炎の弓で刀の攻撃を荒々しく捌きながら、隙を見て何度も射撃。
しかし、その炎の矢は刀で切り飛ばされ、易々と防がれる。
このままでは平行線上のまま、とメインの武器を三点バースト型 炎の弓で刀の攻撃を荒々しく捌きながら、隙を見て何度も射撃。
しかし、その炎の矢は刀で切り飛ばされ、易々と防がれる。
このままでは平行線上のまま、とメインの武器を三点バースト型
その切り替えの隙を突くべく、即座に近づく東仙。それを回し蹴りで制すると、無防備となった腹部に三発叩き込む。しかし、明確なダメージを与えることは叶わず、その場で暴れ院を退かせる。
「……やはり、遠距離メインの私の武器……いや、王の武器では心許ないかもしれませんわ」
『何だ、余の武器に文句か!』
「ええ明確な文句ですとも。少なくとも、現状の弓矢や短銃では限界があります」
ぶつくさ文句を言いながらも、新たな武器を生成。それは、明確に弓でありながらも分割すると一対の斧になる、礼安の武器のような完全新型武器であった。
「……名付けるとならば、『
『フンババ分からせた時みたいな、余のパワフルさをぶち込んだわ!』
王の自慢話を適当に流しつつ、即座にアローモードのバビロニアを分割、一対のアックスモードへと変形。片手斧の中でもかなりの大きさを誇っているため、パワーだけは両手斧に近しいものがある。
刀の攻撃に合わせ、強力無比な攻撃を叩きこみ、圧倒的パワーで仰け反らせる。
東仙も、その攻撃に負けないよう、だんだんと刀を振るう力が強くなっていく。
しかし、先ほどとは異なり、完全遠距離用の武器を用いているわけではないため、次第に刀の攻撃を読み、痛快な一撃を叩きこんでいく。
押されつつある状況に雄叫びを上げ、ドライバー上部を二度押し込み眼前の英雄を殺そうと画策する、東仙だったもの。
『Killing Engine Re/Ignition』
「ならば……今目を覚まさせてあげましょう――今の私の、全力を以って!!」
ドライバー内からギルガメッシュのライセンスを取り出し、バビロニアのライセンスホルダーに認証、装填しなおす。
『炎斧弓、必殺承認!!
歪んだ魔力を纏った刀の一撃を、斧の防御によって破砕。完全に無防備となった胴体部分を、交差する二撃でぶった切る。
圧倒的火力に力なく倒れ伏す怪人化東仙。しかし、その数秒後には魔力自身が東仙の意思関係なしに蠢きだしていた。
「――どういうこと……!? 命を奪うまではいかなくとも……確実に倒したはずなのに……!!」
しかし、ギルガメッシュは何となく理解していたのだ。チーティングドライバーの汚染力と、この世界の持つ危険性に。
『――これは、宿主が生きていようが死んでいようが関係ない。この世界の特性上……この対象者が我々を生かして帰らせたいか考える限り……宿主が抱く感情によって全てが逆転する』
「――――つまり、無限に立ち上がってくる……そう言いたいのですね」
ふらふらと、立ち上がるもまた苦しそうにもがきだした。心配する院を、何とか絞り出した声で制止するのは、東仙自身であった。
『来るな……!! 絶対に……近寄るな!!』
先ほどのバビロニアの必殺技で大量に出血している東仙であった。そのため、出血なのか痛みによる苦痛の涙なのか、判別がつかない状態にあった。
『――この世界は、俺の性格を完全に反映している。だけど……最後にもう一つトラップがあることくらい、この世界の意地悪さを理解している……その扉は……駄目だ』
『アマノジャクフィールド』と称された世界。通常頂点にゴールが存在する競争が、地下へ辿り着くための競争になったり、概念として『遠い』と『近い』が正反対になったり。中々意地の悪い構成をしていたが。
