第一部隊は院、エヴァ、丙良……ではなく代役の信一郎。正面入り口から壇之浦銀行を制圧するべく素早く動き出す。そこからさらに三人別々に顧客の利用する各階を制圧、のちに無力化していくことが主目的である。
階層の構造としては、最高三階で構成された迷路と表現するのが正しいだろう。主な構造意図としては、盗人や邪な目的を持った人物を逃がさないため。銀行以外にも、ヤクザの組事務所も似たような構造を取りがちである。
そのためこの銀行に勤める人間でない限り、最短ともいえる
しかし、最初からエヴァはあらゆるガジェットを用いてすでにマップを把握済みかつ共有済み。その共有内容が、まさにあの各種資料内に添付されているのだ。
一階が出入口兼一般銀行フロア、二階は融資相談フロア、三階は埼玉に訪れる重役接待および『話』をする場。それぞれ、丙良の代わりを担いつつ最も腕の立つ信一郎が入り口を塞ぎ、次点で戦闘経験者である院が二階を担当、そして残った面子かつ更なる情報取得のためにエヴァが三階を担当する。
「院さん……ご武運を」
「ありがとうございますわ、エヴァ先輩」
女の子二人の間に入り込む、なんて野暮なことは考えなかったが、なんとも蚊帳の外感が強い信一郎は、年甲斐もなく落ち込んでいた。
「ほら……なんか激励の言葉とか……無いの!? 学園長泣くよ!? 大人の本気の駄々こねっての見せてやるぞ!?」
「もしそれ行ったら礼安にチクりますわよ」
その院の一言で良きパパモードのスイッチが入った信一郎は、何も語らなかった。飼い主と別れてしまう忠犬のような、だいぶ悲しそうな顔をしていたが。
信一郎は、上階に向かう二人を満面の笑顔で見送ると、また一瞬にして表情を変える。『原初の英雄』たる真剣な表情そのものであった。
「――ねえ、それで隠れてるつもりかい? 出てきなよ、私と面と向かって喋ることを『許す』よ」
信一郎がフロア中心に向き直ると、そこにいたのはこの銀行の影の権力者たる存在、「副支店長」。
二メートルを超える長身に、圧倒的筋肉。頭脳を常に働かせる仕事であるはずの金融業界者でありながら、当人だけで融資から厄介者の排除まで出来てしまう実力者であることは間違いないだろう。カイゼル髭をたくわえ、モノクルをかけた、圧倒的筋肉の圧さえなかったら模範的な英国紳士とも思える風貌であった。
「失敬……まさかあの英雄界のトップともいえる存在が、こんな場所にまで出張るとは……恐悦至極でございます」
「いやはや、今回は少々事情があって欠員が生まれちゃってね。今回特別で馳せ参じたってわけよ。私の姿、今はもうだいぶレアだから網膜にまで焼き付けといたほうがいいよ??」
実に軽妙な口調で大人のやり取りを演出してはいるものの、信一郎は実にリラックスしていたのだ。体の各所どこを取っても、無駄な力が一切入っていない状態。未熟な相手によっては、手を抜いていると思われるほど。
「では自己紹介を……私はこの『教会』埼玉支部所属、そしてこの壇之浦銀行副支店長を務めています、齢六十の
「へえ、ご丁寧にどうも。私は……英雄学園学園長兼世界を股にかけるトレジャーハンター……そして、この現代日本における『原初の英雄』、齢五十の滝本信一郎。以後――お見知りおきを」
丸善は、相手の力量を知っているが故、加減など無粋であることは理解していた。しかし、当の本人である信一郎は一向にドライバーを構えない。
「――変身は、しないので?」
「逆に聞くけど――君如きに『いる』と思ってる??」
その相手の精神を逆撫でするような振る舞いに、敢えて乗せられてやろうとインスタントライセンスを装填、チーティングドライバーを起動する。
『Crunch The Story――――Game Start』
「変、身ッ」
一瞬にして、怪人体へ姿を変える丸善。
元の恵まれた肉体を存分に生かすように、より歪んだ魔力によるドーピングを施した肉体。パワーだけの筋肉ダルマにならないように、しっかり脚部にも常時魔力を供給。さらに曲がったことを嫌う丸善の性格が表れているために、刀と言えるものは携帯しておらず、己の肉体だけで全てをこなす高次元のバランス型と言えるだろう。
怪人化の特徴と言える、一部が常人と異なる歪んだ状態であるのだが、それは顔部分に表れている。両目、口が痛々しく縫い付けられているようなビジュアルであった。
『すぐに、『変身しなければ』と危機感を持たせてあげましょう』
「へえ、それは僥倖。久々のまともな戦いだ、同じくらいの年齢層の相手に向かって言うのも違うかもしれないが……結構体がジジイでね、鈍ってるんだ――――ウォームアップくらいはさせてくれよ??」
埼玉支部のミドルと英雄サイドのミドル。平均年齢高めな戦いの火蓋が切って落とされたのだ。