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VS ネクロファグス⑥

ネクロファグス「わかった……モロ……アナタの中に住む……足も動かせるようにしてあげるぅ〜! 私のせいで……ゴメンねぇ〜!」


モロ「私こそごめんなさい……アナタの気持ちを考えず、マグマに浸したり、液体窒素の中に入れたりといった残虐な実験をしてしまって……本当にごめんなさい」



 車椅子の取っ手を掴んで前に倒れ込み、肉片の上に両膝を着くモロ。ネクロファグスがしゃくとり虫のようにモロへと近づく。モロは30cmほどの大きさのネクロファグスを両手で受け止めると、顔に近づけ頬ずりをした。ネクロファグスもモロの気持ちに応えるように、体の先端を彼女の頬にこすりつける。


 愛情を確かめ合うかのような2人の行動を見て、シゲミは顔を引きつらせる。



シゲミ「……これほどの仲良くなるスピードは、女子ならではね。しかも陽キャの女子。私は持ち合わせていない能力」



 見つめ合うモロとネクロファグス。



ネクロファグス「でも、痛くない寄生憑依の方法……わからないのぉ〜! モロ、ちょっと我慢してくれるぅ〜?」


モロ「ええ。頑張りますが、なるべく痛くしないよう善処してください」



 モロの手の中から体を伸ばし、左目に飛び込むネクロファグス。身をよじらせ、眼球の隙間から脳へと侵入する。その全身がモロの目の中へと収まったと同時に、首の力が抜けて顔を下に向けた。


 シゲミは、ネクロファグスがモロとの約束を破って暴れ出す可能性を考え、ポケットの中に手を入れて手榴弾を握りしめる。


 ゆっくりと立ち上がり、シゲミのほうを向くモロ。その表情は幸せそうな満面の笑みだった。



モロ「また……立てました……自分の足で……立てました……ありがとう、ネクロファグスちゃん」


シゲミ「……どうやら杞憂のようね」


モロ「大丈夫ですよ、シゲミさん。ネクロファグスちゃんは、しっかり私との約束を守ってくれましたから。ね?」



 突如、モロの口調が変わる。



モロ「今までは自分の意思でを動かせないのは窮屈だって思ってたけどぉ〜、他人に全部お任せしちゃうのも悪くないかもねぇ〜。楽ちん楽ちん〜」


シゲミ「仲良く、おとなしく暮らしてくれれば、私は何もしないわ。けれど少しでも問題行動をしたら……わかってるわよね?」


モロ「わかってるよぉ〜。約束だからねぇ〜。このネクロファグス、悪さはせず『鬼河原おにがわら モロの副人格』として生きていくことを誓いまぁ〜す。」



 右手を胸に当てるモロ。シゲミはスカートから手を引き抜いた。



シゲミ「……私、慎重な性格だから、口約束だけじゃ不安なのよね。アナタが何かやらかしたときのために、できるだけ私の近くで生活してもらいたいの。常に近くにいろとは言わないし、それは私としてもストレスだから、できるだけ」


モロ「いいけどぉ〜……具体的にどうすればいいのぉ〜?」


シゲミ「やってほしいことがあるわ」



−−−−−−−−−−



5日後 AM 8:31

市目鯖しめさば高校 3年H組教室

 上下青色のジャージに身を包んだ男性教師が、着席する生徒たちの前に立つ。その左隣に、ブレザーを着た女子学生が1人。



男性教師「それじゃあ、みんなに自己紹介を」


モロ「鬼河原 モロでぇ〜す! 今日から市目鯖高校3年H組でお世話になりまぁ〜す! 気軽にあだ名で、『ファグス』って呼んでねぇ〜!」



 モロの高いテンションについていけず、きょとんとする生徒たち。静まり返る教室。その空気を察したモロは、ネクロファグスと自身の本来の人格とを入れ替える。



モロ「失礼しました。初対面はできるだけ明るい印象を持ってもらったほうがいいかと思いましたが……冷静沈着なキャラでいきます。どうぞよろしく」



 コロコロと変わるモロの口調に困惑しながら、生徒たちはパラパラと拍手を送った。



<VS ネクロファグス-完->

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