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第百三十三話

 礼安に対し、事の詳細をすべて話しきるまでに、話を噛み砕く時間含め数分。

 結果、半身だけ院と透に支えてもらいながら起こされた礼安は、自身の無力を憂いていた。

「――ごめんね。私が弱かったばかりに……拠点が攻め落とされちゃった」

「……礼安さんだけの責任ではないよ。丙良くんに指摘されるまで、私も気付かなかったんだ」

 礼安は、どことなく加賀美に対し『親近感』を覚えたが、それを言語化することはよした。

 現状、深夜二時。試合開始まであと七時間。しかしその間に、英雄側が失ったものが多すぎた。この拠点内に残っているのは、裏切る覚悟など最初から無かった一年次生徒ばかり。しかも、その生徒たちの大多数は、既に戦意喪失状態にあった。

 一年次最強たる礼安が敗北したこともあり、「自分が敵うはずない」と落胆していたのだ。皆、『教会』の軍勢に殺されてしまうのではないか、その予感を膨らませていた。

「――ですが、正直礼安さんをはじめとした、皆さんの欺く作戦に関してはお見事と言わざるを得ません」

 破壊されたデバイスを素手で摘みながら、訝しげに見つめる河本。

「それに関しては、礼安が大将首になった瞬間から、ある程度決めていました。礼安に一番暴れてもらいたいと思いましてね」

「実際、それが功を奏した、って訳っスよ。『デバイスの入れ替え』こそ、礼安を活かす道だった」

 そう、礼安があの時装着したのは、そして待田に破壊されたのは、エヴァのものだった。エヴァはこれ以降戦いに参戦できなくなってしまったものの、『誰かのデバイス』を使うことが、真っすぐに敵と戦う礼安にとって、最もやりやすい手法であったのだ。

 クランがデバイスドライバーを使った際のことを思い出し、作戦のプロトタイプ時点では院から、女子部屋に入ってからはエヴァが提案したものであった。誰かのデバイスを用いて変身したとしても、特に支障が無かったことが全てであったのだ。

 故に、現在デバイスの渡り先は、礼安のものが院に、院のものが透に、透のものがエヴァに、そして破壊されたデバイスは礼安に渡ったエヴァのもの、となるのだ。

「デバイスには、色々残高が入っていましたが、それに本人確認データ等が入っていましたが……まあ、あとからどうとでも復旧できます! それよりも礼安さんたちがフルスペックの力を出せるか、それが全てでしたから!」

 エヴァは変身するうえでデバイスを用いないが、ルールはルール。生き残ったのはエヴァのバディである院だけ、となった。

「しかし、問題はここからですわ。恐らくではありますが……ポイントの移行量がちぐはぐなため、デバイスの交換に感づかれたでしょう。残る三つの私たちのデバイスで、何ができるのでしょう……」

「この場に丙良センパイや信玄センパイがいりゃあまだかく乱先としては利用できるが……この場にいねェし、何より今どこにいるかも分かんねえし。何より……主戦力をこれ以上失うのは痛手が過ぎるぜ」

 信之との一件で丙良は行方不明、信玄に関しては皆の前から姿を消したっきり、どこにいるかは分からないままであった。

 するとその時、加賀美が自身のデバイスを差し出したのだ。

「――もし、これ。よかったら……使ってください!」

「えっ、そんな加賀美ちゃん……どうして……?」

「……私、正直丙良くんに連れ出してもらわなかったら、一生足手まといのままだった。襲撃に気付けなかったし……せっかく恵まれた武器の因子だけど……私は実技成績がそんなに良くないし……なら、活かしてくれる人にデバイスを託した方が、きっと勝ちの目があるって信じるよ」

 デバイスを差し出す手は、震えていた。しかしその目は、礼安を信じる目であった。

 そのデバイスを受け取る礼安であったが、その瞬間にお互いの間に、迸るものがあった。お互いその正体が何なのかは分からなかったが、詳しく詮索することはやめた。

 その瞬間、一行の予想を大きく裏切る出来事が起こった。

「――よ、河本ちゃん。敵本拠地でのほほんとしているところ悪ィが、俺……推参だぜ」

 一行がその声の先へ振り向くと、そこにいたのは片手剣を携えた信之のバディである、百喰正明モグ マサハルがいた。


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