出口と称している扉が、正反対の意を持っていることくらい、容易に想像がついたのだ。
『幸い――この世界が最初に構築されてからは不可逆の性質だ……だから……』
苦悶の声を上げながら、扉の前に立つ東仙。ドアを開くと、瞬時に禍々しい魔力が東仙を取り込もうとする。
『だから――この魔力を俺ごと倒せ、英雄!!』
精一杯、東仙は自分の意思を表に出している。それくらいは容易に理解できた。しかし、やっていることは命の取捨選択であった。それゆえに、院は東仙の命を犠牲に先に進むことをためらっていた。
だが、東仙は心の底から絞り出すほどの大声で、院を一喝する。
『――俺を、倒せよ英雄!! 俺はお前らの敵だ!! もし俺を殺さなかったら……お前の仲間を悪逆の限りを尽くして一人残らず……こ、殺してやるさ!! お前のせいで、多くの英雄の卵が死ぬんだぞ!!』
本当は、痛く苦しく。自分が死ぬかもしれない恐怖に心を蝕まれながらも、院の背を押していたのだ。自分よりも、その先の未来に生きる存在としてふさわしいのは、彼女であると。
一瞬の逡巡。そして、院は決断する。
「――東仙さん。貴方は……強い人ですわ。恐怖と復讐心に心を蝕まれながらも、誰かを思いやれる、運命のいたずらによって全てがおかしくなってしまった、悲劇の人。だからこそ……せめて手向けとして私が引導を渡します」
彼の覚悟を、少しでも無駄にしないように、ライセンスをドライバーに装填しなおし、両側を力強く押し込んだ。
『超必殺承認!!
その場から飛び上がり、宙で飛び蹴りの体勢を整える院。燃え盛る焔を纏い、暴走の危険性のある東仙と扉をロックオン。
「貴方本当に――『いい』性格していましたわ」
困ったように微笑すると、死を覚悟したのか涙を一筋流しながらも笑んで見せる東仙。
むき出しの肉体部分にクリーンヒットする一撃。圧倒的な熱量により、血など流す間もなく瞬時に蒸発していく。涙などもってのほか。骨すら残すことなく、東仙はドライバーごと完全消滅した。
ドライバーの画面には、無情にも『GAME CLEAR!』の文字が。
勢いは一切殺すことは出来ず、東仙が確かに存在した場所に爆心地が出来上がる。その中心に立つ院は、頭部装甲内部が曇っていたため良く見えなくなっていたものの、東仙に対し、手向けとして静かに涙を流していた。
覚悟を決めた男を、邪魔などできやしない。この世界のルール上、仕方のないことであった。当人の遺志に関係なく、宿主の精神の機微を読み取り、天邪鬼な世界として成り立っているのだ。
「――私が、私たち英雄が、貴方がたスラム生まれの人たちの思いを背負います。背負い過ぎて、ぎっくり腰になってしまうかもしれませんが……それが理不尽に殺されていった人々のためになるのなら……私はいくらでも背負ってやりますわ」
その場で静かに祈りをささげると、扉から離れ佇む院。それと同時に、この世界からの脱出が始まった。光の粒子に包まれながら、世界が徐々に崩壊していくのを感じていた。
院は、その場で静かに何も語ることなく敬礼をした。院にとって、そこまでしないと気が済まなかったのだ。人一人の命を以って、自分はこの先の未来を生きていく。罪悪感と共に、自分自身に誓約を課したのだ。
「……さようなら。絶対に、絶対に無駄にしませんから」
これにより、「『教会』埼玉支部兼壇之浦銀行次長、そして勇敢なレジスタンスの生き残り」東仙空木と、「真来財閥次期党首兼英雄学園東京本校英雄科一年一組所属」真来院の戦いは、入り込んだ世界のルールに振り回された結果、多くの暗い過去を背負い復讐に生きた人間本人から遺志を継ぐ形で、覚悟を背負いこの先の未来を歩んでいく院の勝利となった。