PM 0:40
土曜日の授業は昼までに全て終了する。帰宅の準備を整え、2年C組の教室から出るシゲミ。階段に向かって廊下を歩いている途中、オールバック生徒会長ことフミヤが立ち塞がった。フミヤの後ろには黒いスーツを着た中年男性が2人。
フミヤ「やぁ、爆弾魔シゲミ」
シゲミ「こんにちは、フミヤくん。何かご用?」
フミヤ「これまでに僕はお前に幾度となく挑み、そのたびに
シゲミ「そう。で、今回はどんな勝負をご希望なの?」
フミヤ「ふん。お前と勝負をすること自体ナンセンスだったのだよ……とても単純な話。お前を警察に突き出せばそれで全てが解決する!」
フミヤの後ろにいる男性2人が、ジャケットの内ポケットから警察手帳を取り出し、シゲミに見せる。
シゲミ「
フミヤ「お縄を頂戴するぞ、爆弾魔シゲミ。さぁ刑事さんたち、彼女の手荷物を調べてください。危険物が見つかるはず」
2人の刑事はシゲミに近づき、左肩にかけていたスクールバッグを取り上げる。中には教科書類の他にC-4プラスチック爆弾、手榴弾、閃光手榴弾、グレネードランチャーが入っていた。
刑事「全て本物のようだな……銃砲刀剣類所持等取締法の容疑で逮捕だ」
シゲミ「チッ!」
シゲミの両手首に手錠がかけられた。
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PM 2:15
市目鯖警察署 地下留置場
男性警官によって牢屋の扉が開かれる。中に入るシゲミ。扉が閉じ、鍵がかけられた。警官は鉄格子をつかむシゲミを一瞥し、留置場を後にする。
シゲミは鉄格子を揺さぶるが、開くはずもない。
シゲミ「参ったわね。どうやって脱獄するか……」
床に三角座りをし、考え込むシゲミ。
???「無駄だぜぇお嬢ちゃん。この留置場から出られるのは誤認逮捕と認められたときか、拘置所に送られるときだけだぁ。あるいは……死ねば出られるかもなぁ」
牢屋の奥からかすれた声が響いた。シゲミは座ったまま振り向く。奥の壁にもたれかかるように、灰色のスウェットを着たガリガリの男性があぐらをかいていた。年齢は60歳前後といったところ。
シゲミ「アナタは?」
???「お嬢ちゃんより少し長くここにいる……パイセンと呼んでくれ」
シゲミ「パイセン、脱獄したいのだけど、何か方法はないかしら?スプーンで警察署の外まで横穴を掘ってたりしない?」
パイセン「そんな古典的なこと最近じゃ映画でもアニメでもやらねぇよ。とにかく脱獄は無理だ。お嬢ちゃんが何をしてここにぶち込まれたのかは知らねぇが、おとなしくしておくことだ。じゃないと、隣の牢屋にいたヤローの二の舞になる」
シゲミ「……隣の人はどうなったの?」
パイセン「一昨日のことだ。警官が拘置所に送ろうと鍵を開けた瞬間に逃げ出したのよ。そしたら頭をバーン!射殺されちまった。何の警告もなしにだぜ」
シゲミ「ここ日本よね?」
パイセン「日本の法律や常識が通じるようなヤツはこの警察署に勤めてねぇ。全員いつでも、躊躇いなく引き金を引く」
シゲミ「そもそも女性と男性が同じ牢屋って時点でおかしいわよね」
パイセン「とにかく頭のネジが外れたヤツしかいねぇ、イカレた警察署ってことだ。お嬢ちゃんも命は惜しいだろう?だったらじっとしとけ」
シゲミ「ダメよ。明日、同好会のみんなとフィールドワークに行くの。何としても出なくちゃ」
パイセン「……そうかい。忠告はしたぜ。死にたいなら好きにしな」
パイセンはシゲミに背を向け、床に横たわった。
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PM 3:22
牢屋の壁を蹴り続けるシゲミ。パイセンが身を起こし、シゲミを怒鳴りつける。
パイセン「うるせぇぞ!さっきから何やってやがる!」
シゲミ「壁を
パイセン「念能力者か!無理に決まってんだろ!人間が壊せるほど
シゲミ「でも出たいし。そもそも私、逮捕されるようなことしてないし」
パイセン「……お嬢ちゃんは何の容疑でパクられたんだ?」
シゲミ「銃刀法違反」
パイセン「何を持ってたんだ?」
シゲミ「C-4とか手榴弾とかグレネードランチャーとか」
パイセン「妥当じゃねーか。捕まって当然だよ」
シゲミ「パイセンは何でここに?」
パイセンは再び横になり、シゲミに背を向けた。
パイセン「殺人だよ。一家心中しようと思ってな。妻と娘の首を絞めて殺した後、俺も死のうと割腹自殺を図った……つもりだったんだが、気がついたら警察に電話してたよ。いざとなったら死ぬ勇気が出なかったんだ」
シゲミ「なんでそんなことを?」
パイセン「俺は元々経営者でね。いや、経営者なんて言うのはおこがましいくらい会社はボロボロ。借金まみれで返済のめどが立たず、死ぬほかなかった。いま思えば他に手の打ちようはあったが、錯乱しててな……家族まで巻き込んじまった上に自分だけ生き残っちまった。情けない話さ」
シゲミ「……そう」
背中越しにパイセンが鼻をすする音を聞いたシゲミだが、その音を打ち消すかのように強く壁を蹴り続けた。
???「シゲミ……おいシゲミ……」
牢屋の外から自身の名前を呼ぶ低い声が聞こえ、シゲミは壁を蹴るのを止める。鉄格子の隙間から外を覗くと、白い