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第百三十五話

 所変わって、『教会』サイド。多くの戦闘資格を失った、ただの裏切り者を抱えた中で、これからの策が立ち行かない状態にあった。

「――英雄共……また、また俺の邪魔をするのかよ……!!」

 唇を噛みしめる信之。あまりにもの強さで出血するほど。その様子を見て、何も言わない待田に対し、最大級の苛立ちを見せながら胸倉を掴む。

「待田、今は俺が上司だ。現状戦える面子をそろえて英雄共を殲滅しろ」

「――それは出来ねえな。俺一人になっちまう。万が一、億が一俺が負けたらどうすんだよ」

「お前は自ら最強格と名乗ったんだろう!? ならそれに準じた働きをしろよ!!」

 感情のままに暴走する信之を、簡単な印を組みその場に二百トン以上の『プレシオン』を叩きつける。礼安に放ったものよりも圧倒的に強い『圧』であった。

「――呼吸も出来ねえか。まるで潰れた蛙のようだぜ、お前さん」

「何の……つもりだ……!!」

 信之の髪を乱暴に掴み、ゆっくりと持ち上げる。待田の表情は、実に冷ややかなものであった。

「――俺ァよ。手前の癇癪に付き合ってやれるほど、優しくはねェんだわ。いつだって複数のプランニングの元に、最悪を提供してんのかと思ったが……思ったよりもガキ臭ェ。目の前しか見えてねえ猪よりも頭悪ィようでなによりだ、『支部長』様」

 懐から煙草を取り出し、年季の入ったライターでじっくりと火をつける。信之の頬を乱暴に掴むと、煙を挑発的に吹きかける。

「最悪は、何も奴の味方をどうこうするだけじゃあねえだろ。頭硬すぎか手前。念能力を扱える者同士……少しは分かってモノ言ってんのかと思ってたぜ」

 待田の罵倒に対し、苛立ちを隠さない信之であったが、待田の冷徹な瞳は変わらない。年季の違いが如実に表れた瞬間でもあった。

「決まってんだろ、『信玄』と戦力として残存した『こいつら』を使うんだよ。手前がわざわざ労力をすり減らしてまで絶望させたい気持ちは十分わかった、だがそれじゃあ非効率的だ。当人に害させた瞬間に、一石二鳥の戦果が得られる。信玄が勝利しようと敗北しようと、な」

 それに、待田は河本が元から『教会』側の人間でないことは理解していた。それに、本部から『別目的』でやってきた百喰も、信用は一切していない。

 待田が最初から信用しているのは、最初から自分のみ。次点で、純粋な負の感情を当人にぶつけたがっていたあの人物。

「――鍾馗とやら。いよいよ出番だぜ」

 待田の背後から現れたのは、英雄・武器サイドを完全に裏切った、漆黒のスーツに身を包んだ鍾馗。その瞳は、裏切る前よりも深く淀んでいた。しかし、薄気味悪い笑みを絶やすことはない。今までの比ではない力に身を浸らせた結果、圧倒的な全能感に包まれていたのだ。

「……ようやく、僕の出番ですか。待ちくたびれましたよ」

「悪ィ悪ィ。少々お遊びが過ぎちまったからよ」

 手にしているインスタントライセンスが、本人の歪んだ欲により非正規のライセンスに変貌。デバイスドライバーも、『バディ』が未だリタイアしていない影響で、戦闘資格を失っていない。故に、そのままチーティングドライバーに完全変容。

 ほんの短い裏切りの間に、並外れた力を手にしていたのだ。

「どれほど、殺した?」

「ざっと、待田さんが殺した人数と同じかそれ以上。その辺りで拠点に帰れず仕舞いだった一年次、二年次の英雄・武器科関わらず僕が皆殺しにしました」

「――流石、卑下しているだけで実力は確かなようだな」

 鍾馗は、自身の軍勢の大将であるはずの、信之の首元に錆びだらけの片手剣を向ける。あまりにも自然な動作だった故、信之は一瞬知覚できなかった。

「……大将首、僕に譲ってもらっても構わないんですよ」

「駄目だ鍾馗、まだこいつには利用価値がある。気に食わねえのは俺も一緒だが……効率の良い勝利を目指すには、戦力が少なかろうとどうとでもできる。何とかと鋏は使いよう、ってもんだ」

 『圧』を解く待田。肺が長いこと潰されていたため、自身の体内に酸素を取り入れようと咳き込む信之に、そんな彼を見下す二人。立場が完全に逆転した瞬間であった。

「――よし。んじゃあ……信玄のとこに行くぞ。俺が直々に洗脳する」



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