目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第27話 あったらいいなをカタチにするハカセ製薬

「ただいま~。あれっ、みんなどうしたの?」


 宇宙船に帰還した俺とカトー氏は、船内の異様な空気に気がついた。

 何かトラブルでも起きているのだろうか。


「ハカセ! イチローにも食事を!」


 サクラがそう叫んだので、俺は一瞬で状況を把握できた。

 そう、ハカセが料理をしてしまったのだと。


「イチロー、最悪なタイミングで戻ってきてしまったようだな……」


「そうだね、もっと遊んでくればよかった……」


 俺とカトー氏がこそこそ話していると、サクラがやってきて俺の肩をポンと叩き、耳元で囁いた。


「イチロー、あとは任せた……」


 えっ、ちょっと……サクラ氏!

 まさか逃げるつもり!?


「イチロー、食事持ってきたよ。あとね、イチローが好きなコーラを再現してみたの。まだ完全なレシピじゃないけど、8割方いけてると思う」


 くっ、これは覚悟を決めるしかないのか……。

 ならば……せめて、コーラから飲んでみるか。


 ゴクゴク……。

 あれっ、これは意外と大丈夫みたいだ。

 でも、なんか違和感がすごい。


「うーん、美味しいけど……結構違うかな。別な飲み物だと思えば普通に飲めるけど」


「……やっぱり……イチローもそう言うのね」


 あ、やばい。

 ちょっと言い過ぎたかも……。


「あ、いや、ちゃんと飲めるっていうか……」


 しまった。

 全然フォローになってなかった。


「うわあぁぁぁぁん。みんな、私の料理を食べたくないんだ~。サクラも逃げちゃったし、イチローまでマズイって言った……」


 いや、マズイまでは言ってないんだけど。

 ちょっと思ってはいたけどさ。


 というか、俺たちがハカセの料理をマズイって思ってたことが、既にバレていたなんて。

 サクラ氏が逃げたのも、全部分かってるじゃん……。

 こんなに泣かせてしまって、ちょっと可愛そうなことをしたな……。


「ハカセ、落ち着いて! そうだ、俺が料理を教えようか」


「ぐすっぐすっ……。じゃあ、聞くけど、私とイチローの料理は何が違うの?」


「ハカセはレシピ通りに作ってないでしょ。レシピってのはね、誰が作っても美味しく作れるようになってるんだよ」


「レシピは見て作ってるわよ!」


「でもさ、細かい所はレシピ通りじゃないよね。例えば火加減とかね。弱火を強火にしてみたり、自己流のアレンジをしているように見えるよ」


「そんなの、些細な違いじゃない!」


「ハカセ、料理ってのは科学と同じなんだよ。薬品の調合をするとき、なぜ分量をきちんと測るかを考えてごらん」


 俺がそう言うと、ハカセは黙り込んだ。

 ハカセみたいなタイプは科学に例えるのが一番だと思ったのだが、どうだろうか。


「……そうね、イチローの言う通りだよ。化学実験だと思えばいいのよね!」


 どうやら上手くいったみたいだけど、新たな心配も若干出てきた。

 俺の予想だけど、次回のコーラはきっとビーカーかフラスコに入っているんじゃないかな。


 ――


 それから数日。


 俺が船内を歩いていると、ハカセが研究室に入ろうとしているのを見かけた。

 声をかけようとしたのだけど、目隠しされた地球人らしき人物を連れているのに気付き、ためらってしまった。


 えっ、何?

 何で地球人が船内にいるの?


 俺は意を決し、ハカセの研究室を覗いてみることにした。


「さあ、コーラのレシピを教えてちょうだい」


「だれが……話すものか!」


 これはただならぬ雰囲気……。


「ハカセ、何やってんだよ?」


「イチロー、丁度いい所に来たわね。今ね、この人からコーラのレシピを聞き出そうと思ってるところなの」


「一体なんのために?」


「この間、イチローが教えてくれたんじゃない。レシピ通りに作れば美味しいんだって。だから、コーラのレシピを知ってる人を連れてきたのよ」


 えっ、まさか俺が原因なの?

 またサクラ氏から色々言われるじゃん……。


「そりゃあ言ったけどさ、そう簡単に教えてもらえる訳ないじゃん。彼らだって商売なんだから」


「それは既に想定済みよ」


 ハカセはそう言うと、棚から注射器と薬品を取り出した。

 もう、嫌な予感しかしない。


「これはね、地球で使われている自白剤の300倍の効果がある薬なの。名付けて『ハキタクナール』よ!」


 だ、だせえ!

 ダサすぎて冷静な思考を一瞬失ったのだが、300倍って……。


「ちょっと待て、まさか……それを使ってレシピを聞き出そうとか思ってないよね?」


「そのまさかだけど?」


 ハカセは注射器に薬品を入れると、拘束されている男性に容赦なく打ち込んだ。


「ぐあぁぁぁぁ」


「さあ、コーラのレシピを教えて!」


「く、口が裂けても言うものか!」


「そ、そんな……私の『ハキタクナール』が効かないなんて! いや、そんなはずはないわ。よし、もう一本よ!」


 ハカセはさらに注射を打ち込んだ。

 拘束されている男性は白目を向いて、ぶつぶつ呟いている。


「ハカセ! もうダメだ。これ以上やったら、死んでしまうだろ!」


「イチロー、ちょっと黙って!」


「ひき肉……たくあん……しおから……ジャム……にぼし……大福……味噌……を煮て、セミの抜け殻……」


 ハキタクナールの効果なのか、ついにレシピをボソボソ話し始めた。

 えっ? コーラってそんな材料なの?

 っていうか、どこかで聞いたことのあるレシピの気がするんだけど、どうしても思い出せない。


「ふむふむ……なるほど……これで再現できる!」


 こうして、門外不出だったはずのレシピはついにハカセの手に渡ってしまったのだ……。

 唯一良かったことは、拘束されていた男性がハカセの作った『記憶を消す機械』で記憶を消され、元の場所に戻されことくらいだ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?