AM 8:02
朝のニュース番組スタジオ
男性キャスターがテーブルの上に置いた原稿に一瞬だけ視線を落とし、カメラのレンズを真っ直ぐ見つめて内容を読み上げる。
キャスター「昨夜未明から、全国32都道府県で頭部を切り落とされた状態の死体が相次いで発見されています。被害者は10代から70代の男女で、確認されているだけでおよそ1000人。発見された時間や場所は異なりますが、全員刃物のようなもので首を切断されており、頭部が持ち去られているという点が共通しています。警察は複数名による通り魔的犯行と見て捜査中です。被害者の中には作家の
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AM 8:32
日本の上空2000m
上半身だけの怪異・テケテケが渡り鳥のように群れを成して、雲の中を飛行する。数は数百体。それぞれ背中に大鎌を背負い、両手に1つずつ人間の頭部を持っている。
群れの先頭を飛ぶテケテケの脳にはネクロファグスが寄生憑依し、その体を操作。テケテケは全個体が思考を共有しているため、群れ全体がネクロファグスにより間接的に憑依されている状態である。
ネクロファグスは、本来の目的である「人間への復讐」の最終段階に入っていた。そのために必要だったのは、「脳」。
“私が
テケテケの群れはアメリカ西海岸の沖合を目指し、太平洋の上空へと繰り出した。
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AM 11:07
ソファに腰掛けるシゲミと、ローテーブルを挟んで向かい合うように車椅子に座るモロ。モロは『魎』の職員を使い、かつてネクロファグスが寄生憑依していた巨大怪異の体を捜索していた。その怪異が見つかったことと、ある問題が発生したことを報告するべくシゲミを呼び出した。
モロ「ネクロファグスが寄生憑依し、私と祖父が倒した巨大怪異……名前をつけましょうか。そうですね……『
シゲミ「ネクロファグスのときもそうだったけど、なぜポンポンと厨二病じみた名前が思い浮かぶのか……」
モロ「そのダルザムの死骸を、カリフォルニア沖の海中で発見しました」
シゲミ「……そう。ならネクロファグスがその死骸に戻る前に、私が破壊すれば良いのね?」
モロ「ですが、問題があります。ダルザムの死骸があるのは海岸から約3万3000mの沖合で、深さはおよそ2500m。各国の海軍で使用されている潜水艦でもたどり着けない深さです。もちろん人間が潜ったら、水圧で死んでしまいます」
シゲミ「なるほど。破壊するのは難しいというわけね。……ババ上のステルス爆撃機で上空から機雷を落としてもらうか? いやそれでも届かない……となると、やはりネクロファグスを探し出して駆除するしかないか」
モロ「それがベストではあります。ただ、ダルザムの死骸を破壊する方法が全くないわけではないのです」
シゲミ「……何か策があるの?」
モロ「以前シゲミさんが私に、ダルザムを倒した方法について尋ねたのを覚えてますか? そして私が答えをはぐらかしたことも」
シゲミ「ええ。『いけずぅ』って思った」
モロは右側の取っ手にあるレバーを操作して車椅子を応接室の入口まで移動させ、扉を開けた。
モロ「あのときは、『もう使うことはない』と思っていたので、答えを伏せました……『魎』の秘密兵器をシゲミさんにお見せします。
応接室の外に出るモロ。シゲミはソファから立ち上がり、モロの後を追った。