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第十三話

共学だというのに男子が一人しかいない事実を知った司は入学式が終わり寮の部屋に帰ることにした。

いや、正しくは男子が一人しか居ないので、友達を作るのは不可能だと諦めて寮に戻ってきたが正しい。

今日は入学式だけで明日からレクリエーションや授業が徐々に始まっていくらしい。


寮に戻ってきた司は学ランを着たままベッドに横になる。


「男子俺一人だけかよ。けど、まぁそんだけ百合を見れる確率が上がったってことか。ただなぁ、折角の高校生活だから友達と食べ歩きとかキョウト観光とかしたかったなぁ。はぁ、女子しか居ないんじゃ友達作るのは難しいだろうなぁ」

ため息を吐きながら腕を頭の上に置く。


入学式が午前中で終わったので、思っていたより時間が空いている。


「この後何すっかなー。金無いし。部屋でゴロ寝でも決め込むか?」

司がゴロゴロしようと布団を良い感じに整えていたら部屋のチャイムが鳴る。


「ん?誰だよこんな変な時間に」

司はベッドから勢いよく起き上がり、扉の方へ移動する。


「今出ますよっと」

扉を開けると桃色の縦ロールをフワリと揺らし、高そうな着物と袴を着た女子が笑顔で立っていた。


「司さ」

扉が開いたことに気づいた桜が声を掛けようとした瞬間に司はバタンと扉を閉め、鍵を掛ける。


「なんでぇ?なんでここに桜がいるのぉ!?」

司は部屋の中で叫ぶ。

叫んでいる間もバンバンと扉を叩く音と司の名を呼ぶ声。

そして、連打されるチャイムの音が部屋に響く。


「いや、見間違いだろ!うん、そうに違いない。俺の部屋をピンポイントで当てるなんて不可能だしな。きっと慌てて俺が見間違えたんだろ」

司は見間違いであろうと恐る恐る扉を開ける。


「司様!」

司が開けてしまった扉の隙間に桜はブーツの先を入れて、絶対に閉められないようにする。


「おい!やめろ、桜!扉壊れる!扉壊れるから!」

司は必死に扉を閉めようとする。


「司様が扉を開けてくだされば、壊れません!早く開けてくださいまし!」

扉閉めようとする司に対抗して、桜も絶対に閉めさせまいと必死である。


「てか、待って。力強くね?全然閉められないんだけど、なんでぇ?なんで、引く力が押す力に負けてるの?ちょっと!ちょっとぉ!」

謎に強い桜の力に司は扉を開けざるを得なかった。


「分かった。開ける!開けるからほんと一回だけ離して」


「本当ですか!なら、離しますわ!」

桜が扉の隙間に挟んでいたブーツを抜き、手を離した隙に司はバタンと扉を閉めて鍵を掛ける。


「まぁ!ちょっと司様!嘘つきましたの!狡いですわ!早く開けてくださいまし!」

桜はバンバンと司の部屋の扉を叩き、チャイムを連打する。


「ははは!騙される方が悪いんだよ!」

司は部屋の中から桜に向かって叫ぶ。


「司様、そういうことするんですね。分かりましたわ。これを出すしか無いようですね」

数秒後、閉めたはずの鍵がガチャリと開き、バァンと扉が開け放たれる。


「はぁ?待て待て!なんで鍵開いたんだよ」

司が桜の手元に視線を移すと、鍵のような物が握られていた。


「なんでぇ?なんで、俺の部屋の鍵持ってんだよ!」

司は能力を使い、桜から鍵を奪い取る。


「あぁ、そんな殺生なぁ!」


「いや、当たり前だろ!何処で手に入れたんだよ。全く」

奪い取った金属製の鍵を能力を使って真っ二つに折る。


「何処でって、ワタクシ何度言っておりますが卯月家の人間ですよ?ここの学園長に頼んだら快く合鍵を頂けましたわ!」


「はぁ!?いや、でも流石に生徒のプライベートを犯すようなこと」


「そういえば、持参した山吹色のお菓子に舌鼓を打っておりましたわね」


「山吹色のお菓子?人のプライベートを犯す程に上手いお菓子ってなんだよ」

