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第九話

薊は本当に清水寺の中に詳しかった。

仁王門から始まりあらゆる場所の解説がわかりやすく、普段ならこういう解説聞いてると眠くなってくる司だが全く眠くなることなく全て聞き入ってしまったほどだ。

ほらね?人となら寺巡るのだって遊園地行ってるのと同じ位楽しくなるんすよ。


あっという間に司が見たかった弁慶の使っていたと言われる錫杖や鉄下駄が展示されている場所に到着する。


「これが司君が見たがってた弁慶の錫杖だよぉ。弁慶の錫杖がなんでこんなところに有るのか気になるみたいだねぇ。ふふふ、実は・・・」

薊が錫杖の前に立ち、これまた詳細に解説してくれる。


「うぉー!すげぇ!」

薊の解説を聞きながら司は弁慶の錫杖に手を伸ばす。


「ぐぬぬぬ!めちゃくちゃ重てぇ。弁慶って本当にこんなん持って戦ってたのか・・・?」

司は錫杖を持ち上げようとするが、びくともしない。


「ふふふ、どうだろうねー」

薊は司が必死に錫杖を持ち上げようとしている姿を見て、ただ微笑んでいる。

数分程、司が弁慶の錫杖を独占していただろうか。

通っていた観光客は多かったがあまり弁慶の錫杖に興味なかったのか、それとも司の鬼気迫る顔にみんな遠のいていったのかは不明だ。


「はぁ・・・。重たすぎだろ・・・」

流石に無理だと分かったので諦めて、薊の元にトボトボと戻ってくる。


「いやー、でもちょっと惜しい時あったと思うよー?」

薊はトボトボと戻ってきた司を励ます。


「いや、無かったと思いますけど・・・?」


「あれ、本当?解説に夢中になりすぎてよく見てなかったや。ま、そんなことは置いといて、次いこー!」

薊は司の手を引く。


「あんま引っ張んないでくださいよ。せんぱーい」

薊に手を引かれながらチラリと目線を送った先に学校で見た百合ップル。

アイカとマリナが目に映る。


「へぇ、意外と学園の生徒も来てるんだな」

視線を薊に戻そうとしたところで漆黒のマントを見に纏った集団が目に入る。


「またあいつらか!」

司がそう言った直後、集団の一人が手を前に突き出すと目を疑う光景が広がる。

見たことも無い醜悪な姿をした小人が何体も召喚されたのだ。


「は?」

そこからは一瞬の出来事だった。

見ていた司の理解も全く追いつかない状況。

集団の一人が召喚した醜悪な生物が突如として周りにいる人を無差別に襲い始めたのだ。

襲われた人や襲われそうな人の悲鳴が上がる。

辺りには血が飛び散り悲惨な状態だ。


「どうなってんだ」

先程まで何もなく平和な時間だった清水寺はあの醜悪な生物達が現れてすぐに戦場と化した。

そして醜悪な生物は司お気に入りの百合ップルにも牙を剥こうとしていた。


「薊先輩、逃げてください」

司は薊をあの醜悪な生物達とは逆の方向に逃してスグに百合ップルの元に駆け出す。

そして自身の超能力者リミットレスとしての能力を使い、近くに有った少し大きめの岩を浮かせて醜悪な生物に向かって放つ。


岩は百合ップルと醜悪な生物の間に着弾し、醜悪な生物の行く手を遮ることに成功する。


「よう、大丈夫か」

司が百合ップル達の前に立ち、醜悪な生物と対峙する。


「はい、ありがとうございます!」

マリナが司に頭を下げる。


「そういうのは良いから、早く逃げな。そっちの先輩っぽいアンタ。その子の手を引いて早く向こう側に逃げろ。俺がこいつら止めとくから」

司はアイカを指差してからマリナを連れていくように指示すると、アイカはすかさずマリナの手を引き、逃げていく。


「あぁ・・・。良いなぁ。お姉様が妹分を連れて逃げる。こんな間近で見れるなんて、最高の時間をありがとう」

司が百合ップルの清く美しい愛に心打たれているが、醜悪な生物はそんなことお構いなしに司に攻撃を仕掛けてくる。



「まだ、美しい愛の形を見てる最中でしょ!見てわからんかね!」

司は能力を使い岩を浮かせて醜悪な生物に向かって放つと岩は寸分の狂いなく醜悪な生物に命中する。

岩に押し潰された醜悪な生物は紫色の煙のようになって消失する。


「おっ、なんだ。こいつら倒せるんじゃん」

司がニヤリと笑うと辺りに有った岩や岩でできた彫刻などが全て宙に浮かび司の周りをゆらりゆらりと浮遊する。


「全員相手してやるからかかってこいよ」

司が人差し指をクイクイっと動かし挑発すると、醜悪な生物が一斉に司に向かって襲いかかる。

司は周りを浮いていた物体を一つずつ操作して、醜悪な生物に確実に命中させていく。


「へぇ、すごい練度だー。司君って結構凄いんだねぇ」

その様子を少し離れた場所から薊が観察する。


「ふふふ。けど、そんな戦い方でいつまでもつかな」

薊は悪戯な笑顔で笑う。

それもそのはず。

今はとにかく手当たり次第に近くにある物を飛ばして化け物にぶつけているだけである。

司が放った岩やらは地面とぶつかり粉々に砕けて、どんどんと無くなっていく。

近くに物がなくなった時、司の最後だ。


「くそ!啖呵切ってカッコつけたまでは良かったけど、もう何も投げられる物ないじゃん」

司はキョロキョロと辺りを伺うが、岩やら置物は全て投げてしまい粉々に砕けてしまった。

すぐ目の前には化け物どもが迫ってきている。


「ハハハ。けど、こんだけ暴れて時間稼いだらみんな逃げれただろ」

司は能力をここまで酷使したこともなかったので、脳にかなりに負担を感じていた。


「それにしてもいいもん見れたなぁ」

司はもう抵抗することもなく、その場座り込む。


「百合を守って死ぬなんて本望だよ。けど、ごめんな。父ちゃん、母ちゃん。親不孝もんでよ」

司が目を瞑って抵抗を諦めようとしたその時。


「なーんだ。思ったよりあっけなく負けを認めるんだねー?」

さっきまで話していた少し気の抜けた声が聞こえてくる。

司が目を開けると、可愛らしい少女が笑顔で司を見下ろしていた。



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