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JK組長⑤

床に落ち、ほこりがついたメロンパンを食べる日本兵・木名瀬きなせ。その姿をニヤニヤと笑いながら見下ろす、2年C組の生徒・上代かみしろ。上代は自身の背後、教室後部の扉近くにいるシゲミとミキホに気づいていない。


状況を飲み込めないシゲミが、上代に声をかける。



シゲミ「上代くん……だよね?何をしているの?」



驚いた表情で振り向き、椅子から立ち上がる上代。少し遅れて木名瀬が直立し、九九式短小銃きゅうきゅうしきたんしょうじゅうを構えて上代の前に歩み出た。



上代「爆弾魔シゲミ……さん。それにH組の……」


ミキホ「浜栗組はまぐりぐみ3代目組長、浜栗 ミキホだ。よろしくな、殿


上代「……聞かれていたか。木名瀬、尾行されやがって」


木名瀬「も、申し訳ございません……軍曹殿」


上代「後で懲罰房行きだ。覚悟しておけよ」



下唇を噛み、視線を下ろす木名瀬。表情に暗い影が差したが、すぐにシゲミたちのほうへ向き直る。



シゲミ「その日本兵、生きている人間じゃないわね?幽霊を使って購買部のパンを万引きしていたの?」



上代は左右の口角を吊り上げ、静かに笑った。



上代「ああ。キミの言うとおり、幽霊だよ。太平洋戦争で死に、魂だけの存在になって東南アジアから戻ってきたそうだ。コイツと出会ったのは偶然でね。道で衰弱していたから、食べ物を分けてあげたんだ。そしたら俺のことを神のように崇めてくれるようになった」


ミキホ「で、使いっ走りにしてたわけか。軍曹だなんて呼ばせて」


上代「そう。俺はミリオタなもんでね。下っ端の兵士から軍曹殿と呼ばれることに憧れていたんだよ」


ミキホ「階級がほしけりゃ自衛隊に入ることだな。軍曹ならノンキャリアでも目指せるぜ。まぁ、人の物を盗むその腐った性根で、自衛隊の訓練に耐えられればの話だが」


上代「ミリオタの俺にニワカ知識をひけらかすな……木名瀬、コイツらを射殺しろ」


木名瀬「はっ!」



木名瀬はシゲミに向かって発砲。しゃがんだシゲミの頭上を弾丸が通過し、教室の隅にある掃除用具ロッカーに当たった。シゲミとミキホは教室の外に出ると、扉の左右に分かれて壁に背中をつける。木名瀬の発砲は止まらない。


ミキホはエプロンのさらに奥、スーツのジャケットの内ポケットから自動拳銃M1911A1を取り出した。



ミキホ「45口径フォーティーファイブの威力なら幽霊にも効くだろ?」



木名瀬の発砲が止むタイミングを見計らうミキホ。その様子を横目で見たシゲミが「待って」と口にする。



シゲミ「たしかに銃で幽霊は駆除できる。けど上代くんに当たってしまうかもしれない。それにこれはよ。ミキホちゃんは手を出さずに見てて」


ミキホ「どうする気だ?」


シゲミ「あの日本兵、迷いがある表情をしていた。上代くんを恩人だと思いながらも、扱いのひどさから疑念が生じている。その迷いは、幽霊が存在するために必要なエネルギーを弱める」



シゲミは右手でスカートのすそを少しだけめくる。そして右の太ももにベルトで巻きつけた閃光手榴弾を手に取り、安全ピンを口で引き抜いた。



シゲミ「エネルギーが弱まった幽霊なら、閃光手榴弾で充分。上代くんを負傷させることなく除霊できる」



シゲミは教室の中に閃光手榴弾を転がした。強烈な光が教室中に広がる。大量の光エネルギーに当てられた木名瀬の体は、光とともに消え去った。


シゲミとミキホが教室の中に入る。上代が1人、「目がぁぁぁっ!」と悶絶していた。



ミキホ「なるほど。これが爆弾魔シゲミの仕事ね」


シゲミ「理解してもらえた?」


ミキホ「ああ。約束通り、ウチの組で仕入れたの情報をくれてやるよ。心霊絡みの情報がいいだろ?」


シゲミ「そうね」


ミキホ「じゃ、ある程度こっちで精査する」



ミキホは、両手で顔を押さえて前屈みになる上代の襟首を掴み、無理やり直立させた。そして右腕を上代の首の後ろから回し、こめかみに拳銃を突きつける。



ミキホ「上代っつったな?お前が万引きした購買部は、ウチの組のシノギなんだ。つまりお前は、ヤクザにケンカ売っちまったってことだよ」


上代「そ、そんな……俺はそんなこと知らなくて……ヤクザが運営しているなら盗まなかった……」


ミキホ「バックにヤクザがいようがいまいが、お店の物を盗むのはいけないことだよなぁ?さて、どう落とし前をつけてもらおうか」


シゲミ「ミキホちゃん」


ミキホ「シゲミよぉ、お前の仕事は怪異を殺すことだろ?ならもう終わったはずだ。で、ここから先は。上代は浜栗組にケンカを売った。コイツをどう処理するか、組長のオレが判断しなくちゃならねぇ」


上代「ご、ごめんなさい……どどどどうか命だけは……」



上代の両目から涙が流れ、股間からは尿が漏れ出す。



ミキホ「……オレはヤクザで、人を殺したことは何度もある。だが命の重さがわからないわけじゃねぇ。人は生きている限り、あらゆることを成し遂げる希望がある」


上代「ミ、ミキホさ」


ミキホ「そこで、幽霊をパシりにしていたお前にピッタリな落とし前のつけ方を思いついた。明日、ちょっとツラ貸せや」



ミキホによる脅迫が行われるC組の教室を、外の廊下から小さな男の子が覗き込んでいた。青いシャツを着た8歳くらいの少年。少年は右目でシゲミをじっと見つめる。



“あのピカピカ爆弾ガールの中なら安全そう……私のにしてあげるぅ〜。光栄に思ってよねぇ〜”



少年の右目、眼球と下まぶたの間から細いミミズのようなが這い出てきた。その直後、少年は後ろから左肩を叩かれる。肩を叩いたのは、先ほどシゲミたちが遭遇した、子供を探している母親だった。



母親「ユタカ!こんなところにいたの?勝手にどっか行っちゃって心配したんだから」



何かは素早く少年・ユタカの目の中に体を引き戻す。ユタカは母親のほうを向いた。



ユタカ「ごめんなさぁ〜い。面白そうな部活動のポスターを見つけちゃってぇ〜」


母親「早く帰るわよ。この学校、怖い人がうろついてるから」


ユタカ「は〜い」



ユタカは母親と手をつなぐと、C組の教室から離れ階段を下っていった。



−−−−−−−−−−



翌日 AM 10:35

東京都内某所 死軍鶏ししゃも組 事務所

強面の男たち十数人が机に向かい、電話をかけている。特殊詐欺の真っ最中。そのとき、事務所の扉が外から勢い良く開いた。左右の手に拳銃を握り、その上からガムテープでぐるぐる巻きにされた上代が入室。服は着ておらずブリーフ1枚。上代は狙いを定めずに発砲する。



上代「組長はどいつだぁ!?たまとってやらぁ!!」



意表を突かれ、死軍鶏組の組員数人が凶弾に倒れた。弾丸が当たらなかった組員は机の影に避難。そして各自が着ているスーツのジャケットの下から拳銃を取り出し、上代の拳銃が弾切れになったのを確認して、反撃に出る。


100発近い銃弾を浴び、上代の体は蜂の巣になった。



<JK組長-完->

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