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VS ネクロファグス①

日本時間 AM 5:21

アメリカ・カリフォルニア州の海岸から西におよそ33km離れた沖合

 上空700mを飛行するテケテケの群れ。その先頭を飛ぶ、ネクロファグスが寄生憑依した1体が深海から僅かに立ちこめる邪気を感じ取った。


 口を三日月型にして笑い、海を見下ろす。



テケテケ「あったぁ〜。私のぁ〜。久しぶりの帰郷だよぉ〜ん。友達にお土産運ぶの手伝ってもらっちゃったぁ〜。重かったからねぇ〜」



 テケテケの群れは一斉に海へ飛び込み、深く、深くへと潜っていった。



−−−−−−−−−−



AM 10:53

鬼河原おにがわら モロの屋敷 地下

 対怪異用決戦兵器、巨大ロボット・HAZANハザンの両目が光る。


 HAZANの頭部内は球状のコックピット。パイロット2人は、コックピットを満たす透明な多機能液体に全身を沈める。生体センサーを内包したこの液体は、神経信号を増幅・伝達し、彼らの脳波とHAZANの制御中枢を完全に同期させる。左右に並んだ2人が、液中で同じ動作をとることで、HAZANの巨体も駆動する。


 モロはパイロットがいないことを懸念していたが、その問題はシゲミに相談することで即解消された。シゲミは妹のキリミとサシミをパイロットにしたのである。


 キリミとサシミは一卵性の双子。2人で連携して戦うことを想定し、生まれたときから戦闘訓練を積んできた。2人で息を合わせて動くことは得意中の得意。パイロットが相互に動きを合わせなければ駆動しないHAZANに乗るとしたら、これ以上ない人材だろう。


 特殊な黒いウェットスーツと頭全体を覆うヘルメット型の呼吸器を着用し、溶液内で立ち泳ぎのような姿勢で浮かぶキリミとサシミ。右側にキリミが、左側にサシミが立つ。


 2人の呼吸器にはマイクとスピーカーが搭載されており、互いにコミュニケーションがとれる。コックピットの外にいるモロやシゲミとも連絡が可能。



キリミ「こんなロボットに乗れるだなんて、夢にも思わなかったぜぇ!」


サシミ「エヴァに乗ってる気分だよね」


キリミ「さしずめアタシは、才能抜群のサードチルドレンってところだな」


サシミ「たぶん私はファーストチルドレン、お姉ちゃんはセカンドチルドレンって感じだと思う。ファーストとセカンドが一緒のエヴァに乗ることは絶対にないと思うけど」



 呼吸器のスピーカーからモロの声が流れる。



モロ「キリミさん、サシミさん、聞こえる?」


サシミ「はい」


キリミ「バッチリ」


モロ「良かった。操縦方法や、搭載した武器の使い方はさっき説明したとおり。2人の動きをピッタリ合わせることが重要です」


キリミ「余裕だよ。アタシらは2人で1つの殺し屋ユニットだからな」


モロ「期待しています。が、破壊対象であるダルザムは死骸です。こちらから一方的に攻撃するだけで、戦闘にはならないでしょう」


キリミ「んだよ。バチバチにり合いたかったのに」


サシミ「戦闘にならないほうが良いよ。ネクロファグスは寄生憑依した対象の身体能力を限界まで引き出せる……もし巨大怪異が、体操のオリンピックメダリストみたいにバック転でもしたら、それだけで島1つ沈んじゃう破壊力だろうから」


モロ「そうならないよう、今のうちに攻撃をしかけるのです。正面にあるハッチを開きます。その先、横穴のように道が伸びているので、歩き続けてください。20分も行けば、海中に出ます。そうしたら真っ直ぐ、東へ歩いてください。海底を歩いて、ダルザムが沈んでいるカリフォルニア沖まで行きます」


キリミ「深海散歩ってわけね」


サシミ「モロさんとシゲミねぇは?」


モロ「私たちはヘリコプターで海上からHAZANを追跡します。常に通信できるので、何かあればすぐに連絡してください。私たちのほうからも、変化があれば随時報告します」


キリミ・サシミ「了解」



 モロの声からシゲミの声に切り替わる。



シゲミ「キリミ、サシミ、私は高見の見物をぶっこかせてもらうわ。アナタたちで頑張ってちょうだい」


キリミ「シゲミねぇも働けよぉ〜。『働かざる者食うべからず』がウチのルールだろうがぁ。だからニートのジジイは邪険にされてるわけだしよぉ」


シゲミ「巨大ロボに乗せてあげただけでも感謝してほしいところよ。本当は私が乗りたかったんだから。長女はいつでも我慢を強いられる」


キリミ「……はいはい、どうもありがとうございました。長女様の悩みは、アタシら末っ子には到底理解できない苦痛なのでしょうね」


サシミ「お姉ちゃん、私はシゲミねぇの力に頼らずネクロファグスを倒したい。アイツと私の勝負、まだ決着がついていないから」


キリミ「だったらアタシを巻き込むなよ」


サシミ「お姉ちゃんと私は2人で1つ、でしょ?」


キリミ「……わかったよ。文句言わずにやりますよ」


シゲミ「健闘を祈る」



 キリミとサシミは同時に右足を前に伸ばす。HAZANの右足が連動して前に伸び、第1歩を踏みしめた。



−−−−−−−−−−



HAZANが起動したタイミングとほぼ同時刻

カリフォルニア沖 深海2500m

 テケテケの群れがダルザムの死骸へと到着した。巨大な岩塊にもたれかかるその全身は、まるで太古の神のよう。鉄のように鈍く光る灰色の皮膚は、水圧に負けないほど硬質で、隆起する筋肉が皮膚の下で波打つ。人間に酷似した4本の腕と2本の脚は異様に長い。頭部からは象のごとき鼻と牙が突き出している。


 頭頂部は頭蓋骨ごと砕け、脳幹の一部が露出。本来入っていた脳の大部分は『りょう』により回収済みで、ただの大穴と化している。


 ダルザムの頭に空いた大穴へ、両手に持った人間の頭部を投げ入れていくテケテケたち。その様子は、ゴミ収集車に家庭ゴミの袋を投げ込む収集員のよう。約1000の頭が大穴にすべて収まり、穴が塞がった。


 ネクロファグスはテケテケの体を操って頭部の集合体に接近。そしてテケテケの右耳から這い出て海中を泳ぎ、頭の1つを食い破って中に侵入した。脳神経を操り、1000個の脳をすべて結合させて1つの巨大な脳とする。


 ダルザムの体を再び動かすための準備がすべて完了。その両目が開き、樹齢数千年の大木のような両足で立ち上がった。


 大量の泡を吐きながら口を開くダルザム。



ダルザム「んっん〜。やっぱ実家が一番だよねぇ〜。居心地良いわぁ〜。この中でずっとダラダラしてたいけどぉ〜、ちゃんとやることやらないとねぇ〜」



 ダルザムが左足を前に踏み出す。海水が大きく震えた。



ダルザム「まずは日本をぶっ壊せぇ〜。最近の日本って、物価高とか米不足とか少子高齢化とか過疎化とか、悩みがいっぱいらしいからねぇ〜。ぶっ壊してぜぇ〜んぶ解消してあげよぉ〜。私の復讐もできて、一石二鳥ぉ〜」

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