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第八十九話

 幼少期の頃から、富士宮は争いごとを好まなかった。そのためか、周りに人が寄ってきたものの、望むものは富士宮が所持し、周りの子供たちが欲しいもの。下心見え透いたその振る舞いではあったが、富士宮は争うことを未然に防ぐため、結局は明け渡していく。

 それでいいと考えていた富士宮は、小学生時代に初恋を経験した。

 しかし、カースト上位の女子が、富士宮の好意に気付き、徹底的にいじめたのだ。今となったら余裕で傷害罪を勝ち取れるほどに、徹底的に嬲られたのだ。学校中に富士宮の秘密だったり、どこで盗撮したのだかわからない写真をばら撒かれ、富士宮は憔悴していった。教師陣の誰も救うことはせず、いじめを隠蔽いんぺい

 ついに堪忍袋の緒が切れ、そのカースト上位の女子から始まり、徹底的に仕返しをしていったのだ。されたこと全て、反射していくように。何なら、それ以上のことすらした。

 その結果、そのカースト上位の女子をはじめとした、女子グループは全員苦痛に耐えかねて首をくくり自死。富士宮があの子たちを殺した、と批判の嵐であった。自分がどれだけ被害を受けようと助け舟すら出さなかった癖に、である。

 それ以来、他人を信用することをやめ、明確に争うことをやめたのだ。女だからと突っかかってくる輩や、肉体関係を求める輩の要求も、素直に飲んでいった。

 やがて、多くの苦難を経験しながらも、富士宮は会社の同僚と結婚、子供を授かることとなった。

 しかし、夫はかなりの畜生で、子供を若いうちから『売り』に出そうとしていたのだ。自分と富士宮の稼ぎだけでなく、より自分がハイソサエティな存在になりたいと、そんな見栄のために、子供への愛情などありはしなかったのだ。それは富士宮に対してもそうで、結婚した理由は『美人な奥さんを持ちたい』のと『毎晩抱く性的欲求の発散』のため。

 愛と言える感情は、ゼロであったのだ。全て自分のため、自分が頂点であると考えていた、その男の最悪な考えによるものであったのだ。

 争うことをやめていた富士宮であったが、子供を守るべくその男を手にかけたのだ。少しでも、子どもの未来を輝かしいものにするべく。犯罪者の娘となるか、愛を放棄され売られた娘か。どちらと共に人生の長い道のりを歩んでいくかなど、想像に難くはなかった。

 男の死体を山奥に遺棄した後、その数年後。娘は大きくなりやがて好きな人が出来るようになった。しかしその子供が好きになった存在もまた、外面だけは良い品性下劣な存在であった。

(――あの子と、付き合うのはやめなさい。これは『貴女のため』なのよ)

 周りが自分を言いくるめるときの常套句、『貴女のため』。その言葉を無意識にも選んでしまったことを瞬時に恥じながらも、娘は怒り狂った。

(――何でよ、何で私の邪魔をするの!? お母さんなんて……お父さんを殺した人殺しのくせに!!)

 その娘の台詞は、富士宮の心に深く突き刺さるものとなった。完全にそこに愛などないと感じてしまった富士宮は、娘を孤児院へ入れた。それを娘は大層喜び、完全に富士宮は見捨てられたと感じた瞬間であった。

 貯金をすり減らしながらも、日々何とか生きながらえていく中、自分の故郷に新興宗教が立ち上がっているのを知った富士宮は、藁にも縋る思いで入信。やがてめきめきと力をつけていき、役職を持つようになった。

 宗教として、より知名度を上げるためには、困っている存在の援助、そして信者とする流れが必要不可欠であった中、富士宮は世の中から見捨てられた女の子たちを匿い、それぞれが輝ける場所を提供した。それこそが、ストリップ嬢としての道。最初は体が貧相なものであったが、富士宮は親切丁寧に居、食、住を提供した。その結果、恵まれた豊満な肉体美を得た女の子たちは富士宮、ひいては埼玉支部を崇拝した。

 娯楽に飢えていた男たちは喜んで飛びつき、彼女たちの寒々とした懐を温めさせていた。それが、『その子たちのため』になるなら、ありとあらゆることを駆使しながら、そのストリップ嬢たちを育てていったのだ。



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