数日後、諸々の確認を終えたセナは帝都にいた。少しでもナーイアスの経験値を稼ぐために移動は徒歩である。
積極的に狩りを行った結果、ナーイアスのレベルは40にまで上昇している。これで全盛期の一割にすら届かないのだから驚きだ。
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『泉の精霊ナーイアス』レベル40
分類:泉の精霊
【泉の加護】【精霊体】【魔力還元】
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「(これだけ上げて取り戻したのが【泉の加護】と《聖水生成》、それに回復魔法の〈オールヒール〉だけかぁ)」
【精霊体】と【魔力還元】は従魔契約を交わした時からあったので、本当に取り戻せたスキルは一つしか無い。
どちらもパッシブ効果のスキルで、【精霊体】は物理攻撃無効化、【魔力還元】は周囲にいるだけでMP自然回復量が僅かに増加する。
【泉の加護】は水場において全てのステータスが一・五倍になるスキルで、契約者には水面を地面のように歩けるようになる効果をもたらしてくれる。
《聖水生成》はその辺の水を材料に聖水を生成できるアーツで、〈オールヒール〉はパーティー内の味方全員を回復する魔法だ。
見事なまでに回復特化である。
ちなみにヴィルヘルミナはナーイアスの姿を見るなり大笑いした。数度だけだが顔を合わせたことがあったらしく、こうなった経緯を知った途端にお腹を抱えて爆笑したのだ。
「――クク、すまぬな。もう二〇〇〇年も前だというのに、随分とイメージが違っておって笑ってしまった」
「それは無様だといいたいのですか? 喧嘩ですか? 喧嘩なら買いますよ?」
そしてセナは、二人の様子を見てあまり会わせない方がいいなと察する。
「さて……落ち着いたところで本題に入るとしよう」
「喧嘩を売ったのはそちらではぁ~~~あ?」
肉の体を持たないというのに青筋を浮かべ、ナーイアスは親指を何度も下に振り下ろした。
しかし、ヴィルヘルミナはそれを無視して強引に話を進めようとするため、余計に顰蹙を買っている。
「セナよ、叙勲式の準備が整った。都合がよければ明日にでも開催したいのだが、正装は持っておるか?」
セナは正装を言われて、リカッパルーナで仕立ててもらったドレスを思い出す。あれは舐められないようにと店の優しいおじさんに勧められて買ったものだが、なんやかんやあってまだ着用したことが無い。
「初めて帝都に来る前に、リカッパルーナの店で一着買いました。ドレス、でいいんですよね?」
「そうだ。リカッパルーナの仕立屋は粒ぞろいだからな、正装はそれで問題無いだろう。細々としたマナーも、貴様は気にしなくてよい」
セナとヴィルヘルミナは補佐役たちの助言を挟みながら当日の流れについて打ち合わせし、夕食を挟んでいつの間にか夜になる。
なおこの間、ナーイアスはずっとガンを飛ばしていた。
翌日、朝。セナは宿ではなく城の一室で目を覚ます。
騎士の位があるので、城の客室を一部屋占有する権利が渡されたのだ。セナの私室と言っても良いぐらい自由に改造する権利も合わせて。
いつものように密着して寝ているレギオンを起こし、空中で漂っているナーイアスを横目にセナはドレスへと着替える。
UIから装備を変更するだけなので一瞬で終わるが、念のため鏡でおかしなところが無いか確認した。
「……うん、変なところは無いし大丈夫」
「マスター似合ってる」
「ら~♪」
「とてもお似合いですよ、主様」
従魔たちから褒められて満更でもない様子のセナは、うきうき気分で室内を歩き回る。
「――失礼致します。病騎士セナ様、お時間となりましたのでお迎えに上がりました」
時間になると扉がノックされた後、丁寧な所作で侍女が入室する。彼女が会場までセナを案内する役割だ。
彼女の案内で会場まで向かったセナは、従魔と一緒に足を踏み入れる。
「――彼女が」
「――そう言えば以前見掛けたような」
「――ふぅむ、来訪者は一人と聞いていたが」
「――従魔ですよ。特別な従魔を従えているとか」
会場入りしたセナに向けられる視線の殆どは好奇によるもので、それは付き従う従魔たちにも向かっている。
普段なら周囲を威嚇するレギオンも、セナの晴れ舞台だから空気を読んで大人しくしていた。ナーイアスはふよふよと漂っているが、一定の距離を保っているので従魔として徹してくれるのだろう。
飲料を配っている人からジュースを貰い、セナは皇帝ヴィルヘルミナが会場入りするのを待つ。
やがて時計の針が一〇時を指し示し、セナたちとは反対側の豪奢な扉が開かれる。
コツ、コツ、コツ、とヒールの音を鳴らし、優雅な所作で現れたヴィルヘルミナは壇上で酒杯を掲げた。
「此度、新たな騎士が誕生した。神の導きによってこの世界に降り立った来訪者だ」
ざわり、とどよめきの声が上がる。
セナが来訪者ということは、全員に周知されているわけでは無いようだ。
「名を、セナ。病騎士セナ。エルドヴァルツ帝国、九人目となる騎士である。皆の者、杯を捧げよ」
参加者がその手に持った酒杯を掲げる。セナもそれに倣ってジュースの入ったグラスを掲げた。
こうして、叙勲式という名のパーティーが始まる。