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第十一話

迎えた4月1日。

芸術ホール付近の広場にある時計は8:45を指していた。


入学のしおりに9時芸術ホール集合と書かれていたので、出来る男代表光月司は15分前行動で移動をしていた。

やることがなくて早く寮を出て、早く芸術ホールに着いてしまったわけでは断じてない。


芸術ホール付近には司と同じ新入生だろうか。

結構な人数の女生徒達が集まっており、既にグループを作って話している姿が目に入る。


「やべぇ・・・。早く来たのに既にグループできてるじゃん。なんでぇ?」

このままグループに入ることに失敗したら今後3年間ぼっち学園生活が確定してしまう。

とりあえず、男子生徒を探す為に周りをグルっと見渡すが、まだ来ていないのか男子は全く見当たらなかった。

視界に映るのは派手な着物と袴を着ている女生徒達だけである。


「うわっ、俺なんか悪目立ちしてね?」

司だけ学ランの上着を桜に取られたままなので、制服ズボンに白シャツと地味なのだが、この場においては悪目立ちする服装をしている。


小学校の卒業式に居た一人だけ私服の奴みたいだ。

周りがピシッとした服を着させられているだけで、私服の奴が普段通りなのだが、相対的に悪目立ちしてしまう奴である。

入学式からこの悪目立ちは良くない。

とりあえず、男子生徒の姿を見つけてこの場を去ろうとするが、芸術ホールに向かってくるのは女生徒ばかりである。


「ここまで男子いねぇのか。どうすっかなぁ・・・」

司が考えていると後ろからトントンと肩を叩かれる。


「ん?」

司が後ろを振り向くと桃色の縦ロールを弾ませ微笑む卯月桜の姿があった。


「ご機嫌よう。光月 司様」

桜の着物は村育ちの司でも分かるくらいにはお金の掛かっている着物だとすぐに分かる。

ホール付近で集まっている他の女生徒とは質が一線を画している。

使われている生地はもちろん装飾も繊細で非常に美しい。


高そうな着物を着ているだけでなく、桜は所作も綺麗だった。

司に向けてしたお辞儀。

俗にいうカーテシーだが、恐らく誰が見ても満点を出す位には文句のつけどころの無い美しい所作だったのだ。

だが、司にそれはあまり関係ない。


「げっ」

司は桜の顔を見て露骨に嫌そうな顔をする。


「もう!司様ったらそんな嫌そうな顔して!ですが、逃げなくて良いです!"昨日"、お忘れになった上着を返しに来ただけですから。司様ったらほんとうっかりさんなんですから!」

わざと周りに聞こえるように大きな声で桜は話す。


「お、おう。わざわざ返しに来てくれたことには感謝してるんだけど、そんな大声で話さなくてもいいんじゃ?」

桜の声が大きいので周りの女生徒達の視線は司と桜に向いている。


「司様はワタクシの婚約者でしょう?何をそんなコソコソと話す必要がありまして?あっ、こちら記入してください!ワタクシ、提出してきますから」

婚約者の部分を強調しわざと周りに聞こえるように話しながら桜は鞄から一枚の書類を取り出し、司に渡す。


司は受け取った書類に目を通すと桜自身の名前や保証人等がすでに記入済みの婚姻届だった。


「だから!結婚しねぇって!」

司は受け取った婚姻届をビリビリに破り、紙吹雪を舞わす。


「あぁ!そんなぁ!」

桜は紙吹雪となってしまった婚姻届を集める。


司は周りの女生徒達に視線を向けると何かをヒソヒソと話しているのが見える。

このままじゃ本当に変なやつだと思われる。

既に服装で悪目立ちしてんだ、これ以上の悪目立ちはハブられる対象になるぞ。

なんとかせねば。

そう考えた司に妙案が浮かぶ。

司は思考し、口を開き始める。


「なぁ、お前ん家って凄い家柄なんだろ?」


「えぇ!それはもちろん!卯月家は日本皇国の名家ですわ!そんな名家に司様も名を連ねることができるのですよ!」

桜は誇らしそうに話す。


「なら俺みたいなどこぞの馬の骨とは釣り合わねぇだろ。キョウトとは比べもんにならないくらいかなりの田舎育ちだぜ?あんまり適当なこと言ってるとパパに怒られんぞ!」

司は勝ち誇った顔で言い放つ。


「その点はご安心ください!既にお父様にもお話を通しています。司様との婚約は了承してくださってますから!」

桜がガサゴソと鞄を漁り、何かを探し始める。


「ほらな・・・?はぁ?だから、なんでぇ?なんで、お前の親父が俺のこと知ってるわけ?会ったこともないじゃん・・・」

司が言葉を失っていると桜が鞄から封筒を取り出す。


「是非こちらをお読みになってください!お父様から司様に宛てた手紙ですので!」

桜は鞄から取り出した封筒を司に渡す


「まぁ、もうこんな時間ですわ!ホールに入りませんと!」

芸術ホール付近の時計は既に8時55分を指していた。

桜は慌てた様子で芸術ホールの方へ去っていく。



「はぁ、なんでお偉いさんが俺の名前知ってるんだよ。って、あれ?俺、何処かのタイミング桜に自己紹介してたっけか?」

少し考えるが全く自己紹介をした覚えがない。


「いや、やっぱり名前とか教えた覚えないんだけど・・・。こわっ」

司は身震いしながら受け取った学ランを羽織り、受け取った手紙を学ランのポケットにしまってから芸術ホールに入っていく。





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