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「ハルコン、……後で話いいかしら? とっても大事な話があるの!」
サリナ姉のその言葉に、ハルコンは不思議になって、ひとつ頷いた。
ふと周りを見ると、ロスシルド家のイメルダが姉の話に関心を示したのか、聞き耳を立てている様子が窺えた。
ハルコンはサッと機転を利かせると、その場に立ち上がって姉の耳元に口を近づける。
「どうされましたか、姉様? 大事な話って何です?」
普段の姉はこんなに深刻な表情をしないし、笑顔の似合う少女だ。
それに、隣りのミラまで珍しくしょんぼりとしているではないか。
何だろう。何かトラブルでも起こったのだろうかと、いささか心配になった。
すると、サリナ姉もまたハルコンに耳打ちしてきた。
「悪いけど、この場で話せることじゃないの。後で、私達の(女子寮の)部屋まできてくれないかしら?」
「えぇ、構いませんよ。そんなに大事な話なら、直ぐに部屋まで伺います!」
「ありがとう、ハルコン。さすが我が弟! ホンと頼りになるわ!」
そう言って、姉サリナがニッコリと微笑んだ。
「なら、先にいくわねハルコン。私は部屋で準備して待っているから! ハルコンは食事が終わったら、ミラちゃんと後から一緒にきてね!」
「了解です、姉様」
その言葉にひとつ頷くと、姉は元きた通路を足早に戻っていった。
ハルコンは、その場に残されたミラが悄然とした雰囲気のため、とりあえず隣の空いた席に着かせる。
それから、まだ口を付けていない果汁入りの甘い牛乳の入ったコップを、ミラに手渡した。
「とりあえず、飲みなよ!」
「うん。ありがと、……」
ミラは少しだけホッとした顔をすると、急いでいて喉が渇いていたのか、素直にこくこくと飲み始めた。
ハルコンも急いで料理を口に流し込むと、全て残さず食べ終えた。
「なら、いこうか?」
「うん」
飲み終えたミラも、こくりと頷いた。
「オォ~イ、ハルコン。何か揉め事かぁ?」
先程から様子を窺っていたノーマンが、突然声をかけてきた。
ハルコンとミラは、その場でお互いにアイコンタクトを取り合うと、
「いや、大した問題じゃない」
直ぐさま否定したら、ノーマンは憮然とした顔をした。
「ウチのロスシルド領でも問題になってきている。いいから、その食器は置いとけ! オレが後で片付けといてやるから!」
ミラが驚いた表情でこくりと頷くと、ハルコンの右手首を掴んで食堂の外に誘導しようとする。
「わっ、悪いノーマン。後は頼んだ!」
「おぅ、いいってことよ。早くサリナ姉のところにいってやんな!」
そう言って、ノーマンはニィッと笑った。