そして。時同じく所変わって綾部家前。息を激しく乱しながら、やっとの思いで辿り着いたエヴァ。装甲のアシストを全開にしている理由は運動音痴なため。しかもそのアシストを全開にすると稼働時間の限界が早まってしまう。どうも難儀なものである。
「……なんか向こうで多くの人が団結して動いているように聞こえるんだけど、てか礼安さんたちここにいないんですけど!?」
確実にいるであろう連絡先の場所にいないとなると、目的地が残酷にも更新されてしまう。かなり離れた位置に存在する、『教会』埼玉支部。しかし、こんな夜にバスなどの公共交通機関は数少ない。加えて、エヴァは支給品のバイクは持ち合わせていない。何より、自転車をはじめとした二輪車に乗れない。酷く乗り物酔いしてしまうためである。
「この状況……マジでどうしよう!?」
別の意味で鬼気迫っていたエヴァであったが、一つ考え付いた案がある。しかし、この案はかなり悪目立ちするため、あまり使いたくない手段であった。しかし、もう四の五の言っていられない状況であった。
「あーもうしょうがない!!」
懐から鍛冶用小槌を取り出し、それで乱暴に地面を叩く。多くの魔力を扱うものの、猛スピードで追いつくにはこの手段しかなかった。
無数のコンクリ製触手を生成、それらを束ねより強靭なものへと仕立て上げる。
エヴァはその上に乗り、圧倒的スピードで伸長。
(――背に腹は……変えられない!!)
覚悟を背負い猛スピードで進み続けるエヴァであったが、早々に限界は訪れる。
エヴァの口から、無限に排出される謎のキラキラが埼玉の夜空に撒き散らされながら、埼玉支部へ向かっていく触手たち。美人形無しである。
しかしその様子は、はたから見れば幻想世界にしか存在しないであろう龍(のようなもの)に跨る何者か。撒き散らされるキラキラは龍の涙……のように見えるかもしれない、それほどに幻想的だったため、人々は魅了された。
その日を境に、埼玉にある都市伝説が生まれた。埼玉の未来を憂う龍が涙を流しながら空を飛ぶ、『埼玉に住まう龍神様』。本質を知ってしまったが最後、不快な気分になること請け合いな新生都市伝説であった。