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まぁそうだよなぁ。何だか得体の知れないものを、隣国の、それも第三皇女殿下に宛てて送ったワケだからな。
もし、病状が悪化したら、これまで以上に両国の関係が緊張する場合だってある。
「ハルコン、あなたの送った仙薬エリクサーは、もうそろそろ到着する頃なのかしら? それとも、まだ時間には余裕があるのかしらね?」
「さて、……どうでしょうかね」
シルファー先輩が訊ねてきたが、ハルコンは曖昧に口を閉ざす。
それと同時に、隣国にいる女エルフに思念を同調させてみた。
すると、女エルフは既に帝都の宮殿に到着していた様子で、軽装の鎧をまとった騎士数名に囲まれながら、赤い絨毯の上を進んでいるところだった。
「ハルコン、……我々もこれまでのキミの活躍をよく知っているから、疑っているワケではないんだ。だが、このエリクサーというものは、ファイルド国だけではなく隣国もまた大いに欲するものだ!」
「そうですね」
ハルコンは、寮長の言葉に素直に頷いた。
「そこで、我々王宮としては、早急にその効果を確かめておきたい。エリクサーがキミの言うとおり、単なる『栄養ドリンク』程度だったとしても、それはそれで大いに活用が期待できる。だからな、ハルコン。私にもその薬剤を飲ませて貰えないだろうか?」
寮長は真剣な面持ちだ。シルファー先輩も真面目な顔で頷きながら、こっちをじっと見つめてくる。
本来なら、……もう少しだけ時間が欲しいところなのだけどなぁ。
でも、隣国の姫君の件もそう。王宮の情報収集能力もそう。
とにかく、周りは私の研究、ひいては私のことを黙って放っておいてはくれないんだね。
私は、どこの世界でも「異端」扱い。でも、地球と違ってファイルド国では、今のところVIP扱いしてくれる。
王宮は、まだ碌に結果も見ないウチから、私のことを信頼して男爵位を用意してくれた。
おそらく、今後の展開次第では、更なる特別扱いが待っているのだろう。
ハルコンは、シルファー先輩の真剣な表情をじっとみた。その王都一美しいとされる顔は、徹夜のおかげで少し青白く、目の下にも若干クマができている。
寮長もそうだ。彼もまた整った顔が青白く、もしかすると何日も寝ていない可能性すらある。
ハルコンは、ふぅ~っと、少しだけ長いため息を吐いた。
「いいでしょう。こちらの薬剤は、仙薬エリクサー『タイプB』と私は呼んでいます。これにとある成分、私は『試薬A』と呼んでいますが、それをカクテルすることで、仙薬エリクサー『タイプA』が完成します。『タイプB』は完成済み、『タイプA』は治験を若干済ませているという認識で構いません」
「「おぉ~っ!!」」
ハルコンの言葉に、シルファー先輩と寮長は笑顔で頷き合った。
ハルコンは「タイプB」の入った瓶の蓋を開けると、いつものように適量を小さなグラスに注ぎ始める。その透明な液体を、食い入るように見つめるシルファー先輩と寮長。
「それでは、寮長。こちらが『タイプB』となります。効能は先程申しましたとおり、あくまで『栄養剤』とみて構いません。まぁ風邪くらいでしたら、直ぐに治りますよ!」
ハルコンがそう言ってグラスを差し出すと、寮長はグッと固唾を飲んだ。