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04 ハルコンと中年の一級剣士_02

   *          *


 ハルコンの見ている傍で、中年の一級剣士は、直ぐさま行動を開始した。


 王都にある中級の常宿を出ると、わずかな荷物だけを携えて、ファイルド国東方3領のひとつであるセイントーク領ゆきの馬車に乗車した。


 即断即決、あまりの思い切りの良さに、ハルコンは思わずヒューッと口笛を吹きそうになってしまった程だ。


 今回、ハルコンは一級剣士の思念にガッチリ同調してはいるものの、「フルダイブ」だけは、ほとんど行っていない。


 そもそも、「フルダイブ」とは、精神の乗っ取りだ。やってやれなくもないが、できれば避けたい能力だとハルコンは考えている。


 だって、それはNPC達を、単なるモノ扱いしているのと同じことなんだからさ。

 前世の晴子は、まるでモノのように焼き殺されてしまった。


 そんなのは、……もう嫌なんだよ。


 一級剣士は、存在そのものが畏怖の対象であり、絶えず命を狙われる運命にあると思う。

 不測の事態に適切な行動に出られないと、死に直結する可能性すらある。


 だから、まだ慣れないウチは、思念の同調と「天啓」だけに徹するつもりなんだ。


 ハルコンは、屋敷の暖かい部屋のベビーベッドに横になりながら、その一部始終をずっと見つめ、思考を巡らせていた。


 一級剣士の視点から見える外部の世界は、まさしく中世ヨーロッパ風だったよ。


 都市を離れれば雪深い田園が広がり、森林につながっていく。そして森林を抜けると、収穫後の小麦畑に置かれた麦ロールやブドウ畑の枝々の上に、雪が降り積もる。

 これから春の収穫を控えている畑々も、まだ雪に埋まっている。


 そんな田舎の風景を、ハルコンは楽しんで眺めていた。



 電信柱もなく、道路は土道。街に近づくに連れて砂利を引き、領都に入れば石畳が広がってゆく。

 飛行機も自動車もなく、大型の工場もないので公害の恐れもなく、空気も澄み渡っている。


 今は長きに渡った戦争が終わり、束の間の平和の時代。

 各地の領都では、戦災で焼かれた家々を建て直す大工や石工達の、忙しそうにノミを打つ音があちこちから聞こえてくるんだ。


 戦後復興の上手くいっている地。相変わらず身分格差に苦しむ地、貧しい地、豊かな地、税金の多い地、少ない地。


 ハルコンの許には一級剣士の膨大な思念、思考プロセスが流れ込む。その都度反発したり、時には納得したりしながら、様々な考え方を共有することができたんだよね。


 それはとても楽しかったし、この世界を知る上で、大変参考になったと思う。


 今回、一級剣士の中年男は、とある領都で引ったくりに遭遇し、難なく犯人の青年を制圧して、老婆から大変感謝されたりしていた。


 その際に少しも心に揺らぎなく、身体がするりと動いて捌いている感じ。

 なるほど、これが達人の境地なのかなぁと。素晴らしいっ!


 ハルコンは、思わずほくそ笑んだ。

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