実験用の大きな机を囲んで座り、談笑するカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。その最中、実験室の扉が開き一人の生徒が入ってきた。市目鯖高校の「お嬢様」ことアヤコ。頭の左右にぶら下げたチョココロネのようなツインテールを揺らしながら、シゲミたちに近寄る。
アヤコ「
シゲミ「こんにちは、アヤコちゃん。何かご用?」
アヤコ「アナタに出場してもらいたい大会があるの……『サド-1・コロシアム』。正式名称は『サディストナンバー1・コロシアム』」
シゲミ「何それ?」
アヤコ「私のパパの会社が協賛している大会でね。全国各地から集めたサディストを戦わせ、最強のドSを決めるというイベントよ」
トシキ「ドS!?」
アヤコ「シゲミ、怪異と戦うアナタを見て確信したことがある。アナタは生粋のサディスト。だからコロシアムに推薦させてもらったわ」
シゲミ「……私に拒否権はないの?」
アヤコ「ない。なにせ参加者がまだ少なくてね。一人でも多く集めなきゃってパパが嘆いてたから」
シゲミ「具体的に何をする大会なの?」
アヤコ「参加者同士の殺し合い。手段は問わず。最後まで生き残った一人がサド-1・コロシアムの初代優勝者として賞金5万円を獲得できる」
サエ「殺し合いして5万ってしょっぱ過ぎ〜。そりゃ参加者も集まらないわ。てかさぁ、人いないならアヤコが出場すればいいじゃん」
アヤコ「それはできない。なぜなら私は可愛さゆえに大会のキャンペーンガールに選ばれてるから!」
サエ「あ〜そう」
カズヒロ「そもそも、そんな危ない大会が公的に認められてるのかよー?」
アヤコ「いいえ。この国を裏から牛耳る権力者だけが観戦できる闇の闘技場で開催する非公式の大会よ」
カズヒロ「ヤバ過ぎるだろー」
トシキ「シゲミちゃん、いくらキミがサディストでもこんな大会には参加しちゃダメだよ!」
アヤコはスカートの右ポケットから取り出した札束でトシキの左頬を思い切り引っ叩く。
アヤコ「口を挟まないでくれるかしら、トシキくん」
トシキ「なんて重いビンタだ……あの札束、200万円はあるぞ」
アヤコ「シゲミ、アナタは強い。けれど、私が推薦した参加者が負けるなんてことは私のプライドが絶対に許さない。そこで今週の日曜日、私が選りすぐった市目鯖高校のサディストたちによる予選を開催するわ。シゲミにもこの予選に参加してもらう。勝ち残ったら晴れて本戦に出場」
眉間にシワを寄せるシゲミ。
シゲミ「ウチの高校の人たちと戦わなきゃならないの?なおさらやる気が出ないんだけど」
アヤコ「言ったでしょ?アナタに拒否権はないと。必ず参加してもらうわよ。日曜日の朝9時半に体育館集合。10時から戦闘開始。カズヒロくんたちも予選なら観戦してもらって構わないわ。ということで、さらば!」
アヤコは高笑いをしながら化学実験室から出て行った。呆然とするシゲミたち。
サエ「アヤコのやつ、マジで頭イってんなぁ〜」
カズヒロ「どうするんだよー、シゲミ」
シゲミ「面倒だけど、参加するわ」
トシキ「でも殺し合うってことは、参加者から死人が出るってことでしょ?シゲミちゃんは死なないと思うけど他の人が……」
シゲミ「安心して。私が参加する目的は死人を出さないようにすること。殺傷能力がほぼない閃光手榴弾を使って他の参加者を全員無傷で制圧するわ」
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日曜日 AM 9:55
市目鯖高校 体育館
2階部分にあたるギャラリーに登ったカズヒロ、サエ、トシキ。観戦者は他に5人の女子生徒と、1人の中年男性のみ。全員、体育館中央で向かい合う、アヤコによって集められた4人のサディストを見下ろしている。
カズヒロ「俺ら以外に来てるのは教頭先生と……茶道部の女子だけだな。注目度低過ぎるだろー。ニーズあんのか?サド-1・グランプリ」
トシキ「仕方ないよ。せっかくの日曜日、有意義に過ごしたいと思う人が大半さ。僕たちもわざわざ休みの日に学校に来たんだ。有意義な1日にしようじゃないか」
トシキはカズヒロとサエから離れ、茶道部の女子たちに近づく。
トシキ「初めまして、茶道部のみなさん。僕は2年F組で心霊同好会所属のトシキ。これから凄惨な戦いが目の前で繰り広げられるのだから、僕たちだけでも友好的に」
女子の一人が茶道用の茶碗でトシキの頭を殴った。茶碗は粉々になり、トシキの頭から血が流れる。
女子「気安く話しかけんじゃねーよこのサナダムシ」
血まみれのまま、黙ってカズヒロとサエのところに戻ってくるトシキ。
トシキ「どういうこと?」
サエ「トシキ知らないの〜?ウチの茶道部のウワサ」
トシキ「ウワサ?」
カズヒロ「他校の茶道部に練習試合という名のカチコミをかけて皆殺しにし、お茶の代わりに生き血を飲む武闘派集団だそうだ。ヤクザも道を譲る狂犬どもの集まりらしいぜー」
トシキ「そうなんだ。無知というのはここまで恐ろしい事態を招くんだね。良い学びになったよ」
体育館に設置されたスピーカーからアヤコの甲高い声が流れる。
アヤコ「レディース&ジェントルメン!お待たせしましたぁ!これよりサド-1・コロシアム市目鯖高校予選の開幕だぁぁぁっ!実況・解説は私、『お嬢様』こと2年A組アヤコがお送りまーす!」