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「その女は、とても見目麗しく、冬の寒さにも拘わらず薄い皮鎧を身に付けた軽装で、……何でも隣国コリンドとの国境の大森林で、最近は狩りをして過ごしているとのことです」
「ふむ、……」
家令の話に、カイルズは、ここで考え込んでしまった。ハルコンの兄姉達も心配そうに父を見つめている。
ハルコンは、さて、どうしようかな? と思った。
ここで、さっそく一級剣士の頭の中に「天啓」を放り込んでみた。
「何かあったら、我がその女達を切り捨てる故、とりあえず招いてみては如何か?」
剣士は、ハルコンの「天啓」を一字一句違えることなく、カイルズに申し出た。
「剣士殿が、そう仰られるのであれば、大変心強い。その者が真の客人であるのなら、私が出迎えるべきでありましょう。剣士殿、手間になりますが、一緒にきて頂けるだろうか?」
「あぁ。我も参りますぞ!」
カイルズは家令の制止も聞かず、一級剣士と共に屋敷の門に向かっていた。
すると、夜風の吹く寒空の下、篝火の傍に群がる盗賊達の中から、若い女が前に進み出た。
「夜分に申しワケねぇです。カイルズ卿に会わせて頂きてぇのですが!」
「私がカイルズ・セイントークだ。こんな夜分に、一体何用だ?」
「えっ!? 貴方様がカイルズ卿でごぜぇますか!? ありがてぇ、ありがてぇ、……」
そう言って、深々と首を垂れる女盗賊。
ハルコンは、おそらく父は女盗賊を受け容れるのではないかと思っている。
そもそも女盗賊は、カイルズに対し、何ら敵意も害意もない。彼女の態度には、幾ばくかの謙虚さが見られるので、たぶんイケるんじゃないかなぁと。
カイルズは、ここで漸く小さくため息を吐く。
「何故、私に会いたいと申すか? それは、今宵でないとダメなのか?」
カイルズは、いつもの落ち着いた調子で訊ねていた。
「へへっ、アタイッ、ちょっち前に『天啓』を頂いたんでやすよ!」
「『天啓』……だと!?」
「ほらっ、カイルズ卿に会いにいけとね。男の子の声でやしたよ!」
それを聞いて、背筋をゾクリとさせるカイルズ。
「アタイら、皆ハルコン殿の舎弟だからっ!」
そう言って、屈託なく笑う若き女盗賊。その表情に、嘘偽りは微塵も見えない。
カイルズは、……ここで腹を括るべきとばかりに、膝を打つ。
「いいだろう。其方を屋敷に招き入れよう。残りの者は離れに部屋を用意する。暖と食事もちゃんと取らすので、……それでよろしいか?」
「ありがてぇっ! オメェらっ! ちゃんと大人しくしてろよっ!」
「「「「「「「「「「へいっ!」」」」」」」」」」
男達の野太い声が、夜空に鳴り響いた。