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城と兵士①

PM 4:24

シゲミ一家邸宅 リビング

テーブルに向かい、算数ドリルの問題を解くサシミ。左胸に青い文字で「S」とプリントされた白地の半袖Tシャツに、ベージュの短パン姿。


学校で宿題として出された範囲の最後のページに差し掛かったとき、リビングの入口扉が開きシゲミが入ってきた。学校から帰って来たばかりで、ブレザーを着ている。



シゲミ「丁度良いところにいた。サシミ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


サシミ「私はキリミだよ」



シゲミは算数ドリルのページを押さえている、小さな手に視線を落とす。



シゲミ「くだらないウソをつかないで。サシミは人差し指より薬指が長い。キリミはその逆。アナタは薬指が長いからサシミ」


サシミ「……見分けやすいよう、普段から私のイニシャルの『S』が入ったシャツを着たり、お姉ちゃんより髪を長くしたり、お姉ちゃんが絶対にやらない勉強をしたりしてるんだけど、些細な身体的特徴の差で見抜くんだ。ひねくれてるね、シゲミねぇ


シゲミ「ひねくれてなきゃ、怪異専門の殺し屋なってやってられないわ」


サシミ「たしかに。それで、聞きたいことって何?」



シゲミは左肩にかけたスクールバッグをテーブルの上に置くと、サシミと対面になるよう椅子に腰掛ける。



シゲミ「サシミの周りで、突然変な行動をするようになった人、いない?」


サシミ「具体的には?」


シゲミ「私もハッキリとしたことは言えないんだけど、例えば、面白くてわかりやすい授業に定評があった先生が高圧的な教え方をするようになったり、真剣に授業を受けてた子がコンビニの前でヤンキー座りして駄菓子食べるようになったり」


サシミ「……いないかな。特に後者はもう絶滅してて見たことすらない」


シゲミ「そう。優等生のサシミの周りにはまともな人が集まりそうだから、変化にも気づきやすいと思ったんだけど……」


サシミ「狂人の観察日記でもつけてるの?」


シゲミ「違う。ネクロファグスという、脳に寄生して体を乗っ取る怪異がどこかに潜んでいるそうなの。それを探してる。ネクロファグスに寄生された人は不審な行動が増えるらしくて」


サシミ「ふーん。誰かからの依頼?」


シゲミ「鬼河原おにがわら モロさん」


サシミ「ああ。シゲミねぇ、だいぶ気に入られてるみたいだね」


シゲミ「私は距離を置きたいんだけどね。ネクロファグスの動向がつかめたら、私たち家族全員に依頼すると言っていたわ。ゆくゆくはサシミも、この件に一枚噛むことになると思う」


サシミ「……わかった。私のほうでも探しておく。もし見つけたら、駆除しちゃっていいんだよね?」


シゲミ「もちろん。モロさんは『ネクロファグスを駆除できるなら何兆円でも払う』と言っていたわ。報酬は駆除した人が総取りといきましょう」



−−−−−−−−−−



PM 6:45

東京都内 住宅街の中を通る線路の高架下

大きな柱の根元でうずくまる、学ランを着た中学生男子4人。顔は腫れ上がり、学ランは砂で汚れている。


ボロボロの中学生を、十数人の子供たちが半円状に囲む。年齢は11〜12歳で、小学校高学年ごろ。


中学生の1人がヨロヨロと立ち上がり、「テメェらぶっ殺」と言いかけるが、小学生2人に左右から足を蟹挟みにされ、背中から倒れる。


取り囲む小学生の中で一際体の大きい、身長175cmはあろう巨体男子が口を開いた。



巨体「念のため人数を集めたけど、取り越し苦労だったぜ。不良っつっても中坊じゃ大したことねーな」



巨体男子の隣に立つ、小柄でいがぐり頭の男子がニヤニヤと笑いながら倒れた中学生の腹部を蹴り上げた。



いがぐり「で、この雑魚どもどうする?」


巨体「全裸にして、コイツらが通ってる中学校の屋上から吊るす。見せしめだ。動かれると運びづらいから、気絶するまでボコボコにしろ」



一斉に「へゃっほぉー」と下品な笑い声を上げる小学生たち。そして戦意を失い半泣き状態の中学生を次々に踏みつけた。


その途中、背後から「ねぇ」という声が響き、小学生たちは踏むのを止める。振り向くと、彼らより4歳ほど年下であろう少年が立っていた。



いがぐり「誰だお前?」


少年「葱吐露ねぎとろ小学校2年、ユタカ……だったかなぁ〜?」


いがぐり「葱吐露小なら、オレらの後輩か」


ユタカ「そうかもぉ〜。ところで、何だか楽しそうなことしてるねぇ〜。も混ぜてくれな〜い?」


いがぐり「へっへぇ、オレたち『チーム・クリーンナップ』の入団希望者か」


巨体「葱吐露小のヤツなら歓迎するぜ。オレらと一緒に社会のゴミ掃除をしようや。けど、その前に入団テストを受けてもらう」


ユタカ「テストぉ〜?美的価値観のない原始人でもダサいと感じそうな集団に入るのに、テストが要るのぉ〜?」


いがぐり「不良とか暴走族とかを絞め上げるのがオレらの仕事。ある程度ケンカが強いヤツじゃないと務まらないんでね」


巨体「オレとタイマン張れ。1発でもオレをぶん殴れれば入団を認めてやろう」


ユタカ「タイマンじゃなくていいよぉ〜。全員かかってきなぁ〜」


いがぐり「……言うねぇ。あまり舐めた口利かないほうが身のためだぜ。オレら、ヤクザとか警察とかもボコったことあっから」


ユタカ「そうなんだぁ〜。ならこの中の誰か1人くらいは、私のに打ってつけかもねぇ〜」



−−−−−−−−−−



PM 7:11

地面に倒れるチーム・クリーンナップのメンバーたち十数人。全員息はあるが、体の至る所に怪我を負い、立ち上がる気力を失っている。


返り血にまみれたユタカが、地に伏す敗北者たちの間を歩き、うつ伏せで悶える巨体男子の頭を右足で思い切り踏んだ。巨体男子は顔を地面に打ち、鼻から血が流れ出る。



ユタカ「この中だとキミが良い線いってたかなぁ〜。でも正直、小学生のフィジカルじゃ大差ないかもぉ〜。しばらくはの中にいることにしたぁ〜」


巨体「くっ……そ……」


ユタカ「でもにはが必要なんだよねぇ〜。兵士がいてこそ、城の守りは強固になるからさぁ〜。ということで、キミたちには私の新しい城が見つかるまで、兵士としてタダ働きしてもらうねぇ〜」

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