目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

207.誤謬を広げて真を護る その三

 一方その頃、セナとは別のフィールドに隔離されていた四腕レギオンはと言うと。


『《ギガントフォール・インパクト》』

「――激風、巻き付き、押し返し」


 なんと、ギガンティア相手に肉弾戦で有利に立っていた。レベルに差があるが、四腕レギオンには群れの総数に応じたステータス補正を獲得する能力がある。そのため、巨大で相応の重量があるはずのギガンティア相手に押し勝てるのだ。


『《ディカプルマジック》《パラライズサンダー》』

「風圧、盾」


 麻痺効果のある雷が一〇倍化された状態で放たれるが、四腕レギオンは風を集めて半円状のシールドを作りだし、雷をそれに巻き込むようにして無効化した。

 雷嵐竜王の素材を取り込んでいるため、彼女は風と雷の操作が可能なのだ。操作している間は他の行動が取れないし、手が届く範囲でしか操れないが。


「……解放」


 シールドにして集めた風と雷を暴風にして解き放つ。制御もへったくれも無いが、威力だけはある牽制だ。ギガンティアの装甲はオリハルコン製ゆえダメージは期待できないが、ほんの一瞬でも動作を遅らせられれば接近することが出来る。


『《キャストリセット》《ディカプルマジック》《グレーター・オーバーマジック》《グレーター・マジックシールド》』

「……? 何枚重ねてもレギオンには通じない。壊せる」


 その牽制をルイナはギガンティアの腕をかざして防ぎつつ、弱点である自身を護るため魔法の盾を生み出す。が、四腕レギオンの腕力にかかれば破壊することなど造作もない。

 風を脚に集めて解き放った四腕レギオンは一気に詰め寄り、深紅の球体を破壊する。


『ッ、【誤謬世界】……再起動』

「また戻った。五回目。次こそトドメ刺す」


 しかし、ルイナに爪が届く寸前で全てが元通りになった。ギガンティアの拳が四腕レギオンを殴り飛ばし、無理やりにでも距離を取る。

 だが、肉体が頑丈な四腕レギオンは殴られた程度で動じない。冷静に、無機質に、元通りになった回数と失敗したパターンを基に次の攻撃を考えるのだ。


 ♢


「マスターと離れた……どうしよう」

『《ディカプルマジック》《エクスプロード・ランス》』

「レギオンがいるから移動できるはずなのに。レギオンで繋がってるはずなのに」


 一方、少女レギオンは頬を膨らませていた。セナが大人レギオンを憑依しているため、通常なら同一存在である少女レギオンもそちらに移動できる。だのに、影を通じて移動することが敵わないばかりか、四腕レギオンや大人レギオンと交信することすら出来ていない。


 端的に言うと、拗ねている。それでも最初期の司令塔なだけあって、攻撃を躱したり反撃したりと優秀だ。


『《グレーター・オーバーマジック》《アクセラレートマジック》《ライトニングシャワー》』

「……レギオンすっごい不満。だから、なるはやで壊す」

『《アストロガード》』

「それさっきも見た」


 少女レギオンは噴射機関ブースターを駆動させて加速し、《アストロガード》の内側へと入り込む。

 そして影の中の亡霊を解き放ち、物量でギガンティアを攻撃する。


『《キャストリセット》《ディカプルマジック》――』

「レギオンに当てたいならもっと早くしないと。早くしても当たってあげないけど」

『っ、損害軽微』


 一撃一撃は四腕レギオンより低い。しかし、彼女のようにオリハルコン製の装甲を容易く破壊する芸当こそ出来ないが、物量というものは厄介だ。

 ルイナが魔法を放つより早く、少女レギオンの攻撃が深紅の球体に直撃する。無数の亡霊がギガンティアの動きを阻害しているため、防ぐのは難しい。


 ダメージは大したことない。そう、大したことは無い。罅が入る程度なのだから。――だが、速度が違う。

 ルイナが放つ魔法では、《アクセラレートマジック》を使用しても少女レギオンに追いつけないのだ。どれだけ反撃しても、当たらなければ意味が無い。どれだけダメージが少なくても、一方的に当て続ければ脅威になる。


『……【誤謬世界】再起動』


 ♢


「――ああもう! 僕たちだけでどうしろって言うんだよ! セナもレギオンもいなくなるしさ!」

「イルメェイ、冷静になってください。主様との繋がりは断たれていません。隔離されたと考えるべきです」

「ららら~♪」

「っ、分かってる! 《雷激珠》!」


 隔離されずに取り残されたイルメェイ、ナーイアス、ラーネは、有効打に欠けていた。三体とも魔法系が主体なので、オリハルコン製の装甲とは相性が悪いのだ。

 それでも《雷激珠》でHPバーが数ミリ削れているので、さすが上位の純竜なだけはある。


「これじゃ先に僕の魔力が空になるぞ……っ!」


 だが、彼女らはHPバーを視認出来ない。どの攻撃がどの程度有効なのか判断しづらいのだ。


「ラーネの歌も効果が見受けられませんね」

「ら、ら~……」


 回復役のナーイアスはもちろん、バッファー兼デバッファーのラーネは攻撃手段を持たない。生物相手なら窒息させるなり、捕食を行うなり出来るのだが、ゴーレムに通じないのは明白だ。

 イルメェイが唯一のアタッカーなので、彼女が頑張るしか無いのである。


「ぐぬぬ……」

「イルメェイ、魔力は此が融通します。貴女は攻撃を優先してください」

「……後から文句言うなよ! あんなのに負けてたらドラゴンの名折れだからな! 目一杯使ってやる! 《雷激珠》!」


 ナーイアスから魔力を貰い、イルメェイは制御を優先するために一つに絞っていた《雷激珠》を複数展開した。

 それらを円環状に並べ、どうにかこうにか撃つ方向だけは頑張って制御する。同じ箇所さえ当てればいいのだから、均等に力を割く必要も無い。


 幸い、ギガンティアの遠距離攻撃は瓦礫を拾って投げつけるぐらいなので、チャージする時間は十分にある。


「当たれッ!」


 閃光が瞬く。威力も発射するタイミングもバラバラだが、きちんとギガンティアに向かって放たれている。

 ギガンティアは両腕をクロスして防御する姿勢を取っているが、徐々に《雷激珠》に押されていく。一〇個の簡易ドラゴンブレスが一箇所に集められているのだ。その圧力は計り知れない。

 オリハルコンによって散らされようと、イルメェイとナーイアスの魔力を限界まで注ぎ込んだ《雷激珠》は、その装甲すらも溶かし始める。


「せめて……セナが付けた罅に届けば……!」


 やがて、ギガンティアの両腕が耐えられなくなった。そうなれば必然的に、《雷激珠》は胴体へと直撃する。深紅の球体が嵌まっている胴体部分へと。


『――危機的状況を感知。防御を優先。【誤謬世界】解除』

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?