深海の大陸棚を歩行する巨大ロボ・
コックピット内で溶液に全身を浸しながら、歩く動作をするキリミとサシミ。2人の動きには寸分のズレもなく、HAZANは滑らかに駆動している。
海上50mでは、シゲミと
HAZANの
2人は、海上にいるモロと通信する。
キリミ「デカい何かを発見。足で海底に立ってるっぽい」
サシミ「こっちに近づいて来ている……?」
キリミ「しかもかなり速いぞ! アイツ、走ってねーか?」
サシミ「……アレが生物だとしたら、世界最大のシロナガスクジラより遙かに大きい……モロさん、もしかして」
モロ「ネクロファグスがダルザムを操作している……? ネクロファグスは消息不明になっていましたから、どこにいても不思議ではありません。しかしどうやって? ネクロファグスが生物や怪異を操るのに必要な脳は、ダルザムにはない……」
キリミ「でも現にそれっぽい何かが接近してきてるんだぜ! アタシらの見間違いじゃねぇ!」
モロは数秒沈黙し、キリミとサシミに問いかける。
モロ「近づいてくる何かの特徴は?」
キリミ「とにかくデカい」
サシミ「微かにですが、腕らしきものが見えます。しかも……4本? 左右に2本ずつ」
モロ「巨体に4本の腕……私が知るダルザムの特徴と共通しています」
キリミ「じゃあもう確定じゃねーか?」
3人の通信にシゲミが割り込む。
シゲミ「キリミ、サシミ、1%でも危険性があるなら排除。わかってるわね?」
サシミ「もちろん」
キリミ「言われなくとも」
シゲミ「方法はわからないけれど、ネクロファグスはダルザムの死骸に入り、操っている。その想定で行動しなさい。動かない死骸を破壊する計画は頭の中から消して。動き、反撃してくる敵をHAZANで撃破する……プラン変更よ」
サシミ「了解。ネクロファグス……絶対に仕留める」
キリミ「せっかく戦闘用のロボットに乗ったんだ。戦わなきゃ意味がないぜ」
シゲミ「戦い方は任せるわ」
キリミ「オッケー。行くぞ、サシミ。ヘマするなよ」
サシミ「お姉ちゃんこそ、油断大敵だよ」
キリミとサシミはコックピットを満たす溶液の中で左右の腕を大きく振りながら走る。海底を歩いていたHAZANも連動して、短距離選手のように走り出した。
HAZANと影の主・ダルザムとの距離がぐんぐんと近づく。ジャンボジェット機のエンジン音のように重厚なダルザムの声が、HAZANのコックピット内に響いた。
ダルザム「邪魔ぁ〜」
HAZANとダルザムの巨体がぶつかる。衝撃が海水を伝わり、周囲の岩を粉々に砕いた。
双方、ゼロ距離で殴り合う。体が大きく腕の数が多いダルザムが優勢。4つの拳でHAZANの特殊装甲を剥がしていく。
キリミ「接近戦じゃ分が悪いな」
サシミ「お姉ちゃん、高周波ブレードを!」
HAZANは右腕を肩の後ろに回す。背中に取り付けられた巨大な日本刀を鞘から引き抜き、体の正面に構えた。両手で
腕を2本クロスさせ、硬い体表で刃を受け止めるダルザム。しかし刃は細かく振動しており、あぶくを生み出しながら徐々にダルザムの腕の中に侵入。刀身が折れると当時に。ダルザムの左腕の1本を切断した。
HAZANは折れた刀を投げ捨て、よろめくダルザムの腹部を右足で蹴る。ダルザムが体勢を崩しながら、大きく後退した。
キリミ「食らえ! 『おっぱいミサイル』!」
サシミ「正しくは『チェストミサイル』だよ、お姉ちゃん」
HAZANの胸の装甲が左右に開き、中から6発の
HAZANの装甲が閉じると同時に、ダルザムは海底に尻餅をつく。
キリミ「へっ! ロングレンジでの戦いならこっちが有利だ!」
ゆっくりと立ち上がったダルザムは、首を左右に倒し、ボキボキと骨を鳴らした。
ダルザム「腕が1本斬られちゃったしぃ〜、体に穴ができちゃったしぃ〜、最悪だしムカつくぅ〜」
ダルザムは口を縦に開けながら上半身をのけぞらせ、海水を吸い込む。
ダルザム「リフォーム代出せやぁぁぁっ!」
噴火のような大声が衝撃波となり響き渡る。海底の砂を巻き上げ、分厚い岩盤にひびを入れ、海上数百mまで届く水飛沫の柱を生み出した。
上空を飛ぶヘリコプターが水飛沫に巻き込まれかける。が、ギリギリで回避。モロの操縦技術の賜物というより、運良く飛沫が届く範囲を飛行していなかっただけである。場所が悪ければ大破していた。
一方、海中のHAZANは衝撃波を全身で受ける。機体は2万トン近い重量を誇るが、オモチャのように力なく吹き飛ばされた。