目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

最終話 終焉、帰還、そして始まり

あれから数年後――


佐伯は、新たな町で刑事を続けていた。

あの事件のことを思い出すことは少なくなった。


それでも、時折、夢の中であの火葬場の景色が蘇る。


そして、その夢の最後には、いつも成瀬が立っていた。


彼は、じっとこちらを見つめている。

まるで、何かを伝えようとしているかのように――。


ある日、佐伯のもとに奇妙な事件の報告が入る。


「廃ビルの中で、おかしな遺体が見つかりました」


佐伯の表情がこわばる。


「……まさか……?」


彼女はすぐに現場へ向かった。


ビルの奥の暗がりに横たわる遺体。



その遺体の唇は黒い糸で不自然なほど強く縫い合わされていた。



まったく同じだ。


「……ありえない。」


佐伯の背筋が凍る。


黄泉のモノは、町の外へと広がってしまったのか?


黄泉の世界への道は閉ざされたはずだった。


もし、道が再び開いたとしたら――?




ふと、背後で足音が響いた。


コツ……コツ……


ゆっくりと、確実にこちらへ向かってくる音。


佐伯は息を呑みながら振り向く。


そして――闇の中に "誰か" が立っていた。



「……お前は…」



彼女の声が震える。


ビルの薄暗い光の下、そこに立っていたのは――


黄泉の世界に吸い込まれていったはずの成瀬だった。



「佐伯。」



彼は静かに佇んでいた。


変わらない顔。

変わらない声。


しかし、それが本当に "成瀬" なのかは分からない。


佐伯は一歩、慎重に後ずさる。


「……成瀬……なぜここに……」


佐伯は腰の拳銃に手をかける。


「お前……人なのか?」


成瀬は微かに笑う。


「さあな。」


成瀬は軽い笑みを浮かべた。


「準備はできているか?」


「……何の?」


成瀬は、ゆっくりと佐伯の方へ歩み寄った。



「これから――戦いになるぞ。」



(完)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?