テーブルを挟んで座敷にあぐらをかく、ミキホとリオ the チェーンソー。ミキホは右耳にスマートフォンを当てている。目の前のには箸をつけていないうな重が1つ。
リオはミキホの向かい側で、特上うな重を野犬のように口の中へかき込む。
電話がつながり、ミキホのスマートフォンから「もしもし」とシゲミの声が流れた。
ミキホ「お疲れちゃ〜ん、シゲミちゃん。調子はどうよ?」
シゲミ「ほんの少しだけ進捗があったわ。ミキホちゃんのほうは?」
ミキホ「それについてなんだが……お前に謝りたいことがあってな」
シゲミ「何?」
ミキホは2秒ほど間を開けて続ける。
ミキホ「ネクロファグスについて、お前に伝えていない情報があった。ヤツは
シゲミ「その特徴……おそらくテケテケね。わかった、ありがとう」
ミキホ「……本当はよぉ、お前に『篠皮 ユタカの父親の情報が欲しい』って言われたときには、すでに俺は情報を握っていた。だが、あえてお前に渡さなかった。俺たち浜栗組だけでネクロファグスを仕留めて、成功報酬を独り占めしようと思ってな」
シゲミ「そうだったの」
ミキホ「結局、ネクロファグスを一晩中探したんだが完全に見失っちまった。俺らにできることはもう何もない。情けないが、ここから先は怪異殺しの専門家であるお前に任せるしかなくなった。こうなるくらいなら、最初からお前に全力で協力するべきだったと反省している」
シゲミ「……」
ミキホ「腹が立つよなぁ。約束を反故にされたんだから。怒りの矛先はすべて俺に向けてくれ。だが、俺に力を貸してくれた組員のことは見逃してほしい。アイツらは俺の指示で動いていただけ。責任は俺にある……頼む」
シゲミ「腹が立つ? いいえ、私は微塵も怒ってないわ。ミキホちゃんは情報を渡してくれた。約束をしっかり守ってくれた」
ミキホ「だけど」
シゲミ「私はミキホちゃんに『手に入れた情報を即座に、包み隠さず渡せ』とは言わなかったでしょ? だからミキホちゃんは約束を破ってなんかいない。むしろ正直に言ってくれて、私の中でミキホちゃんへの信頼度が上がったわ」
ミキホ「……そうかい。ありがとうよ。俺、お前のこと勘違いしてたわ」
シゲミ「仕方がないことよ。私たち、まだ知り合ったばかりなんだから。本当に理解し合えるまでには時間がかかる」
ミキホは通話を終え、スマートフォンをスーツのジャケットの内ポケットにしまう。そして右腕で頬杖をつき、特上うな重を貪るリオに視線を向けた。
ミキホ「リオよぉ、お前、人を好きになったことあるか?」
食べる手を止めて「あぁ?」と聞き返すリオ。ミキホは続ける。
ミキホ「恋をしたことはあるかって聞いてんだよ」
リオ「ない。他人には殺意しか向けたことがないんでな」
ミキホ「俺はよぉ。シゲミのヤツに恋しちまったかもしれねぇ」
リオ「はぁ?」
ミキホ「シゲミも俺と同じ、裏社会で生きている人間。でも俺と違ってアイツは、真っ直ぐで、裏表がなくて……アイツは『理解し合えるまで時間がかかる』と言っていたが、恋に落ちるのは一瞬なんだよなぁ……俺はシゲミに惚れちまった。ぜひ組員になってもらいてぇ」
リオ「……それは恋なのか?」
ミキホ「ああ、完全にラブだ。盃を交わしたいって気持ちで、胸が張り裂けそうだよ」
リオ「アンタら未成年だろ」
ミキホ「浜栗組は盃にドクターペッパーを入れて飲むんだ」
リオはミキホを一瞥し、箸を進める。3口食べたところで、鰻と白ご飯が口に入ったまま言葉を発した。
リオ「シゲミを組に入れるなら早くしたほうがいいぜぇ。アイツは俺の獲物だ。チンタラしてると、俺が
眉間に深いシワを寄せ、リオをにらみつけるミキホ。
ミキホ「そうかよ。
リオもミキホをにらみ、鰻を口に運ぶ。
リオ「手を引くぅ?……だったらよぉ」
ミキホ「何だ?」
リオ「アンタのうな重くれ。そうしたらシゲミを殺すのを1カ月待ってやる」
ミキホ「……箸はつけてねぇから、勝手に食え」
<秘密兵器-完->