およそ1週間に及ぶポコポコの友達作り計画は難航していた。
AM 0:44
東京都内某所 繁華街
居酒屋や夜の店で繁盛している大通りから1本奥に入った裏通りを並んで歩くポコポコとサツキ。道の左右に立ち並ぶ店のほとんどが個人経営の飲食店で、すでに営業を終え静まり返っている。
サツキ「
ポコポコ「アイツらはたぶんオレの根強いアンチやろな。有名になるほどアンチも増えるもんや。だがアンチの存在を許すわけちゃうで。見つけたらきっちりボコる」
サツキ「まぁ、私は伝説の怪物をこの目で見られるだけで満足なんだけど」
ポコポコ「オレは満足できん!友達にならんと!で、次に当たるのは……人面犬やったな?」
サツキ「そう。夜の都会に出没する人間の顔をした犬。東京の都心に野良犬はほとんどいないから、居たらすぐわかると思う」
ポコポコ「じゃ、アイツやな」
ポコポコはアゴで前方を指す。5mほど離れたゴミ集積所でゴミ袋を漁る犬が一匹。後ろ姿しか見えないが、大きさや小麦色の体毛からして柴犬だと思われる。
犬の真後ろに立つポコポコとサツキ。2人の気配に気づき、犬が振り返った。耳から先が人間の顔をしている。しかしサツキのイメージしている人面犬の顔とは異なっていた。かなり若く色白で、整った顔立ちをしている。もっと
人面犬「……どなたですか?」
ポコポコ「オレはポコポコっちゅうもんや。こっちは友達のサツキちゃん」
サツキ「どうも」
人面犬「ポコポコ……だいぶ珍妙な名前をされていますね」
ポコポコ「あれ?オレのこと知らんの?怪異のくせに」
人面犬「申し訳ありませんが、存じ上げません」
ポコポコ「お前、何年目や?」
人面犬「何年目?」
ポコポコ「怪異やって何年目やと聞いとる」
人面犬「生まれたときからこの姿なので……4年目ですかね」
ポコポコ「バリバリの若手やん。ほんならオレのこと知らんでもしゃーないな」
サツキ「ちょっと待って。4年って……人面犬は30年以上前から目撃情報があるはずだよ」
人面犬「それはおそらく僕の父か祖父ですね。僕の家系は父方が人の顔をした犬で、昔は有名だったと聞きました」
サツキ「あっ、遺伝するんだ」
ポコポコ「まぁ何でもええわ。おい人面犬、オレと友達になってくれや」
人面犬「友達?それって僕に何かメリットあるんですか?」
サツキ「返事が最近の子供っぽい……」
ポコポコ「オレは怪異の親玉みたなもんや。人間はもちろん、並みの怪異じゃオレには勝てん。つまりオレと一緒にいればお前の身も安全ってわけや。深夜にゴミを漁ってたってことは、お前は人間社会に紛れてコソコソ暮らしとるんやろ?オレといればそんな生活ともおさらばできるで」
人面犬「たしかにメリットですね。僕は顔が人間という以外、他の犬と大差ありません。周りに危険は多いので守ってくれる人がいるのはありがたい……しかしそれだけでは友達になる気は起きませんねぇ。僕はこうして一人でも生きてこられましたから」
数秒考えるポコポコ。そして何かを思いついたように、右手の人差し指をピンッと伸ばす。
ポコポコ「オレら
人面犬「マグロ!?」
人面犬の尻尾が上に高く伸びる。
人面犬「マグロ……寿司屋近くのゴミ捨て場を漁っても滅多にありつけないご馳走……」
ポコポコ「マグロだけちゃうで。カツオにヒラメ、それから貝、カニ、エビ、なんでも獲れる」
人面犬「なんでも!?」
口から滝のようによだれを垂らす人面犬。
人面犬「あ、あれは獲れるんですか……?う、う、うううう……」
ポコポコ「ウツボ?」
人面犬「そうウツボ!」
ポコポコ「もちろん獲れるで。オレが何百匹でも獲ってきたる」
人面犬「その話乗った!なりますよ僕!アナタの、いやポコポコ様の友達に!」
サツキ「ウツボが決め手になった」
ポコポコ「よっしゃ!これで2人目の友達ゲット!人面犬、お前名前はあるんか?」
人面犬「
サツキ「キラキラネームだ」
ポコポコ「樹騎矢やな。よろしゅう。島で仲良くスローライフといこうや」
樹騎矢はポコポコの左足に頬をこすりつける。
ポコポコ「この調子でバンバン広げるでぇ!友達の輪!」
サツキ「ここまで88体の怪異と会ってようやく1体……先が思いやられる……」
<友達作り-完->