目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第56話 まだ腹6分目くらいなので平気です

【≪アルミちゃん≫こっちです。早く早く】


 店内は昼間だというのにけっこうな人で賑わっていた。

 さすが新規オープンしたばかりのことはあるね。それにさっきのお店よりもペット連れのお客さんが多いー。ネコとイヌが多いけれど、爬虫類とか、鳥……ちょっと大型のペットはテラス席で頼みますよー。ペットと一緒に入れる酒場バルだったっけか? 看板に偽りなしってところかな。


【≪アルミちゃん≫何しているんですか~?】


「あー、はいはい。今行きますよ」


 そんなに大声で呼ばなくても。

 みんなが振り返ってきて恥ずかしいじゃない。


 ところで、≪ニャントリン≫さんはどこかな。

 先に話しかけないと。


 黒い集団、黒い集団……。あ、いた! ホントにいたよー。助かったわー。


 ≪サポちゃん≫の呼ぶ声を無視して、猫獣人たちの集まるテーブルへ直行する。


「すみませーん!≪ニャントリン≫さんはどなたですか?」


「わしじゃが、何か用かね?」


「あー、≪ニャントリン≫さん! ようやく会えたー! 探しましたよー。わたし、同じ『猫の眼』ギルド所属の≪アルミちゃん≫です!」


 ホントに黒ネコさんだー。

 依頼書の通り、ネコ缶食べてるね!


「うわさのルーキーじゃな。はじめまして、≪ニャントリン≫じゃ。して、わしを探していたようじゃが何用かな?」


 小さなお耳がピクピクと動く。

 連鎖するように周りの黒ネコさんたちもお耳がピクピク。

 何この集団! かわいすぎるー♡


「えっとですね、≪ニャンニャン姫≫から特別クエストを受注しまして、人探しの最中なんです。この2番目の依頼の方は、≪ニャントリン≫さんですよね」


 と、依頼書を開いてみせる。


----------------------------------

 種族 :獣人族(猫獣人)

 性別 :男

 年齢 :52

 職業 :青魔導士ウィザード/Lv.74

 所属 :猫の眼ギルド

 特徴 :毛の色は黒色。耳が小さい。

 ヒント:ネコ缶が好き。

----------------------------------


「わしのことじゃな。この手のクエストはひさしぶりじゃわい。すっかり忘れておったが、通達が来ておったな。そうか、お前さんは姫に気に入られたのか」


 ≪ニャントリン≫さんは目を細めてわたしのほうを見つめると、自分の髭をピンと指ではじいた。


「ですかねー? クエストを達成したら≪ニャンニャン姫≫の故郷のことを教えてくれるらしいです!」


「ほう、姫の故郷ということは、わしたちの故郷でもあるわけだが」


 と、周りの黒ネコさんたちに視線を向ける。


「ああ、ずいぶん遠くへきたもんだ」


「年に1度の同窓会は楽しいが、ここは遠くてかなわんな」


「来年は地元でやろうぞ」


「姫にも一度お帰りいただきたいものですな」


「皆、姫に会いたがっておる」


「ワシの爺様は生の姫を見ずに死ねるかと……元気に畑を耕しておるわい」


 わいわいと黒ネコのおじいちゃんたちの会話が始まってしまった。

 みんな同郷の、しかも同窓会だったのね。それにしてもみなさん兄弟かと思うくらいそっくりで……。


「この子は姫のクエスト中じゃ。うかつなことはしゃべるでない」


 あっちこっちで故郷の話が始まりそうになっているところを、≪ニャントリン≫さんが一喝する。


「すまんかった」


「姫に睨まれたらかなわぬからな」


「黙っていよう」


「ほかの話題が良いな」


「さっきの店もうまかったが、この店の料理もうまい」


「良い職人が集まっている街だな」


 やっぱりみなさん≪ニャンニャン姫≫のことを怖がっているみたいね。

 ≪アサダ≫さんも震えていたし、≪ニャンニャン姫≫ってやさしそうなのに実は厳しい人なのかな? 頼めば気前よくモフモフさせてくれるのになー。


【それは≪アルミちゃん≫が姫のお気に入りだからではないかと】


 びっくりした!

 ≪サポちゃん≫、急にしっぽで顔を撫でるのはやめてって。ぞわってしたでしょ!


【席にぜんぜん来ないのが悪いです。≪ニャントリン≫さんと無事会えたなら、さっさと豚肉ステーキを食べましょうよ】


 目的が変わっちゃってるじゃん……。

 わたしたちは特別クエストをクリアするためにここにいるんだよ?


【もちろんです。このあと12時間みっちり働くためには、豚肉ステーキで英気を養わないと持ちませんよ】


 さっきもネコ缶と魚肉ソーセージ食べたでしょ……。

 食べ過ぎで動けなくなっても知らないよ?


【まだ腹6分目くらいなので平気です】


 大飯食らいが……。

 自分の食い扶持くらいは自分で稼いでよね。


【広告費はわが社の持ち出しですが……食費?】


 今それ持ち出すのずるくない⁉

 わたしはちゃんと契約通り働いてますぅ。


【知ってますぅ。私もサポートAIとしてがんばってますぅ。だからご飯はたくさん食べさせてください!】


 ……わかったってば。

 じゃあ、わたしたちのテーブルのほうに行こうか。


「≪ニャントリン≫さん、ありがとうございました! みなさんも同窓会お邪魔しましたー」


 黒ネコさんたちに手を振って別れる。


「≪アルミちゃん≫、今度一緒に冒険に行こうじゃないか。うわさのルーキーをみっちり扱いてやろう」


 ≪ニャントリン≫さんがワイングラスを片手に上機嫌な様子だ。


「お手柔らかにお願いしますー」


 ≪ニャントリン≫さんお出かけするってことは……やっぱり早朝出発のハードコースなのかなー。

 早起きは苦手だよ……。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?