バイクにまたがり、夜風を切るミキホとリオ the チェーンソー。リオはバイクの後部からミキホに向かって「へっ」と、渇いた笑いをかける。
リオ「アタシが自分で走ったほうが速いぜ」
ミキホ「お前を自由に行動させると被害が無駄にデカくなる。俺が許可するまでバイクからは絶対に降りるな。そして俺が指定したヤツだけを仕留めろ。いいな?」
リオ「ちっ。人様に指図されるってのは、サーカスで三輪車に乗せられているクマになった気分だ」
ミキホ「言うこと聞かないと、うな重おごらねぇぞ」
リオ「特上だ。ただのうな重じゃなく特上にしねぇと、言うこと聞かないどころか今ここでお前の首を斬り飛ばすぜ、ミキホ組長様よぉ」
ミキホ「……良いだろう。店で一番高いのを注文しろ。だから俺の首は」
リオ「冗談だよ、冗談。怪異と戦うチャンスをくれた上に、うな重までおごってくれるアンタには感謝してる。約束通り、なんとかファグスとかいう怪異、ぶち殺してやる」
バイクのテールランプが、夜の道路上に半透明の赤い線を描いた。
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AM 3:12
組員が
車道に、首から上がない死体が血だまりの中でうつ伏せに倒れているのを発見する。ヒョウ柄のシャツを着た、男性と思しき体。ミキホはブレーキをかけ、バイクを止めた。
ミキホ「コレは……おそらく、怪異を尾行させていたウチの組員だ」
リオ「流れ出た血が凝固していない……ってことは、そう時間は経っていない。
ミキホ「ネクロファグスは殺したヤツの首を切断し、頭をどこかへ持ち去るそうだ。コイツもネクロファグスにやられたに違いねぇ」
死体から点々と血痕が道路に垂れ、道しるべのように伸びている。ミキホは再びバイクのエンジンをかけ、血の道しるべに沿って走り出した。
およそ2分ほど進み、住宅街の中をフラフラと飛ぶ上半身だけの人間の背中を捉えたミキホ。背後のリオに「斬れ」と指示を出す。リオは右手に持ったチェーンソーのストラップを左手で引っ張り、エンジンをかけた。
バイクの走行音に気づいたテケテケは瞬時に振り返り、鎌を横に振る。鎌の動きに合わせて生まれた暴風の渦が2人に迫る。暴風は電柱やブロック塀を吹き飛ばすほど激しい。
ミキホは急ブレーキをかけて方向転換しようとする。が、逃げ切れない。暴風の渦に飲まれる寸前、リオが後部座席を蹴って跳躍。チェーンソーを持ちながら体を回転させ、暴風に向かっていく。リオは暴風の渦と逆の回転でぶつかり、風を相殺した。
ミキホ「リオを連れてきて正解だったぜ」
暴風の渦をものともしないリオを見て分が悪いと判断したテケテケ。背を向けて逃げ出す。リオは自身の俊足で、ミキホはバイクで追いかける。その瞬間、上空から100体近い『テケテケ』が、カラスのように飛来した。性別や髪型は異なるが、白いワイシャツを着て大きな鎌を持ち、下半身がないという特徴は共通している。
上空からの奇襲に気づき、ミキホとリオは追跡を止める。迎撃するべく、ミキホはジャケットの内ポケットに入れていた
ミキホ「ゾロゾロゾロゾロ出てきやがって、ロッキーの撮影じゃねぇんだぞ」
ミキホとリオの手により3分の2が除霊されたところで、残りのテケテケたちは逃げ出し、黒い雲の向こう側へと姿をくらました。
ミキホとリオが追っていた最初のテケテケの姿もない。血の道しるべも途絶えていた。
リオは屋根から飛び降り、地上でバイクにまたがるミキホに歩いて近寄る。
リオ「アタシらが最初に見つけたヤツがボスだな。他のは、ボスが逃げるための時間を稼ぐためにやって来た雑兵」
ミキホ「ああ……そう考えるべきなのだろうが、解せない部分もある。俺らヤクザみたいな階層組織は、上を守るために下が盾になるのが常識。だが、例えば動物の群れにその理論が当てはまるかというと、ノーだ。動物は外敵に襲われたとき、必ずしも群れのボスや特定の個を生かすそうとするとは限らない。群れを成すのは、標的を分散させて種としての生存率を高めるため」
リオ「何が言いたい?」
ミキホ「さっきの怪異どもが階層組織を築けるほど高度な知能を持っているとは思えない。攻撃は突っ込んでくるだけで単調。動物的。一方で、特定の個を生かそうとするという統率の取れた動きをしてやがった……違和感がある。が、この違和感は悪いものじゃねぇ。ターゲットはシゲミですら見つけられない怪異。常識では測れない行動をするんだろうよ。だからこそ感じる、『俺らはアタリに近づいたんだ』という気配……そこから生まれる違和感だ」
チェーンソーを右肩に担ぐリオ。
リオ「ひとまずはアンタが感じた違和感を信じて、さっきのを追いかけるしかないな」
ミキホ「組員にも怪異の情報を伝えて、しらみつぶしに捜索する。リオ、引き続き協力頼むぞ。成功したら、特上うな重を3人前頼んで良い」
リオ「……契約延長だな」
<追跡-完->