲミさん?」


シゲミ「ええ。平和的な解決は無理だと思ったほうがいいわ」



唇を前に突き出し、しょぼくれた表情をする鷹見沢。



歯砂間「ポコポコの標的が怪異に向いている状況を楽観視できないというのが私の考え。さっきも言ったように、ヤツが人間にターゲットを変える前に始末する。たとえウチの上層部が何と言おうとも、私は考えを変えない」



歯砂間の言葉の直後、応接室の入口扉がノックもされずに開く。部屋の外から小柄で小太り、灰色のスーツを着たバーコード頭の中年男性が、両手を後ろに組みながら入ってきた。

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