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第34話 肝心なところで緊張感を壊す人っていますよね

 私、ボスはサクラ、ナカマツと共に都内にあるレンタル会議室へ来ている。

 目的はもちろん、二階堂と名乗る男性との面会だ。


 予定時間の5分前に彼はやってきた。

 黒のスーツ姿で現れたその男性は物静かで礼儀正しい青年に見えた。

 戦闘力は……『25万』だと!

 カトーよりはるかに強いじゃないか。

 出発前にナミが私のために用意してくれた、『戦闘力が分かるサングラス』がさっそく役に立った。


「二階堂さん、こんにちは」


 サクラが礼儀正しく挨拶をした。

 ふむ、やろうと思えばできるのか。


「サクラさん、またお会いできて嬉しいです。そちらはお仲間でしょうか」


「そうです。私たちのリーダーと医師を連れてきました」


「はじめまして、ボスと呼んでください」


 言ってみてから気付いたのだけど、私のコードネームはこういう場に向いていないな。

 二階堂さん、驚いているじゃないか。


「えっ? ボス……ですか?」


「私たちはコードネームを使っているのです。変な感じで申し訳ない」


「私はナカマツと申します。医師をしていますので、今日は二階堂さんの血液を分析させていただくために来ました」


「はい、サクラさんから聞いています。さっそく採血をしましょうか。分析結果によって話が大分変わりますので」


「では、さっそく……」


 ナカマツはカバンから注射器を取り出し、採血を行った後、携帯型の分析機に入れた。

 5分ほどで結果が出るらしいので、それまでの間はサクラから聞いていた話の確認でもしようと思う。


「分析結果が出るまで、少し確認をさせてほしい。あなたの星でも殺人ウィルスで絶滅をしたと聞いているが、あなたは何故生き残ったのでしょうか」


「理由は分かりません。その頃、別の……不治の病にも罹っていたのですが、どういう訳か両方の病を同時に克服することができたのです。ただ、同じ状況で助かった者は他におりませんでしたから、単に運が良かっただけなのかもしれません」


 なんということだ……。

 私たちとほぼ同じ状況ではないか。こんな偶然があるのだろうか。


「驚いたな……実は私たちも、殺人ウィルスに罹患したとき、他の病に罹っていたのです。他の星でも同じようなことが起こっていたなんて……不思議なものですな」


「そうですね、私も驚いています。まさかとは思いますが、同じ連中による仕業という可能性もあります」


「同じ連中? それはどういう意味でしょうか」


「私の星にウィルスをバラ撒いたのは、異星人ですよ。名前は知りませんが、資源を採取することを目的に様々な惑星で同様の虐殺をしていると聞きました」


「資源? そんなものは生物がいない星でも可能ではないか?」


「彼らが求めているのは、レアな物質だけでなく、文明が生み出した発明品も含まれるのですよ。このような方法で戦力の増強を図っているのだそうです」


「要するに宇宙海賊ということか……」


 そのとき、分析をしていたナカマツが大きな声を出して立ち上がった。


「ボ……ボス……。分析結果が……出ました。私たちの抗体と二階堂さんの抗体はほぼ一致しています……。つまり、私たちの星を襲ったウィルスと二階堂さんの星を襲ったウィルスは……高い確率で同じものです!」


「なんということ……私は、あの殺人ウィルスは戦争で使われた生物兵器だと思い込んでいたというのか……」


「私もそう思ってはいたのですが、もし生物兵器だとしたら……ワクチンを持っているはずなので、少なくとも使った国は生き残るはずなんですよ」


 そうだ、ナカマツが言うとおりだ。

 私は政府公式の情報から生物兵器だと知ったのだが、政府も激しい世界大戦の最中だったこともあり、敵国からの攻撃だと誤認していたのかもしれない。


「やはり、そうでしたか……。私の願いは彼らに対し、一矢報いることでしたが、それは叶わないと思っていました。皆さまと出会うまでは……」


「私たちと一緒にいれば、仇を討てる……と?」


「サクラさんから聞いた情報をもとに推測すると、奴らは皆さまの星を襲った後に、私の星を襲いました。そして、この地球で私たちが出会ったということは……奴らの侵攻ルート的に、いずれ地球に現れる可能性があると考えます」


「つまり……敵の侵攻ルートは、我々が地球へ来たルートと似ているということか……」


「そうです。確実ではありませんが、奴らが地球を攻撃する可能性があります。その機会を逃さなければ、共に仇を討てるということです」


 これは非常に魅力的な話だ。彼の言うことは筋が通っているし、実際に地球が攻撃される可能性はそれなりにあると思われる。

 だが、私たちには……特効薬を探すという最大の目的がある。


「仇か……私とて討てるものなら、討ちたいと思うが、実は私たちには移住以外にも目的があるのだよ」


「その目的とはなんでしょうか。私でできることであれば、できる限りの手伝いをさせていただきたい」


「私たちは殺人ウィルスから回復した際に副作用が出てね……これの特効薬を探すのが最優先なのだ。申し出はありがたいのだが、副作用は他言できないのだ。悪く思わないでもらいたい」


「そういう事情でしたら仕方がありませんね。ですが、その特効薬を地球で探す間だけでも、移住してはいかがでしょうか。サクラさんから聞いていると思いますが、私は同志を求めているのです」


 二階堂さんはそう言うと、私の前で深々と頭を下げた。

 今までの話の内容を考えると、彼は私たちの味方となりうる人物だと思う。


「分かりました。今この場で結論を話すことはできませんが、仲間と話し合って決めることにします」


「ありがとうございます。何度も言うようですが、私にできることであれば何でもお申し付けください」


 ぐう~。


 ん? 何の音だ?


「あ、ごめん。難しい話を聞いていたらお腹が空いてきちゃった。そういえば、二階堂さん、先日の約束を覚えてる?」


 サクラの腹が鳴ったのか……。

 緊張感が台無しじゃないか。


「もちろんです。では、皆で食事に行きませんか。サクラさんとの約束もありますしね」


 サクラとの約束……?

 もう、嫌な予感しかしないのだが。


「よし、行こう。ほら、ボス、ナカマツ! 飯に行くよ!」


 ――


 サクラに背中を押され、二階堂さんに連れられて行った先はラーメン屋だった。

 私はラーメンというものを食べたことはないのだが、イチローのお気に入りらしいことは知っている。


「へい、らっしゃい!」


 元気のいい店主に迎えられて、私たちは店内に入った。この店は『家系』という系統に分類されているらしい。

 私とナカマツは普通のラーメンを注文したのだが、サクラと二階堂さんは『大食いチャレンジ』という、見ただけで胸焼けしそうなメニューを注文した。


「二階堂さん、これで決着をつけるのね!」


「そうです。これを完食すれば賞金も出るのです。まさに二度オイシイといったところですね」


 私は理解した。

 この二人は大食い対決をするつもりなのだ!


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