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第104話◇妖精さんの正体◇


「がはっ……ぐっ……こ、この野郎……。明らかに素人の動きじゃない……。あの車椅子野郎が……。俺は精霊になってパワーアップしてる筈なのに」


 だとしたら条件は同じだな。妖精さんスキルを手に入れてからこっち、異様に体に力が漲って身体能力は向上している。


「うぐっ……い、意識が……クソッ、このままでは」


「とっとと寝ろ、死に損ない。二度と俺達の前に姿を現すな。と言いたい所だが、その超能力は放置すると厄介だな。俺はお前だ。お前の記憶を持った俺は、こんなことで懲りるような奴じゃないことをよーく知っている」


「ああ、そうだぜっ。俺を殺さない限り、何度でも復讐しにいくんだ。日本で殺人なんかしたら普通の暮らしはできねぇ。俺はお前を追い詰める。お前は俺を止められない。残念だったな。ぎゃはははははっ、ははははっ、ぎゃーーはははははっ」


 口から放屁し続けるバカの笑いが耳障りに過ぎる。こいつ、もしかして好摩の意識と混ざってパーチクリンになってるのか?


 元のオレと、好摩と本来の自分。三人分も混ざれば頭もおかしくなるわな。


 このバカをどうやって黙らせようか。方法は色々あるが、日本国内で常識の範囲内でとなるとかなり制限される。


「今日から一日だって心安まる時間はないぜっ! 俺はいつでもヒロインを洗脳できる。次の日には誰にでも股を開くビッチに仕上げてやるよっ! たった一日で経験人数100人にして皆仲良くAVデビューも面白いなっ!」


 それにしても口から屁をぶっこくなんて珍しい生き物もいたものだ。

 まさしく珍獣だな。


 最終的に琴葉に命令すれば珍獣一匹くらいどうとでもなる。

 彼女はまったく躊躇無く処刑を実行するだろう。


 だが俺だってヒロインに手を汚させたいとは思ってない。できればこいつが自滅してくれると助かるんだが……。


「さあっ!! ほらどうしたっ! 殺してみろよっ! それともテメェの身可愛さの方が大事か? ヒロインが何人分のチンポ咥え込もうが、生きてりゃなんとでもなるってか? 俺は知ってるんだぜ? テメェはクズのフリをしてるだけで、本当はただのヘタレだってなぁ」


 こんな奴に何を言われようと特に心を動かすことはないが、こいつの言うとおり、このバカ珍獣を放置したらヒロイン達に危害を加えることは確実中の確実だ。


 仕方ない。殺すか……。いや、こいつの中の霧島がどうなるか分からんから生かしておいて魂とやらを解放しない方がいいかもしれん。


 生かさず殺さずの廃人にしてどっかに閉じ込めておくのも手だな。


「とりあえず1回黙れッ」

「ぐほっ」


 なんて人道に反した考えが、思考の99%を本気で締め始めた頃、誰かが好摩の体に近づいた。





 俺は、その声に思わず目をひん剥くことになる……。


「はいはーーーいっ! ちょうどいいのでここまでにしましょう好摩君、いえ、本物の霧島亮二さん!」


「は? な、なんだお前……美砂、いや、その喋り方、まさか」


 好摩霧島がマヌケな顔で美砂の方を指さす。恐らくそれは、美砂という人間が全てのイベントを消化し終えた状態になったと思っているのだろう。


 それは俺も同感だが、一つだけ奴と違うことを考えている。


 それは、「ひょっとしたら」と考えていた事だった。

 いや、そうであってほしくないなと思って考えないようにしていた一つの可能性。


 それは初めて『アイツ』の声と喋り方を聞いた時に、微かに頭をよぎった予測の一つ。


「いやはや、このチャンスをこっちの亮二さんに作ってもらうために、随分と苦労しました。この世界に入り込んだ異物。平和な世界を打ち壊す邪悪な魂を排除するこの瞬間をねっ!」


 そして、美砂の太陽を反射した海のような爽やかなクリアブルーの髪色が、みるみるうちに――これまた光を反射した鮮やかな煌めくチェリーピンクへと染まっていく。


 それはゲーム本編において、美砂が記憶を取り戻して本来の自分へと目覚める時に起こるイベントそのものだ。


「あちゃー。やっぱり、お前の正体って……」


「はっはっはっ! いやぁここまで隠し通すのは大変でしたよっ! お待たせしました世界の皆さんッ! 宇宙を羽ばたくアルティメットアイドルッ、ここに復活ですよー!」


 それは蘭華である。隠しヒロイン桜木蘭華が、全てのイベントを終えた時に放つセリフと全く同じだった。


「ある時は記憶喪失の女の子。またある時は今を輝く無敵のアイドル! しかして、その実体はっ!」


 本来なら喜ぶべきことだろう。実際刹那的に喜びの感情は生起しそうになった。


 だが、もう一つ気が付いてしまったことがあり、それによって歓喜は絶望へと変わっていく。


「嘘だ嘘だ嘘だ……冗談だといってくれよぉ……はぁ」


「この町の桜に宿りし神なる女の子! 花咲く季節と桜色の乙女の隠しヒロインッ! 桜木蘭華ちゃんは!」


 俺は頭を抱えるしかなかった。最後の最後で攻略していた隠しヒロインが、一番そうであってほしくない可能性に終着したことに溜め息を漏らす。


「あなたのそばにいつでもチュッチュ♡ エロ同人し放題のスキルを与えた大恩人っ! 桜の木の妖精さんなのでしたぁああああああ!!!」


 嘘であってほしかったと思う俺を、誰が責められようか……。


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