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VS ネクロファグス⑤

 ネクロファグスを自身の脳内に収容すると言い放ったモロ。その提案に驚いたシゲミは、モロの表情を見つめる。



シゲミ「モロさん……何を言ってるの?」


モロ「言葉のとおりです。今後、ネクロファグスちゃんには私の脳の中で暮らしてもらいます」



 シゲミが見る限り、モロの表情や瞳にウソをついたり隠し事をしたりしている様子はない。


 ネクロファグスとしても、モロの発言は想定外だった。体を激しくくねらせる。



ネクロファグス「……はぁ〜? わかってんのぉ? 私に寄生憑依されたら死ぬんだよぉ〜?」


モロ「アナタのことは何度も調査、分析しました。私はアナタ以上に、アナタの生態を理解していますよ、ネクロファグスちゃん。アナタは寄生憑依する際、対象者の神経をすべて操り、不必要な身体活動を停止させて人形同然にする……それが死の原因」


ネクロファグス「でぇ〜?」


モロ「神経をすべて操れるなら、通常の生命活動を維持したまま寄生憑依することも可能。もっと単純に、神経系に影響を及ぼさず体内で『共生』することもできるはず……神経の操作や対象者の死は、アナタの操り人形を作るために必要なだけであって、寄生憑依するための絶対条件ではない。ですよね?」


ネクロファグス「……」


モロ「そこで提案です、ネクロファグスちゃん。私の脳の中に入り、私と『共生』してください。私はアナタのとして体を差し出す。アナタは私を殺すことなく、意識を保ったまま脳内に住み続ける……アナタを危険にさらさないよう、私は全財産を投じて私自身を守り続けます。いかがでしょう?」



 体の動きを止めて、沈黙するネクロファグス。シゲミも黙ったまま成り行きを見守る。


 5秒後、ネクロファグスが再び体をくねらせ始めた。



ネクロファグス「私はこれまで、ウィークリーマンションのように人間の脳内を点々とし、思考を読み取ってきた……その数は万単位。人間には個性があり、それぞれが複雑多様な考え方をする。こんな生物は怪異を含めても珍しい……けど、1つだけ、どの人間にも共通していることがある! それは起きている間ずっとスケベなことばかり考えているということ!」



 普段の無表情がさらに固まるシゲミ。一方モロは、小さくうなずきながらネクロファグスの言葉を聞き続ける。



ネクロファグス「男も女も平静を装いながら、頭の中ではおぞましいほどエロい妄想をしている……実に不快ぃ! そんな人間の脳内に住み続けるのなんて、脱水症状になるくらいゲロを吐いても吐き足りないくらい不快なのぉ〜!」



 モロは耳を傾け続ける。ネクロファグスの語気はどんどん強まっていく。



ネクロファグス「人間が作るアニメには巨乳の女子が必ず登場するしぃ! 映画には義務なのかってほどベッドシーンが含まれているぅ! こんなド変態生物の中で暮らすのなんてぇ……」



 言葉に詰まるネクロファグス。聞き役に徹していたモロが、穏やかな口調で話し始めた。



モロ「私は正直に言うと、スケベなことに興味がありません。異性とも同性ともお付き合いしたことはないし、したいとも思わない。ワンナイトラブもない。自慰行為もしない。アニメも映画も漫画も、スケベなシーンがない幼児向けのものしか見ない。というより、普段は株価チャートしか見ない」


ネクロファグス「えっ……?」


モロ「人並みに旅行などをする感性は持ってますよ。でも旅先で風俗店に行ったり、ホストクラブやキャバクラなどに行ったりはしない。露天風呂にも入らず、ホテルや旅館の個室についているお風呂を利用する。私はスケベと切り離された存在です。アナタにとって私は、好条件な物件ではないでしょうか?」



 ネクロファグスは体の先端を下へ向ける。表情はわからないが、悩んでいることはシゲミにもモロにも伝わってきた。



モロ「他にアナタが望むことがあるならば、できる限り対応します。私という物件で、2人で暮らしましょう」


ネクロファグス「……もし断ったら?」


モロ「ここにいるシゲミさんに協力してもらってアナタを捕まえ、どうやったら死ぬのか実験し続けます。私の実験好きは、ご存じですよね?」


ネクロファグス「……私が寄生憑依することで、アナタにメリットはあるの?」



 モロは少し間を開けた。



モロ「1つだけ、お願いがあります。私の神経の一部を操って、足を動かせるようにしてほしいのです。ネクロファグスちゃん、アナタならできるはず。私はもう一度、自分の足で歩きたいのです」



 再度沈黙するネクロファグスに向けて、シゲミが切り出す。



シゲミ「正直、アナタがどう判断しようと私は構わない。モロさんの体を操って悪さをしようとしても、モロさんの体ごと駆除するだけ。私、モロさんのこと嫌いじゃないけど、躊躇なく殺せるくらいには好きでもないし」


モロ「あらショック」


シゲミ「ただ、モロさんの気持ちを汲んであげてほしいとは思ってる。彼女は、アナタとの戦いで足を動かせなくなってしまった。もちろん、彼女のしたことを許せないという気持ちもわかる。それでも、お互いに仲良く、他人に迷惑をかけずに生きていけるのなら……モロさんの提案に乗ってみるのも、アリじゃないかしら?」



 シゲミの言葉を聞き終えたネクロファグスは、全身を震わせて答えを口にする。

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