これまで、村で過ごしてきてそういったことには疎い司には本来の意味が伝わっていなかった。


「あら?司様は意外とウブなんですわね。端的に言えばお金ですわよ。お・か・ね」

桃色の 縦ロール揺らし、顎に人差し指を当てて、非常にあざといポーズでウィンクをする。


「はぁ?金だと?賄賂じゃねぇか!あの銭ゲバ古狸め!だから上機嫌だったのかよ!クソがぁぁぁ!」

司はギリギリと歯軋りをする。


「そんなことは置いていて。司様、デートに行きませんか?なんならこのまま婚姻届を出しに役所でも構いませんが」


「それ端っこに避けて置いとけないから!プライバシーめちゃくちゃに侵害されるの置いとけないから!てか何サラッと婚姻届提出しようとしてんだよ。絶対出さねぇから!鞄から婚姻届出してきてんじゃねぇ!婚姻届今朝ビリビリに破り捨てなかったか?」

司は婚姻届を奪い取りビリビリに破り、ゴミ箱に捨てる。


「もう、司様のいけずぅ!まぁ良いですわ。まだまだ用意しておりますから!」

桜は鞄から既に署名済みの新しい婚姻届を取り出す。


「うわっ、お前正気か・・・。しかも署名はしっかり手書きじゃん・・・」

流石の司も桜のあり得ない行動にちょっと引いている。


「当たり前ですわ!手書きじゃない婚姻届なんて出しても風情がありませんから!昨晩徹夜してたくさん用意しましたのよ!」

桜は誇らしげに胸を張る。


「おっ、おう。なんか、ごめんな。熱意は伝わってきたわ。熱意っていうか執念な気がするけど・・・。でもなんで俺のためにそこまでするんだよ。ついこの間会ったばっかじゃねぇか」

ここまでされて理由が気にならない人間はいない。

司は部屋に備え付けのソファに腰掛けて、桜と話し始める。

桜も当たり前のように司の座った隣に座る。


「確かについこの間あったばかりです。ですが、司様が戦っている姿にワタクシ一目惚れしました」

桜は本当に恥ずかしいのか、頬を赤らめて俯きながら話す。


おい、待て待て待て!

何、頬を赤らめてんだよ!

なんか完全にそういうムードになってるじゃねぇか!

そういうのは俺に向けてじゃなくて、なんか良い感じの雰囲気になった女子にするべきだろ!


「司様はワタクシでは"嫌"ですか?」

チラリと視線を司に向けて、司の方へ徐々に顔を近づけてくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

司は咄嗟に桜と距離を取る。


危なかった。

学内で出会う度にアホなことばかり言ってくるので、ただのアホの子だと思っていたが、名家の娘というだけあって自己にしっかりと投資をされているのだろう。

よく見たらメチャクチャ見た目がいい。

黙っていれば可愛いとはこのことだろう。


俺の出身の村でここまでの美人な女子は見たことがない。

隣村まで出ても恐らくいないだろう。


そんな女子に迫られて、よく思いとどまれたと思う。

完全に雰囲気に呑まれてしまいそうだったが、なんとか持ち堪えた。


桜はキョトンと司の方を見る。


「えと、ほら。俺たちお互いのことも知らないだろ?お互いを知るのは大事だ。そうだろ?」


「女のワタクシにここまで言わせておいて・・・。もう、司様は本当にいけずです。でも、司様がそういうのなら仕方ありませんわね!分かりました!では、早速今日デートに行きましょう!ワタクシの家がどれほどすごいか教えて差し上げますわ!」


「はぁ・・・。デートは分かったけど、俺キョウトに来てから財布落として本当に金が無いんだ。だから、せめてお金が入ってからにしてくれないか?」


「あら?お金の心配はありませんわよ?卯月家の人間として、司様をしっかりとお・も・て・な・し、いたしますわ!」


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