大人が6人も入れば重量オーバーになりそうな小型のエレベーターに乗るモロとシゲミ。シゲミの両耳が気圧差でこもるほど、地下深くまで下っていく。
シゲミ「ずいぶん掘り進んでいたのね。地下鉄でも作るつもりだったの?」
モロ「当たらずといえども遠からずです」
およそ3分後、エレベーターが止まり扉が開く。その瞬間、シゲミの視界に巨大な鉄の塊が飛び込んできた。
エレベーターの外に出るモロとシゲミ。広大な空間に、摩天楼のようにそびえ立つ鋼鉄の巨人。アニメに登場するような巨大ロボットが1体格納されていた。
全体的に青みがかったボディ。鎧武者を彷彿とさせる装甲は、鋭角に組み合わされた重層プレートで構成され、肩部には兜の吹き返しを思わせる装飾が広がっている。
巨大ロボットの足下に立ったシゲミは、踏み潰される寸前のアリの気分になった。その巨体に威圧感を覚えずにはいられない。
シゲミ「これは一体……」
突如として目の前に現れた巨人に驚き、言葉を失うシゲミ。モロが自慢げな笑みを浮かべて口を開く。
モロ「対怪異用決戦兵器・
シゲミ「こんなものがあるなんて……」
モロ「HAZANは。あらゆる環境下での戦闘が可能です。溶岩の中でも、真空空間でも、高い水圧の中でも……つまりHAZANを使えば、深海2500mに沈んでいるダルザムに接近し、物理的に破壊できます」
HAZANの左足の先端に触れるシゲミ。
シゲミ「なぜもっと早くこれを紹介してくれなかったの?」
モロ「動かせないのです。HAZANはパイロットとなる人間の神経と機体の回路をリンクさせて動かします。そのパイロットがいません。かつては私と祖父がパイロットでしたが、祖父は死にましたし、私は足が動きません」
シゲミ「なら私がパイロットになるわ」
モロ「私もシゲミさんが適任かと思いましたが、不十分。パイロットは2人必要なのです。HAZANの機体が損壊すると、その衝撃が痛みとなってパイロットに伝わります。僅かな損傷でも死亡する恐れがあるほど強い痛みです。そのため2人で搭乗し、痛みを分散する仕組みになっています。正直、2人でも足りない……祖父はショック死し、私は下半身不随になってしまいましたから」
モロは自身の右膝に触れる。モロがパイロットとして巨大ロボに搭乗していたこと、ダルザムとの戦いが壮絶なものだったことを、シゲミは悟る。
シゲミ「3人とか4人とか、もっとパイロットを増やして痛みを分散することはできなかったの?」
モロ「HAZANはコックピット内のパイロットの動きに連動します。2人で搭乗した場合、それぞれのパイロットが同じ動きを、誤差0.03秒以内に行わなければHAZANはまともに歩くことすらできません。パイロットの数が増えれば、動きを合わせることも難しくなります。そのため2人が限界だったのです」
シゲミ「……なるほど」
モロ「パイロットが2人揃っても、ピッタリ息が合っていなければ意味がない……私と祖父が搭乗していた当時、怪異と戦えるレベルまで息を合わせられるようになるまで、約1年間の訓練を必要としました」
シゲミ「まさにパシフ●ック・リムね」
モロ「
シゲミはHAZANから手を離し、モロのほうに体を向ける。
シゲミ「やっぱり早く言ってくれれば良かったのに。パイロットに最適な人材を知ってる。基本的な操作方法さえ教えれば、おそらくトレーニングは必要ない。このHAZANを動かして、ネクロファグスより先にダルザムを破壊しに行きましょう」
モロは首をかしげる。直後、シゲミのスカートの左ポケットに入っていたスマートフォンが鳴動した。