「な、なん・・・。でも・・・?」
司はごくりと唾を飲み込み、ダリアの体を舐めるように下から上へ見ていく。
百合を守りたいと言いながら、やっぱり司も普通の男の子。
奔放な褐色美女にそんなこと言われて、邪な考えをしないはずもなく。
「ふっふっふー。なんかとんでもない顔してるけど、やる気にはなったみたいだね!先に確認ね。司君なんか武術は習ってた?」
ダリアは司をやる気にする作戦成功したと、得意げに笑みを浮かべる。
薊と同様に自分の長所をしっかりと理解しているみたいだ。
「やったことないですけど、今の俺なら熊にも勝てる。それくらい気合い入ってますよ!」
武術の達人をイメージして、コォォォと息を吐きながらよくわからない構えをとる。
「あはは!なら始めよ!」
ダリアは生徒会室で踊っていたダンスのステップを踏み始める。
「覚悟ぉぉぉぉぉ!」
司がダリアの方へ勢いよく駆け出す。
ダリアは近寄ってきた司を半身で避けて、足を引っ掛ける。
「へぶっ」
芸術点が高そうな転び方を見せる。
「ダメだよ、司っち。無駄な動きが多い!ほら、立って!」
「なにくそ!」
司はすぐに立ち上がり、ダリアに向かって駆け出す。
そして、転ばされること早4時間。
休憩は何度か挟んだが、一度もダリアに触れることなく地面に大の字で寝転がる司の姿がそこにあった。息をするのがやっとなくらい何度もダリアに何度も挑戦したが、足元にも及ばなかった。
「全然ダメじゃーん!」
今出せるありったけの声量で叫ぶ。
「そう?初めに比べたらだいぶいい感じだったと思うけど」
手拭いで汗を拭きながらダリアが司の横に座る。
「なんで、そんな余裕なんですか・・・。俺もう動けないっす」
「ふっふっふ、鍛え方が違うからね。ほら、飲みなよ!」
ダリアが飲んでいた水筒を司に差し出す。
司は起き上がり、水筒を受け取って、グビグビと喉を鳴らしながら飲み干す。
「てか、先輩のあの踊りみたいなやつなんすか?」
「んー?あれはね。カポエイラっていう外国の武術だよ」
ダリアは立ち上がり、色々な蹴りを司に見せる。
ダリアが蹴りを出すたびに紫色の肌着が司の瞳に映る。
「とまぁ、こんな感じで蹴り主体の武術でステップから色々な蹴りに移行できるからよく使ってるんだよね。他の武術より楽しいし」
ダリアは司の横に座り直す。
「そういえば、司っちって能力なんなの?組み手中一回も使ってこなかったけど?」
「あぁ、物を動かす
「うわ!司っち優男ー!なら、明日は司っちの為になんかいろいろ用意しとこうかな」
「あらゆるもの飛ばせるんで結構危ないっすけど大丈夫ですか?」
「よゆーだし。んじゃ、今日はゆっくり湯船に使って体を労わるように。アタシは生徒会室よらなきゃだし明日も生徒会室しゅーごーねー」
ダリアは立ち上がり、司に手を振って生徒会室の方へ駆け始める。
ダリア先輩の姿が見えなくなったことを確認してから、また大の字に寝転がる。
ダリア先輩の下着まじぱねぇ。
一個しか年齢変わらんのに、あんな大人な・・・。
いかん!
俺は百合を守る男になるんだ。
これはきっと試練なんだ。
なんて頭の中では考えているが、顔は鼻の下が伸びていて猿のようだ。
いや、猿と例えたら猿にも失礼だろう。
翌日もダリア先輩と組み手をする。
ダリア先輩は俺を男と思っていないのか今日もまたスカートでバリバリに蹴り技主体である。
昨日は紫だったが、今日は真っ黒のアミアミ。
なんでわかるかって?
顔に青痣ができるくらい蹴られたからだよ!
躊躇なく顔にも蹴りを入れてくるから、死ぬんじゃないかって思ったけど途中からなんか覚醒してダリア先輩の動きが手にとるようにわかるようになってきた。
まぁ、わかったところで体は反応しないので、めちゃくちゃ綺麗に蹴りが入るんですけどね。
能力を使って牽制とかしたのに、ダリア先輩は背中側から何かが飛んできても綺麗に避ける。
多分、いや、絶対人間じゃねぇ・・・。
なんで死角からの攻撃を避けれるんだよ。
念の為に聞いてみたら
「だって、司っち能力使う時に視線があっちこっち移動するから」
だとさ。
いや、視線動いてもどこから来るかわからんでしょ!
