ダルザムの
HAZANが受けた衝撃は激痛となり、コックピット内にいるキリミとサシミの体に伝わる。
サシミ「くうぅっ」
キリミ「ぐぁぁぁっ!」
コックピットの溶液内で仰向けになる2人。
キリミ「クッソ! ロングレンジの対策も万全ってわけか……声だけで攻撃とか、横着な野郎だぜ」
サシミ「音は、空気中よりも水中のほうが速く伝わる。大体、秒速1500m……避けるのは無理ね」
キリミ「あんな水爆みたいなシャウト、何発も耐えられねーぞ!」
サシミ「……でも、壊れかけの巨大ロボって嫌いじゃないんだよね」
キリミ「あっ、それはアタシも同じ。ロボはボロボロになってこそだよな」
サシミ「解釈一致」
2人の呼吸器のスピーカーから、ノイズ混じりにシゲミの声が流れる。
シゲミ「大丈夫!? 何があったの!?」
サシミ「敵の攻撃を受けた。機体が損傷」
キリミ「アタシらの前にロボがぶっ壊れちまいそうだぜ」
シゲミ「まだ動ける?」
キリミ「ギリだな」
シゲミ「よし。じゃあ引き続き戦いなさい」
サシミ「……妖怪・スパルタばばあ」
キリミ「この戦いが終わった後で駆除しなきゃならない怪異が見つかったな」
キリミとサシミは、動きを合わせながら慎重に体を直立させる。倒れていたHAZANも両腕を海底につき、身を起こした。
キリミ「スパルタばばあを倒すには、まずあのデカブツを何とかしなきゃならんわけだが……サシミ、何か作戦あるか?」
サシミ「現在の敵との距離はおよそ5km。この距離を保ちつつ、音よりも速い攻撃を仕掛ける」
キリミ「どうやって?」
サシミ「モロさんに教えてもらったHAZANの装備の中で、1つだけ海中の音の速度を超える武器がある……水の中でも光の速度、秒速22.5万kmで進む
キリミ「……へっ! やっぱロボはビームを撃ってナンボだよな!」
両腕を前方に伸ばし、手のひらを開くキリミとサシミ。HAZANも同じ動作をする。
ダルザムは追撃を加えるべく、再び大きく口を開き、思い切り海水を吸い込んだ。
キリミ・サシミ「行けっ!
HAZANの左右の手のひらが十字に光り、緑色の光線が1本ずつ射出された。光線は海中を真っ直ぐに突き進み、大声を放とうとしていたダルザムの両肩を貫通。残っていた3本の腕を根元からすべて切断した。
ダルザムは口から大量の泡を吐き出す。
キリミ「よしっ!」
サシミ「狙いどおり……」
右腕でガッツポーズをするHAZAN。
ダルザム「あぁ〜ん。もう、マジ激おこなんだけどぉ〜」
腕を落とされた衝撃でのけぞっていたダルザムの全身から、無数の赤黒い触手が伸びる。脳内にいるネクロファグスがダルザムの体内を走る血管を操作。HAZANの上半身を縛り上げた。コックピット内のキリミとサシミも、両腕が体に固定されて身動きが取れなくなる。
血管はズルズルとダルザムの体内に戻っていくと同時に、HAZANを自身へと近づけていく。足を動かして後退しようとするHAZANだが、引っ張られる力のほうが強い。身をよじるキリミとサシミ。
キリミ「なんだこのキモいのは……振りほどけねぇ」
サシミ「
海底を立ったまま滑るHAZAN。ダルザムは顔を上に向けた。
ダルザム「もう1回、至近距離で私の素晴らしくかわいい歌声を聞かせてあ・げ・るぅぅぅぅ〜uh!」
ダルザムが口を開け、海水を吸い込み始める。HAZANとダルザムの距離がどんどん近づき、その間隔は1kmを切っていた。
キリミ「マズいぜ。アイツの耳障りな声が来る……食らったら終わりだ」
サシミ「……お姉ちぇん、やるしかないよ。
キリミ「ああ。仕方ねぇな。ロボット遊びはここまでだ……シゲミ
呼吸器のスピーカーからシゲミとモロの声が流れる。
シゲミ「緊急事態のようね……良いわよね? モロさん?」
モロ「構いません」
シゲミ「ということだから、やりなさい。骨は拾うわ」
キリミ「頼んだ!」
サシミ「ちなみにモロさん、HAZANを作るのにいくらかかりました?」
モロ「秘密です。知ると最終手段が使いにくくなりますよ」
モロの言葉を受け、お互いに視線を合わせてニヤリと笑うキリミとサシミ。そして首を縦に3回、横に3回振った。
HAZANの首からあぶくが噴き出し、コックピットのある頭部だけが海面に向かって射出される。ジェット噴射でスペースシャトルのように海面へと進む頭部。水圧に押され、キリミとサシミの体に潰されるような負荷がかかるが、歯を食いしばりながら何とか耐える。
HAZANの頭部が胴体から切り離された直後、ダルザムの血管が完全に巻き取られ、その全身がHAZANの胴体と接触する。ダルザムの脳内で、HAZANの頭部がないことに気づいたネクロファグスは、大声を出すのを止めた。
その判断が大きな過ちとなる。HAZANの胴体が内部から光を放ち、大爆発。ダルザムの大声攻撃に等しい威力の衝撃波を生み、海底の岩盤を大きく