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『グランドセントピードのまぜそば』END

 龍拓は煮えたぎるお湯に次々とシシュールを入れる。

 そして、硬さを菜箸さいばしで確認しながら約二分茹でる。


「よし! 食べてみるか」


 そう言うと菜箸で一匹掴み、啜る。


 旨い!

 思った通り、丁度良い歯ごたえだ!


 龍拓は鍋から皿にシシュールを移すとリュックサックからサラダ油を出し、フライパンに油を引く。


「シュリル、グランドセントピードから身をくり抜いてくれ」

「ああ、良いぞ!

 どのくらい入れればいい?」

「じゃあ、両手で一掬(ひとすく)い分頼む」

「分かった!」


 そう言うと断面からシュリルは両手を突っ込み、ドロッとした黒紫色のグランドセントピードの身を引き出す。


『グチュッ……』


「これで良いか?」

「ああ。それを軽く樽の水で洗ったらフライパンに入れてくれ」


 シュリルは龍拓の指示通りに水で少し洗うとフライパンに身を入れた。


『ジュワァァァァァ!』


 煙と共に食欲を揺する濃い海老の様な匂いが立ち込める。


「旨そうな匂い……。

 早く食いてぇ」


 シュリルはよだれを垂らして表情が緩み、リプイは匂いが気になってチラチラとフライパンを見る。

 手早く龍拓は身をほぐしながら炒めると、再びリュックサックから料理酒、塩コショウ、オイスターソース、海苔、ホアジャオ油を出す。

 料理酒を入れると水分が飛ぶまで炒め、味見をしながら塩コショウとオイスターソースで味を整えていく。

 そして、龍拓は再び味見をする。


「よし! 良い味だ!」


 皿にシシュールを盛ると、フライパンの合わせダレをかける。


「うーん……。トッピングも少し欲しいな」


 龍拓はそう言うと、グランドセントピードの断面に包丁を突き刺して身を切り抜く。

 そして、まな板でチャーシューのように切る。


『ジュワァァァ!』


 切り身をフライパンで焼き、盛り付けるとホアジャオ油をかける。


『ほわぁ~』


 芳醇(ほうじゅん)なホアジャオ油が更に食欲をかき立てた。

 最後に海苔を刻んで振りかける。


「完成だ!」


 龍拓の声で二人は皿に盛られた料理に注目する。


「グランドセントピードのまぜそば・・・・だ」

「まぜそば? ラーメンじゃないのか?」


 シュリルは不思議そうに龍拓を見つめる。


「ああ。今回はゆっくりと調理する時間が無さそうだったからスープ作りを止めて、簡易的に作れるまぜそばにした。これも旨いぞ」


 シュリルは確かに旨そうな見た目と食欲をそそる匂いから涎を垂らす。


「で、でもベースはアレでしょ……」


 リプイはグランドセントピードの頭を引いた目で眺めていた。


「じゃあ、冷める前にタレと混ぜて食べてみてくれ」


 そう言うと、龍拓はまぜそばとフォークを二人に渡す。


「混ぜればいいんだな! よし、食うぞ!」


 シュリルはまぜそばをまるで納豆のようにグルグルとフォークで混ぜると、口を大きく開けて一口食べる。

 その瞬間、シュリルのただでさえ少ない思考が完全に停止した。

 そして、たった一つのシンプルな感想が脳内を埋め尽くす。


「旨い……」


 さっきまで大きな声で喋っていたシュリルと一変し、心の底からボソッと出た一言に龍拓は笑みを溢す。

 無心でシュリルはまぜそばをかき込むと、あっという間に食べ終わってしまった。


『ボンッ!』


 まぜそばを食べ終わった瞬間、シュリルの筋肉が輝いて体全体が一回り大きくなる。


「凄い! この量でここまでパンプアップ出来るのか!」


『ぐうぅぅぅぅ……』


 シュリルの食べっぷりにリプイの腹が感情と反して鳴る。


「おい、食べないのか?

 信じられないぐらい旨いぞ!」


 シュリルの言葉で一旦はまぜそばを混ぜるが、どうしても生理的に一口目が行けない。


「しょうがないな。

 俺が食わせてやるよ!」

「え?」


 シュリルは笑みを浮かべてリプイの目の前に立つと、左手であごを掴むと無理やり口を開ける。


「はい、アーン!」


 右手でフォークを掴み、大きくすくったまぜそばを口に放り入れると口を左手で塞ぐ。

 口パンパンに詰め込まれたリプイは動揺して手足をばたつかせる。


 うっ……美味い!


 タレが出す味わい深い風味とシシュールのアルデンテな触感が口の中を優しく包み込む。


 何?この触感。

 私は今、あの気持ちが悪いシシュールを食べているのよ……。

 でも、こんなに心地良い噛み心地に自然と口が動いちゃう!

 それに、このタレ。

 グランドセントピードの身を使ったゲテモノ料理のくせに、私の心に絡みついてくる!

 まるで、獲物を捕食するときみたいに……。


 リプイの脳内ではグランドセントピードが自身の体をきつく締め付け、快感にもだえる映像が流れていた。

 気付くとリプイはまぜそばを噛み締めるように咀嚼そしゃくすると名残惜しそうに飲み込んだ。

 すると、濃厚で香り高い風味が鼻を突き抜ける。


「快……感……」


 リプイはまるで昇天してしまいそうな高揚感こうようかんから目をトロンとさせた。


「こんな美味しい料理、初めて……」

「口に合ったみたいで何よりだ」


 そう言うと龍拓はホッとした表情を浮かべ、自身もまぜそばを食べ始める。


 ホアジャオ油がいい仕事しているな。

 グランドセントピードが出す少し生臭い臭いが消えている。


 冷静に分析しながら食べる龍拓と黙々と食べるリプイ。

 食べ終わってしまったシュリルは羨ましそうに二人を見つめていた。

 龍拓は視線に気付くと自身のまぜそばをシュリルに渡す。


「食って良いぞ」

「本当か!?」

「ああ。ここに来る前に飯は食べたからな」


 子供の様な笑みを浮かべると、シュリルはまぜそばにがっついた。

 夢中で食べるシュリルとリプイを嬉しそうに眺めると空を眺める。


 此処ならきっと、俺が求める新たなラーメンが作れるな……。


「おい、見てくれ!」


 シュリルの方を二人は向くと体中の血管が波打ち、たくましい胸板がドクンドクンと動いていた。


「俺の筋肉がかつてない喜びをしている。

 こんなパワーアップは生まれて初めてだ」


 リプイは内ポケットから青色の眼鏡の様なデバイスを取り出して掛ける。


「え、ステータスがこんなにアップしてる!

 しかも、2レべルも上がってるし」


 レンズを通してみるシュリルの頭上にはレベルとステータスが表示されていた。


『レベル33 攻撃力65 守備力25 魔力13 スピード42』


 満面の笑みでシュリルは龍拓の方を向く。


「なあ、龍拓! 俺らとパーティー組もうぜ!

 俺が食材調達をするから美味い飯をこれからも作ってくれ!」

「良いのか? じゃあ、よろしく頼む!」

「決まりだな!」


 誘いに快く龍拓が承諾すると、二人は固い握手をした。


「あと、今度こそラーメンってヤツ食わせろよ」

「ああ。勿論だ」



第一章『グランドセントピードのまぜそば』END

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