この時代では、タバコなどが少ない。
タバコはずいぶん昔に禁じられ、
今では電脳にタバコの情報を一時的に入れることができる。
副作用、副流煙がない。
昔ながらのタバコを愛好するものには、
少し物足りなく感じられているようだ。
しかしながらタバコは高い。
タバコは裏で売られているので、
どうしても高くなる。
合法ドラッグもあるが、
古いタバコほどの感覚はないらしい。
喫煙空間で男がタバコを吸っている。
昔ながらのタバコだ。
ただ、タバコの葉には、笹が混じっている。
ミックスと呼ばれている、グレーのドラッグだ。
笹を取り締まってしまうと、
笹でおとなしくなるパンダに悪影響が出ると、
政府も取り締まれない。
男はミックスのタバコをうまそうに吸う。
人のタバコとパンダの笹。
もし、人間とパンダのハーフなんてのがいたら、
ミックスはさぞかしいい薬になるだろうなと男は思う。
男は一本をゆうゆう吸って、
喫煙空間から、喫茶店に出てくる。
とある喫茶店。
喫茶店というのもずいぶん古い呼び方だが、
とりあえず食堂よりは喫茶店に近い施設。
古いものだから、まだ、喫煙空間が残っている。
コーヒーを摂取したり、
軽食を摂取したりする。
静かなクラシックが流れている。
何百年経とうが、
残るものは残る。
タバコだって残った。
この音楽だって残った。
静かな喫茶店で、男はコーヒーを注文する。
タバコも好きだが、
昔ながらのコーヒーも悪くない。
電脳への付加情報の少ない、
混ぜものなしのコーヒーがいい。
ブラックゼロというコーヒーが男の好みだ。
「お待たせしました」
しっかりドリップをした、ブラックゼロが出てくる。
クリームも砂糖も、電脳安定剤も入っていない、
古い飲み物。
いつものように、悪くないと思う。
最近は笹パウダーを振り掛けるというサービスもあるらしい。
男はブラックゼロでいい。
しかし、人間もパンダ化しているのだろうか。
そのうち白黒の体毛が生えるんじゃないだろうか。
男はそれはちょっといやだなと思う。
何百年も前に滅ぼされかかったパンダ。
笹を食べて命をつないできた生き物。
今度は人が笹を摂取する。
メンテナンスの必要な電脳に、
笹を入れて爽快感を得るという。
今度は人間が滅ぼされるんだろうか。
それとも、人間もパンダもごちゃごちゃになるんだろうか。
男は白黒はっきりしていたほうがいい。
でも、グレーのミックスはやめられない。
未来なんてわからない。
タバコもいつ消えるかわからないし、
ブラックゼロもなくなるかもしれない。
最近タイヤに乗って遊びたくなった。
男はうっすら、そんなことを思う。