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「ほらほら、ステラ殿下。ハルコンの左手は私のものですのよ。殿下の分は、右手だけですわ!」
「はいはい、シルファー様。ハルコンの右手こそ私のものですのよ。それなのに、私から左手だけでは飽き足らず、右手まで奪われようとされてますのね?」
ハルコンは今まさに、左腕にシルファー先輩、右腕にステラ殿下ご自身が胸元でしっかり抱き付いていらっしゃる状態にある。
「ほらほらぁ、殿下、ハルコンが嫌がっていますわよ。もう少し離れたら如何ですか?」
「いえいえ、シルファー様こそ、ハルコンよりもお姉さんなのですから、もう少しご遠慮なされたらよろしいのでは?」
お互いにそう仰って、ハルコンの両腕をがっしりと掴んで離さない。
「あのぉ~っ、お二方ぁ~っ、……」
「「あらぁ~っ、何かしらぁ?」」
まさしく三国一の美少女が、それぞれの国を代表して、こちらの右腕と左腕をがっちりホールドされていらっしゃる。
とほほ、……。こうなることは、ワカっていたんだよなぁと、ハルコンは思った。
今、まさにハルコンは2匹の女豹、もしくは2頭の猛禽類と化したお二人に挟撃されてしまって、もう内心へろへろ状態。
でも、いつもさりげなく助けてくれるミラが、ここにはいないのだ。
「もぉ~うっ、勘弁して下さいよぉ~っ!」と、思わず叫び声を上げたくなるほどだ。
多くの学生達、王立学校祭に見学にきた一般の客達は、まさに両手に花状態のハルコンを生暖かく見つめている。
「いよっ、仲がいいね! お三方っ!」と、囃し立てる中年のおじさんがいたり、……。
「ママァ、あれなぁにぃ?」と、小さなお子さんが不思議そうにしていたり、……。
「下々の者は、与り知らぬことがあってもいいのよ!」と、その母親が優しく諭していたりする。
皆クスクスと笑っていて、とても和やかな雰囲気に包まれていた。
だが、……ハルコンは、そんな一般客達の中に、時折刺すような視線を感じた。
そちらの方を、周囲にいるNPCの視野を借りながら、じっと窺ってみる。
すると、どうやらその者達は、両国の王室と皇室がそれぞれの姫君に配置した衛士達のようだ。
身なりは一般人のそれだが、目つきや身のこなしが素人のそれではない。
なるほど。全て両国のロイヤルファミリーに筒抜けなのね。
「もうっ、お二人ともっ。私も男の子なのですから、そんなにくっ付かれては困りますっ!」
「「あらぁ~っ、恥ずかしいの、ハルコン?」」
ニマニマと絶世の美少女2人が笑うので、ハルコンは「もうっ、知りませんっ!」といって、少し怒った素振りを見せたのだが、……。
「「キャァーッ、かわいいっ!!」」
それが、2人の姫君の琴線に触れたのだろうか? 2人とも、更に腕を強く抱き締めてこられた。
ハルコンは顔を真っ赤にさせながらも、シルファー先輩とステラ殿下の2人を、フラワーアレンジメントの決勝会場まで、漸くお連れすることができた。