そして三日目。
今日で学習合宿からみんなが帰ってくる。
てか、聞いた話じゃ学習合宿終わった後、そのまま休みらしいじゃん。
俺もそのまま休みなんだろうか?
明日か今日師走先生が帰ってきたら、聞きに行くか。
そんなことを考えれるくらいにはダリア先輩との組み手もサマになってきた。
「へぶぅ!」
まぁ普通に顔面に蹴りがはいるんですけどね。
「いちち」
蹴られた顔を擦りながら、顔を上げる。
「司っち、絶対集中してなかったでしょ!組み手の時に考え事なんて、なにしてるのさ」
ダリアが司の前に立つ。
今日は白色だ。
褐色の肌とのギャップがめちゃくちゃ良い。
心の中でサムズアップをする。
それにしても三日間でよくもここまで組み手が出来るようになったものだ。
もしかして俺武術の才能あるんじゃなね?
「さてと、そろそろお昼だけど司っちはどうする?」
ダリアは司に手を差し出す。
「あぁ、いつも通り食堂っすね」
差し出された手を掴んで、司は立ち上がる。
「オッケー。またマヨオムライスとかいう奇抜な物食べるんでしょ。司っちって味覚変だよね」
ニシシと司を揶揄うように話す。
「はぁ!?マヨオムライスを愚弄するんですか!あれは完全食なんすよ!肉、野菜、米、卵全てを兼ね備えてるんですから!ん?あれ如月先輩じゃないですか?」
司が指差す方に息を切らせて二人の元に駆け寄ってくる如月先輩の姿が見える。
「確かに梅たんだね」
「た、はぁ、た、はぁ、た、はぁ、た、はぁ、大、はぁ、変!」
肩で息をしながら梅は前屈みになって、膝に手をつく。
「落ち着いて梅たん。どうしたの?」
「
「えぇ!?先輩達は?」
「他にも何箇所かで同時に
「えぇと、2年生で今すぐに出て行けそうなのは・・・。アタシ!?」
「そう!ダリアちゃんしか居ないの!」
「えぇ、でもどうしよう。先輩達みたいなゴリゴリの殲滅系の能力じゃないんだけど・・・」
梅もダリアも先輩達が居ないという危機に焦りを感じているようだ。
「なら、俺がいきましょうか?ダリア先輩に訓練してもらった今の俺なら皆さんがくるまでの足止めくらいは出来るかもしれないですし」
「まだ、1年生の司君を行かせても良いのかな・・・?」
「確かにアタシの能力よりは広い範囲で戦えるかもだけど・・・。」
梅とダリアにとっては非常にありがたい提案なのだが、1年生を行かせるという部分に不安を持っているようだ。
「悩んでる時間無いっすよ。この間にもクラスメイトが
「んー。わかった司っち任せた。すぐに2年生の殲滅系の能力持ってる誰かを追いかけさせるから。とりあえず移動にはあれを使って!」
ダリアはなんだかゴツい二輪の自転車?を指差す
「了解っす。ってかあれなんすか?」
とりあえず言われた通り二輪車に跨ってみたが、漕ぐためのペダルがない。
「この鍵を回して、ここ押す!」
二輪車が突然ブォンという音を立てて、起動する。
「んで、前に進む時はこっち握りながら、こっち回しつつ、握ってる方はちょっとずつ弱めていく」
ダリア先輩に言われた通り操作すると微速ながら前に進み始める。
「そう!最後にスピード出てきたら左足側にあるペダルをここ握りながら上げる!逆に速度遅くなったらここ握りながらペダルを踏む!以上!愛宕山まではここから標識見ていけば絶対着くから!それじゃあ、いってらー!」
大地に這うように轟音を轟かせて、司は学園を飛び出す。
「はえぇぇぇ!」
二輪車は風を切り、馬に乗って走っているくらいの速度が出る。
徐々に操作も理解してきて、司は全速力で愛宕山に向かう。