海上
攻撃の余波が届かないよう、ヘリコプターの高度を上空1200mまで上げていたモロ。操縦席内のレーダーでHAZANの頭部を補足し、急行する。
HAZANの頭頂部が開き、中からキリミとサシミが這い出た。体力を使い果たし、頭部で大の字に倒れる2人。キリミは右手で、サシミは左手で拳を作り、ゴツンとぶつけ合う。
およそ1分ほどでシゲミとモロが乗るヘリコプターが上空に到着。シゲミが下ろした縄はしごを、キリミとサシミはよじ登った。
シゲミが2人をヘリコプターの中に引き上げながら尋ねる。
シゲミ「敵は?」
キリミ「爆発に巻き込んだ。木っ端微塵だろうぜ」
サシミ「でも安心はできない……そうよね?」
シゲミ「ええ。ネクロファグスはどんな攻撃も効かない不死身の怪異。おそらくまだ生きている。だけど、ダルザムという入れ物を破壊することはできた……よくやった」
キリミとサシミの頭をなでるシゲミ。その直後、海面を揺らすザブンという音が3人の耳に飛び込んできた。ダルザムの体の一部と思しき肉片が浮上したのである。一部といっても、大きさは学校にある25mプールに近しい。
シゲミは肉片を見下ろす。その中心が小さくプクリと膨れ、毛穴に詰まった黒ずみのようにネクロファグスがニョロニョロと姿を現した。
シゲミ「出たわね」
ヘリコプターをオートホバリングモードに設定したモロが、車椅子に乗ったままシゲミに近寄る。そしてネクロファグスに視線を向けた。
モロ「追い詰めました」
シゲミ「この先はどうするの? ネクロファグスを殺すことはできないんでしょ?」
モロ「そのとおり。なのでここからは、
頭上にクエスチョンマークが浮かべる3人姉妹。シゲミは言われたとおり、車椅子の後ろに回り込み、両手で左右のハンドルを握る。
モロ「プロペラ、オン」
モロは掛け声とともに、左側の取っ手についている赤いボタンを押した。両方の車輪の中心から鉄製の棒が伸びる。長さはおよそ2m。その先端、花が咲くようにプロペラが開き、高速で回転し始めた。
プロペラが作り出した空気の流れで、車椅子はモロとシゲミごと浮上。ヘリコプターの外に出て、ゆっくりとダルザムの肉片に向かって降下していった。
キリミとサシミは、両腕を上げて無表情でハンドルにぶら下がる姉とともにゆっくり落下する車椅子を眺める。キリミは爆笑し、サシミは呆然としている。
キリミ「なんだありゃ!? 竹とんぼかよ! マジウケるぅ! つーかシゲミ
サシミ「モロさん……こういうメカニックなのが好きなのね」
シゲミの両足が肉片の上に着いた。少し遅れて車椅子も着地。モロが再度ボタンを押すと、プロペラが車体の中に格納された。
シゲミはモロの左隣に歩み出て、2mほど先にいるネクロファグスと対面する。
ネクロファグスは2人に気づき、ブルリと身を震わせた。
ネクロファグス「アナタは、ピカピカ爆弾ガール……それに『
モロ「久しぶりですね、ネクロファグスちゃん」
シゲミ「……メスなの?」
モロ「性別はありません。が、言葉遣いが女の子っぽいので、収容中はメスとして扱っていました」
シゲミ「ああそう」
体をくねらせるネクロファグス。不死身の体を持つ彼女でも、HAZANの爆発は相当堪えたのだろう。体の動きがぎこちない。
シゲミ「文字通り虫の息みたいね、ネクロファグス。その状態で追撃されても死なないのか、試してあげる」
シゲミはスカートの右ポケットから手榴弾を取り出した。ピンを抜こうとした寸前、モロがシゲミの手首を握って止める。
モロ「シゲミさん、平和的に解決すると言ったはずです。爆弾は仕舞ってください」
シゲミ「……私の出番が少なくて不満なんだけど」
モロ「万が一の事態が発生したとき、その対処をお願いします」
シゲミ「……了解」
手榴弾をポケットの中に戻すシゲミ。ネクロファグスは、体をくねらせるスピードを速める。
ネクロファグス「
ネクロファグスの挑発に対し、モロが淡々とした口調で答える。
モロ「たしかに、私たちにはアナタを殺す手段がありません。収容する施設も、今はありません。しかし、これ以上アナタによる被害を抑えるためにできることは、やはり捕らえて収容することのみ……」
ネクロファグス「じゃあやればぁ〜? また逃げ出してやるけどねぇ〜」
モロ「ありがとうございます。ではアナタを、