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第十二話

芸術ホールの中に入ると赤い絨毯が敷き詰められており、大きな階段がまず目に入った。

司は生徒達の後を追うようにホールの中に入っていくと扉が閉められる。

司が最後の入場者だったのだろう。


「皆様、入学おめでとうございます」

大階段の上に立っている切れ長の目をした黒髪の女性が全体に聞こえるように話し始める。

生徒達はその女性に視線を向ける。


「私は本校で教員をしている師走 椿しわす つばきです。また皆さんの学年の主任でもあります。名前の通り師走家の出ですが、学内で師走の名はあまり関係ありません。良好な関係を築いていければと思ってますので、よろしくお願いします」

着ている灰色のスカートスーツにシワができそうなくらい綺麗なお辞儀をして、The出来る女性といった雰囲気を醸し出している。

おそらく今見ている女生徒達は師走先生に憧れを抱いている物も少なく無いだろう。


「またすでに通達がいっているとは思いますが、今年度より本学園は共学となっています。そのため今年から男子生徒も入学してきています。女生徒だけでは無いとしっかりと認識し、はしたない姿を見せないように心がけましょう。男子生徒も女生徒が多いからといって羽目を外さないようにしてください。それでは入学式が始まりますので、服装を整えてホールへ入場していってください」

先生の言葉と共にホールへの扉が開く。

扉が開くと拍手の嵐が鳴り響く中、生徒達は言われた通りにホールへ入場していき、新一年生が座るであろう所定の位置に座っていく。

新入生の入場が終わると進行役の生徒が、紙を見ながらマイクに向かって話し始める。


「まずは学園長のあいさつ言葉です。学園長よろしくお願いします。」

進行役の学生の言葉が終わると同時にステージ近くの席から学園長が立ち上がり、ステージに上がっていく。

そのまま演台の元まで移動し、マイクの位置を調整する。

コホンという咳払いの後に学園長の挨拶が始まる。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。」

学園長の挨拶は至ってシンプルな挨拶から始まり、国の未来を担うとか三年間気を引き締めてと続き、ありがたいお言葉を頂いた。

学園長は非常に満足そうにステージから降りていったが、椅子に座ったまま聞いてなかったら足が痛くなってくるレベルの長さだった。


「学園長。ありがとうございます。続いて在校生による祝辞です。生徒会長3年1組神無月 薊かんなづき あざみさん。お願いします」

進行役が名前を告げると、これまたステージ近くの席から一人の学生が立ち上がる。

薊はピンっと背を伸ばし、非常に綺麗な立ち姿でステージに登っていく。


司は薊の名前を聞いて昨日のことを思い出す。

そう、能力を使いすぎて頭がガンガンと痛む中、清水寺の甘味処で薊に膝枕してもらいながら、団子を食べさしてもらったことである。


あんな可愛い子に膝枕してもらえて幸せだったかって?

確かに神無月先輩はあどけなさの残る可憐な少女のような見た目をしている。

しかも、あの見た目とは裏腹にかなり面倒見のいいタイプだろう。

頭痛が治るまで膝枕してくれて、しかも団子を口の方に運んでくれてたんだから間違いない。

ニッチな層はそういう一面に母性を感じて、神無月先輩の赤子になりたいとか言い出すかもしれんが、それは違うだろ。

ああいうのは女子同士でやるから映えるのであって、男と女がやることでは断じてない。


それにしても神無月先輩が生徒会長までしてるとは知らなかった。

超能力者リミットレスとしての力はピカイチだった。

あれだけのあやかしの軍勢をたったの一撃で倒してしまうのだから。


まぁ、今後関わることもないだろう。

そもそもこの学園に来れている時点で、俺からしたら奇跡なのだ。

陰でこそこそと百合カップルを眺めて、三年間すごそう。

そう、俺が超能力者リミットレスとして目覚めたのは百合カップルを守るためなんだから。


司は腕を組みながら一人でうんうんと頷く。


「以上、在校生代表。神無月薊」

神無月先輩のスピーチをほとんど聞いてなかったが、いつの間にか終わっていた。


「神無月さん。ありがとうございます。それでは次に新入生代表による答辞です。新入生代表、卯月桜さんお願いします。」


桜の名前を聞いて司はブフッと息を吹きだす。

あいつ本当にすごいやつじゃん


桜は用意周到に新入生が座っている席の前の方に座っていた。

進行役の言葉で立ち上がり、ステージに登っていく。

その姿は凛々しく、神無月先輩の立ち姿に負けないほど自信に満ち溢れていた。


「桜の蕾が開き、学園内の桜並木に花びらのカーテンが私達新入生を歓迎してくださっていました」

始まりは少しだけ強張っていた顔も徐々に慣れてきたのか、司に自分の家柄を自慢していた時の顔になっていた。

桜の答辞は言葉選びも非常に綺麗でなんだか聞いていてすごく心地よいものだった。


なんだよ。あいつ俺と話してる時アホそうだったのに、めちゃくちゃ言葉選びいいな

司は桜のことを少し馬鹿にしてたが、少し見直した。

会うなりいきなり婚約だの、婚姻届を持ってくるちょっとアホの子の印象が強すぎた。


「以上をもちまして新入生代表の挨拶といたします。」

桜の答辞は何も問題無く無事終わりを迎える。


「卯月桜さんありがとうございます。以上を持ちまして入学式を終了いたします。新入生、女子31名、男子1名。起立!」

進行役が新入生を立たせる。

司もサッと立ち上がる。


「ほう、男子と女子足しても32人しか居ないのか。さすが金持ちの学校は違うねぇ。ん?」

司は司会者の言葉をしっかりと噛み砕いて飲み込んでいく。


「男子1名・・・?はっ?ちょっと待って。今男子1名っつった?」

学園長からそんな話一度も聞かされていない。

えっ、今年から共学じゃないの?


「新入生退場!」

進行役の言葉で新入生が退場していく。


「なんでぇ!?なんで、共学なのに男子1名しか居ないの?なんでぇ?」

司は入学式の最中なので、ホール内に響かないよう控えめに叫ぶ。


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