埼玉支部内では、大騒ぎとなっていた。多くの端役が走り回り、現状を収めようと努力していたが、もはや焼け石に水。圧倒的財力によって従わせていた、そう思っていたのは自分たちだけとは知らずに。
旅館で襲撃した時とは異なり、学園に単独襲撃をかけた姿で端役の前に現れるグラトニー。その表情は、実に不満げであった。
「――貴方たち、まだこの状況を収められないのですか? 金はばらまいておけば大衆は黙るはずですよ?」
「そ、それが……主に財源としていた県庁所在地周辺の県民が、何者かの扇動によって『新生レジスタンス』結成を主張しだしたとのことです」
その文言に、怒りを露わにするグラトニー。それもそのはず、かつて滅ぼしたはずの反乱分子が、時を経て人を変え復活したのだ。圧倒的力と圧倒的財力でねじ伏せてきたはずなのに。
(なぜ……なぜいつだって私を邪魔する……!!)
誰にも聞こえないほどに小声で呟く。かつての忌々しい記憶が鮮明に蘇っていく中、深く深く息を吐いて、今までの平静を取り戻す。あくまで形だけではあるが、それでもスイッチを無理やりにでも切り替え、これまで多くのことを成し遂げてきたのだ。
「――では、主要幹部のうち、副支店長一人と次長を二人ほど。そして『奥の手』を一人出しなさい。そして今回ばかりは私も大将として全力で迎え撃ちましょう」
『奥の手』と聞き、その場の全員が俯く。それでも、ここに集う人間はすべて欲の根源は同じもの。長として発破をかけるべく、怪しい笑みを浮かべながらその場で宣言する。
「今回はかなりの大仕事となります。もしここで敵を圧倒的に潰せれば……事実上不可侵領域となっていた、あのモールの利権をも獲得できるでしょう。そうなれば埼玉全土を完全掌握、我々こそが、『教会』支部内で最強を名乗ることすら容易でしょう! ゆえに……この戦いで勝利できた場合は……全員に『言い値』でボーナスを与えましょう」
埼玉支部、もとい壇之浦銀行で働く者の目的はステップアップなどそんな見え透いた猫かぶりではない、それぞれが金のために動く。己が欲望を叶えるべく、日々どれほどの劣悪な状況下でも働いてきたのだ。
だからこそ、この状況下においてこの宣言は絶大な効果をもたらす。この後、勝利したとしたら……なんて皮算用も、今は大いに許される。自身が望む圧倒的な富を得られるならば、死ぬ気で全員が一致団結するだろう。
圧倒的なやる気の圧。それぞれが金融業を足早に済ませ、相手を潰すべく武器を持つ。
(これだから、私の端役は扱いやすい)
しかし、グラトニーの目論見は早くも危険水域に達しようとしていたのだが、それを知るまではあと数分のことである。