体育館内にアヤコのアナウンスが響き続ける。
アヤコ「さぁ皆さん!体育館の真ん中にご注目!予選に参加する4人のサディストたちを紹介するぞぉぉぉっ!」
カズヒロたち、ギャラリーに集まった面々が体育館の中央を見下ろす。
アヤコ「まずは大本命!怪異専門の殺し屋としてその名を知らぬ者なし!爆弾魔シゲミィィィッ!」
スクールバッグを左肩にかけたシゲミは、黙ったまま直立している。
アヤコ「続いて、2年生で私と並び最高のビジュアルを持つと言われる女子!武闘派茶道部の主将にして裏の顔は大量殺人鬼!『リオ the チェーンソー』こと2年F組のリオォォォッ!」
リオは手にしたチェーンソーのストラップを引っ張り、エンジンをかける。
トシキ「ヒィィッ!」
チェーンソーを構えるリオを見て、ギャラリーにいたトシキの顔が青ざめる。
アヤコ「3人目は我が
前頭部から頭頂部にかけて禿げ上がり、てっぺんから3本だけ髪が生えた茶色いスーツの初老男性、磯野が胸を張りながら口を開く。
磯野「サディズムとは人間における上下関係の中でこそ生まれやすい。つまりこの学校の頂点に立つ私こそ最もサディストなのだ!わかったか?このたわけ者ども!」
教頭「いいぞー!校長先生ー!その意気ですー!」
ギャラリーで磯野のことを応援しているのは教頭のみ。
アヤコ「そして最後に紹介するのは、さっき正門前でスカウトした焼き芋屋さん・
芋爺と紹介された男性はリヤカー式の屋台を引いている。屋台の屋根からぶら下がる「焼き芋」と書かれた提灯が赤く光る。
芋爺「おっちゃんの焼いた芋、いっぱい食べていきなさいねぇ」
カズヒロ「誰だよ」
アヤコ「さぁ、選手紹介は終了ぉぉぉっ!次にルール説明だぁっ!フィールドは体育館内!武器は何でも使用可!制限時間なし!誰か1人が生き残るまで戦い続けろぉぉぉっ!」
サエ「野蛮すぎ〜」
アヤコ「前置きはここまでぇっ!それでは始めましょう!サド-1・コロシアム市目鯖高校予選……スタートォォォッ!」
アヤコの開始宣言とともにシゲミはスクールバッグから閃光手榴弾を取り出し、自身の背後で炸裂させる。強い光が体育館中を包んだ。
アヤコ「シゲミの先制攻撃ぃぃぃっ!閃光手榴弾で視界を奪う作戦だぁぁぁっ!」
光が消える。磯野と芋爺は両目を手で押さ悶えていた。唯一リオだけは怯むことなくチェーンソーの刃を回転させながら真っ直ぐシゲミに接近して斬りかかる。頭上から振り下ろされた刃を後方にジャンプしてかわすシゲミ。
シゲミは見逃さなかった。閃光手榴弾を炸裂させる寸前、リオがチェーンソーの刃を顔の前に持ってきて光を遮るのを。
リオは立ち止まり、チェーンソーの先端をシゲミに向ける。
リオ「2年C組のシゲミ……お前がこの大会に出場すると聞いてアタシも参加を決めた。一度戦ってみたかったから。お前と
シゲミ「……なぜ?」
リオ「お前、怪異を殺しまくってんだろ?この前、私も怪異を殺してさ。人間を殺すのとは全然違うスリルと手応えがあった……楽しくてさぁ。お前に勝てたら、アタシはもっと強い怪異とも
シゲミはリオのチェーンソーを見つめる。
シゲミ「リオちゃん、そのチェーンソーから邪気を感じる。アナタ、チェーンソーに宿った悪霊に取り憑かれてるんじゃない?」
ふんっと鼻で笑うリオ。
リオ「違うぜぇ。取り憑かれてるのとはちょっと違うんだぜぇ。アタシの意識ははっきりしている。アタシはチェーンソーに取り憑いた悪霊と意気投合した。かつてこれを使って殺人をしていた悪霊の意思と、私の殺人欲求が合致したんだ。悪霊はアタシの力を
シゲミ「なるほど……ナチュラルボーンキラーというやつね」
リオ「お前も同じだろ?」
チェーンソーを振り回すリオ。シゲミは後退しながら刃をかわし続ける。
シゲミ「閃光手榴弾での制圧は不可能……リオちゃんごめんね、本気出すわ」
シゲミはスクールバッグから手榴弾を3つ取り出し、リオに投げつけた。しかしリオはお構いなしにチェーンソーを振り続け、手榴弾を空中でみじん切りにする。爆発することなく落ち葉のように床に落下する手榴弾の破片。
アヤコ「なんという繊細なチェーンソー捌きだぁぁぁっ!シゲミお得意の手榴弾がリオには効かないぃぃぃっ!」
攻撃を続けるリオに
見えるようになった磯野の両目に、高校生とは思えぬ攻防を繰り広げるシゲミとリオの姿が飛び込んできた。
磯野「あわわわ……こんなたわけ者どもの相手など、このままではできない……教頭先生ー!
ギャラリーにいた教頭が応える。
教頭「ガッテン!
教頭はギャラリーから体育館の床に飛び降り、校長とともに外へと出て行った。
アヤコ「あーっとここで校長が動き出したぞ!何を企てているのかぁぁぁっ!?」
ひたすら手榴弾を投げるシゲミと、手榴弾を全て細切れにするリオ。激しくぶつかり合う2人の間を、
シゲミとリオはさつまいもが飛んできた方向に視線を移した。15mほど先、両手に軍手をはめ、さつまいもを握った芋爺が立っている。
芋爺「おっちゃん特製、1400度に熱した『マグマいも』、いっぱい食べていきなぁ」