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第103話 リアルに「はわわ」っていう人初めて見たわ

 一度は気合いを見せたものの、やっぱり腰が引けている≪セリー≫。まあまあ強引に手を引っ張りつつ、『メルクザード廃坑』地下1階のマップ内を探索中でーす。


「お! ほら、さっそく正面からゴーストがきたね」


 かなりちっちゃい浮遊霊だ。

『メルクザード廃坑』地下1階だと、こういう初心者向けのゴースト・アンデッド系のモンスターしかいないけれどね。


「はわわわわわわわ」


 いや、慌て過ぎだから。

 リアルに「はわわ」っていう人初めて見たわ。何このかわいい生き物……。


「ふわふわ浮いているだけのノンアクティブモンスターだし、向こうから攻撃はしてこないよ」


 実体もないし、なんなら通り抜けられちゃう。

 焦らずちゃんと準備を整えてから攻撃しようね。


「どどどどどどどどっどっどっ」


 ドドド?

 キングエンジン?


「どうすればぁぁぁぁぁっ、うえっ、うえっ……うえ~っ」


 ちょっとー、吐き気を催してるじゃないのさ……。

 そんなに緊張しなくても……。


「とりあえずさ、素手は良くないから杖を装備しよう? 焦らなくて良いから順番に1個ずつね」


「う、うん……」


 ≪セリー≫は大きく息を吐いてから、杖を実体化させる。

 身の丈ほどもある大きな杖――スターライトワンドだ。杖の先に星のアーティファクトがついているのが特徴の両手武器。聖属性攻撃に有利な杖で、後方支援向きというよりは、近距離攻撃職と組んで前線で戦う『高位神官ハイプリースト』や『大司教アークビショップ』に好まれる。


 まあ、きっとこの杖を選んだのは≪サリー≫さんだろうし、≪セリー≫のステータスなら、大抵のゴースト・アンデッド系のモンスターは、スターライトワンドの先で突けば消滅させられるようにっていう配慮だろうね。


「杖を握ったらまずは大きく深呼吸ー」


「深呼吸……。ひっひっふ~~~」


 それはラマーズ法やないかーい……って、天然でやっているんだろうなあ。さすがにこの余裕のなさでふざけているとは思えないし。


「≪セリー≫、一応言っておくけれど、1個ずつボケなくて大丈夫だからね?」


「わ、私は大丈夫よ! お姉さまこそ強敵を前にしてビビっているのかしら⁉」


 うん、それは触ったら消えちゃうゴーストを前にして言うセリフじゃないよね。

 せめて地下10階まで降りて、エルダーリッチの前に立ってから言おうか。


「ほらー、≪セリー≫がダラダラしているから、ゴーストが集まってきちゃったよ?」


 1匹、2匹、3匹。

 ノンアクティブモンスターとはいえ、そこはモンスター。聖者の魔力に反応して吸い寄せられるようにして集まってくるのだ。

 動きはゆっくりだし、集まってきたからって悪さをするわけじゃないんだけどね。


「どどどどどどど」


 またキングエンジンに戻っちゃった。


「はいはい、落ち着いて1体ずつ対応しよう。ターゲットを絞ってターンアンデッドをしていけば良いからね?」


 杖の先で突くのは、もうちょっと慣れてからかな。あとで教えてあげようかな。


「ターンアンデッド……いいいいいいくわ!」


 ≪セリー≫が杖を両手で握り直し、ゴーストに向けて構える。

 体内に魔力の高まりを確認。


 ん? ちょっと魔力を溜め過ぎじゃない?

 ターンアンデッドなんて、詠唱なしでポンポン撃つものだからね?


「セイクリッド~~~ターンアンデッドぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ちょっ、大技⁉」


 ≪セリー≫が唱えたのはターンアンデッドではなく、その上位スキルのセイクリッド・ターンアンデッド。

 なんならエルダーリッチにも効果がある――というか、エルダーリッチレベルの難敵にダメージを与えるための大技、なんだけど……。


「はぁはぁはぁ……。お姉さま……私、がんばったよ……」


「あー、うん。すごいがんばったね……。だけど少し……がんばりすぎかも……? 地下1階フロア中のゴースト・アンデッドが全部消滅しちゃったじゃない……」


 オーバーキルにもほどがあるって。

 部屋に蜘蛛が出たからって、家ごと燃やしちゃうくらいやり過ぎ……。


【≪セリー≫さん、良いですね~。派手な演出は大歓迎です。とても良い絵が撮れました。どんどんお願いします】


 ≪サポちゃん≫は大変喜んでいますけれども。

 大技はMPの消費も激しいし、乱発できるものじゃないから、ちゃんと相手を見て適切なスキルを使うのも重要な訓練なのですよ……。


「次からは1体ずつ確実に倒す練習をしようね」


 しばらく時間が経てば、ゴーストたちもリポップすると思うから。


「うぅ……。まだ戦わないとダメ?」


 涙目じゃん。

 まだゴーストを倒しただけなのにこれで終われるわけないでしょ……。


「まだまだがんばらないとダメかな。成功体験が足りないでしょ?≪アサダ≫さんの調合にはまだ時間がかかりそうだし、その間はここで特訓しようね」


「怖いの……」


 服の裾を引っ張らないで。

 これお気に入りのチュニックだから! 裾のところの小さいリボンがかわいいのー。一目惚れして買っちゃった♪


【そんな布にお金をかけるなら、もっと高級ネコ缶を買ってください】


 あ、また人の心の声に……。

 だからー、布じゃなくてファッションなの!

配信者ストリーマー』なんだから見た目に気を使わないとダメでしょ? こういうのって衣装代ってことで必要経費として落ちないの?


【私が認めれば落ちますが】


 だったら認めなさいよ!


【でも布ですよ?】


 布のおかげで視聴者が増えることもあるの!


【そういうものですか】


 そういうものです!


【では前向きに検討したいと思います】


 即決せんのかーい!


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